ブルックナー入門にもオススメ! 日本独自のハイレゾ化で往年の名盤が最高の音質で蘇る!
アントン・ブルックナー(1824~1896)はアルプスの名峰にも例えられるスケール雄大かつ音楽的絶景が次々に現れるような交響曲を11曲(番号付きは9曲)生み出したオーストリアの大作曲家である。2024年は彼の生誕200年にあたり記念盤や演奏会が目白押しだが、日本のワーナーミュージックは本国が保有する録音資産に目を付け、13タイトルをオリジナルマスターから日本独自企画でハイレゾ化し、SACDハイブリッド盤でのリリースを敢行する。指揮者はムーティ、テイト、チェリビダッケ、パッパーノなど新旧の巨匠揃い。リマスター担当はタワーレコード企画盤〈Definition Series〉でお馴染みの名エンジニア、藤田厚生氏と申し分の無い内容だ。
筆者は第1回発売のテイト指揮ロッテルダム・フィルによる交響曲第9番のDSDファイルを聴いて驚嘆した。過去に発売されたCDとは全く別物の、雄大なパースペクティヴと深いハーモニー感をもったサウンドにより、演奏の素晴らしさが一層心耳に迫ってきたからだ。1990年のデジタル録音に最新技術を駆使して倍音やハイレゾ音域を再構築したものだが、その絶大な効果をまざまざと実感したのである。ブルックナーの絶筆となった第9番は、3つの楽章がヒエロニムス・ボスの「快楽の園」のような三幅対(現世→地獄→楽園)を示した傑作。テイトは、この作品の音楽的な美しさを情感豊かな弦楽器の歌、ニュアンスに富んだ木管の応答、渋く落ち着いた金管の合奏、そしてティンパニの意味深い打ち込みにより、この上なく見事に表現している。
同じ第1回発売のムーティ指揮ベルリン・フィルによる交響曲第4番と第6番はファンにはお馴染みの名盤だが、1980年代のデジタル初期の録音と、オフマイク的な収録により、隔靴掻痒の感なしとは言えなかった。しかし、今回のハイレゾ化でずっと雰囲気が増し、ふっくらとしたハーモニーは見通しが良くなり、実際のコンサート会場で聴くような自然なサウンドを獲得した。ムーティの指揮はオーソドックスで、ベルリン・フィルの絶妙にブレンドされた響きを自在に駆使して、譜面を無理なく、豊かに鳴り響かせており、安心して音楽に浸ることができる。“ロマンティック”のタイトルをもつ第4番は誰でも親しめる内容をもっているし、第6番も映画音楽のようにダイナミックな開始と味わい深い旋律美を併せ持った隠れ名作。つまり第1回発売の3枚は、曲といい演奏といいブルックナー入門に好適で、全ての音楽ファンにお薦めしたい。
クラシック音楽の醍醐味の一つは同曲異演の聴き比べ。第2回発売のルーマニア出身の伝説的な巨匠チェリビダッケ(12枚組の大冊!)は同じ曲の2枚目、3枚目に相応しい個性的演奏を示している。彼は極めて遅いテンポとダイナミクスの広大な演奏で知られ、その弱音はノイズ(環境音)との境目が見えないほど。晩年の坂本龍一氏はその「禅的な静けさ」に惹かれていたと告白している(「commmons: schola vol.18 ピアノへの旅」アルテスパブリッシング)。十分に作品を知った後、チェリビダッケを体験すると別世界へ誘われること請け合い。ハイレゾ化により演奏の強弱は一層際立ち、ライヴ録音につきものの聴衆ノイズも敢えて残しているとのことなので、坂本龍一的な楽しみも増している。
第3回発売は日本初登場音源、パッパーノ指揮ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団による交響曲第8番、2019年ライヴ。端正な造形の中に、輝かしい音彩とダイナミックな進行、豊かな歌心、しなやかな静と動の対比を示した演奏。独墺系の演奏者が多いブルックナーの膨大なディスコグラフィに、異彩を放つ魅力盤が1枚加わった。
INFORMATION
今後の発売予定
◆8月23日発売 インターナショナル発売輸入盤
・チェリビダッケ&ミュンヘン・フィル/ブルックナー録音集(12枚組)
◆9月発売予定
・アントニオ・パッパーノ&サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団/交響曲第8番(パッパーノBOXのみに収録の、2019年録音の未発表ライヴ音源)
◆10月発売予定
・ヨーゼフ・カイルベルト&ベルリン・フィル/交響曲第6番
・ヨーゼフ・カイルベルト&ハンブルク国立(州立)フィル/交響曲第9番(カイルベルトは、オリジナル・アナログマスターから新規リマスター)
・ロリン・マゼール&ベルリン・フィル/交響曲第7番
・ロリン・マゼール&ベルリン・フィル/交響曲第8番
◆11月発売予定
・ニコラウス・アーノンクール&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団/交響曲第3番
・ニコラウス・アーノンクール&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団/交響曲第4番
◆12月発売予定
・ニコラウス・アーノンクール&ウィーン・フィル/交響曲第7番
・ニコラウス・アーノンクール&ベルリン・フィル/交響曲第8番