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ラハフ・シャニ&ミュンヘン・フィル、ディスク第1作はシェーンベルク“ペレアスとメリザンド”、さらにマーラー交響曲全集など盛りだくさんの計画

 2026年5月、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は次期首席指揮者ラハフ・シャニ(1989年、テルアビブ生まれのイスラエル人)と最初のアジア・ツアーを成功させた。正式就任は9月だが、ロシアのプーチン大統領と親密な関係にある前任者ワレリー・ゲルギエフがウクライナ侵攻直後の2022年に解任されたため、シャニは〈前倒し〉の形で事実上のシェフ業務をこなしてきた。

 「とりわけ今シーズンは9月の本格スタート後の芸術上の展開を見据え、とことん集中して共演を重ねています」。6月には2018年以来務めてきたロッテルダム・フィルの首席指揮者を退き、母国のイスラエル・フィル音楽監督とミュンヘン・フィルの仕事に集中する。「ロッテルダムは若い私に最初のシェフ・ポストを与えてくれた楽団であり、退任後も定期的に客演します。近年は客演自体を絞り、ベルリン・フィルとウィーン・フィル以外はミュンヘン、イスラエル、ロッテルダムに限定していくつもりです」

 ロッテルダムとの最後のセッション録音はオランダの作曲家ワーヘナールの“演奏会用序曲シラノ・ド・ベルジュラック”とドヴォルザークの“交響曲第9番 新世界より”のカップリング(ワーナー)だ。「10年間の共同作業の成果を示す、磨き抜かれた響きをお楽しみください」

LAHAV SHANI, ROTTERDAM PHILHARMONIC ORCHESTRA 『ドヴォルザーク:交響曲第9番《新世界より》他』 Warner Classics(2026)

 5月11日、東京・サントリーホールでの演奏会はシャニとミュンヘン・フィルの関係を端的に示すプログラムだった。ベートーヴェン“ピアノ協奏曲第1番”のソリスト、チョ・ソンジンはシャニが初めてミュンヘン・フィルを指揮した際の共演者(ラヴェルの両手の協奏曲)、マーラー“交響曲第1番”は「交響曲全集の完成を目指す試金石」の意味を持つ。

 とりわけ〈巨人〉の愛称で知られるマーラー最初の交響曲では第1楽章提示部の繰り返しを行い、慌てず騒がず、様々な音型やハーモニーを丹念に引き出し、弱音を基調に何段階もの音量を設定して最後の爆発まで息の長いフレーズを積み重ねた。コーダではホルンだけでなくトロンボーンも立ち上がり、輝かしいクライマックスを築いた。演奏時間は56分。かつてミュンヘン・フィルに君臨した音楽総監督、セルジュ・チェリビダッケを彷彿とさせる悠然さとも言える。

 「私はオーケストラの中に自分と共有できる箇所を丹念に見つけ、1人1人の音をよく聴きながらブレスを整えていきます。とりわけサントリーホールのように優れた音響の演奏会場では、個々の和音をじっくりと弾きこむことが可能です。ミュンヘン・フィル時代のチェリビダッケのテンポは確かに遅かったですが、おそらく〈このオーケストラなら隅々までじっくり、克明に再現することができる〉と確信していたのでしょう」

 南ドイツのバイエルン州の州都ミュンヘンの市営オーケストラ、ミュンヘン・フィルの音色は伝統的に、ベルリン・フィルやハンブルクのエルプ・フィル(旧北ドイツ放送響)など北ドイツの楽団に比べて明るく柔らかい。ルドルフ・ケンペやチェリビダッケの時代から不変の響きは今回も確実に維持され、シャニもそれを最大限に生かしていた。「今日、世界中のオーケストラの音色が似たり寄ったりとなる中、ミュンヘン・フィルでは世代交代に時間をかけ、長く育まれてきた伝統を若手が十分に理解、音のアイデンティティーを守っていこうという意識が高いのです」

 ミュンヘン・フィルとのディスク第1作は2026年1月に収録したシェーンベルクの“交響詩 ペレアスとメリザンド”(MPHIL/ワーナー)。「後期ロマン派のエモーションの中に後の展開を予感させる新しいハーモニーをしのばせた傑作です」。さらに「“交響曲第8番(一千人の交響曲)”の世界初演のみならず他の交響曲の再演も含め、指揮者マーラーがミュンヘン・フィルを指揮した史実に立ち返って交響曲を1曲ずつ演奏会にかけ、ライヴ録音に基づくマーラー交響曲全集の完成も目指しています」。2027年11月には、早くも次の日本公演が決まっている。

 


ラハフ・シャニ(Lahav Shani)
1989年、テルアビブ生まれ。バレンボイムの薫陶を受け、2013年にバンベルクのマーラー国際指揮者コンクールで優勝。2016年にロッテルダム・フィルにデビューし、2か月後には首席指揮者に任命された。2020年からはイスラエル・フィルの音楽監督に、23年にはミュンヘン・フィルの次期首席指揮者に任命され、26年9月にはそのポストに就く。ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管、ロンドン響、シカゴ響などにも客演。ピアニストとしても活躍している。