食文化に時代を投影した前作が称賛された4人の旅路はさらなる熱気を帯びていて……新作『Passion Tours』には音楽の楽しさ、バンドならではの喜びが鳴っている!!!!
良いムードを優先
MONO NO AWAREが2024年に発表した5作目のアルバム『ザ・ビュッフェ』は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が設立した音楽賞〈APPLE VINEGAR -Music Award-〉にて、Dos Monosの『Dos Atomos』と共に大賞を受賞するなど高く評価され、なかでも時代を反映した歌詞やコンセプトが注目を集めた。だが、新作『Passion Tours』は打って変わって、演奏面での充実ぶりが明瞭に伝わってくる作り。それも、多少荒削りでも勢いを感じさせる演奏が詰まっている。
「今回は〈ムード〉をすべてにおいて優先して作りました。もともとエンジニアの奥田(泰次)さんがムードっていう言葉を多用する人で、少しくらいピッチとかタイムがズレていた演奏でも、〈ムードがいいからさっきのテイクでいいんじゃない?〉といった助言をくれることがあって。奥田さんと組むのもこれが4作目だから信頼感もあるし、彼の言うことは一理あるなと納得したんです。それで、グリッドに沿った小綺麗な演奏より、モタッていても勢いがあるようなテイクを選びました。以前は、デモの段階で神経質なくらい細かくハーモニーが成り立っているかをチェックすることもあったんですけど、今回は楽理的に不協和音が起きていても良しとしましたね。テイク数も以前より減って、編集もほとんどしていない。録り音がいいからそこまで神経質にならなかったんです」(玉置周啓、ヴォーカル/ギター:以下同)。
上り調子のバンドならではの、フィジカルでダイナミックなプレイに快哉を叫びたくなる。音数は前作より減って隙間が増えているが、そのぶんひとつひとつの音の存在感は確実に増した印象だ。レコーディングの過程でいわゆるバンド・マジックが起きていたのだろう。
「デモをかっちり作ったのは“スリランカ”と“楽しい夜ふかし”だけ。“ハイライト”は1分か2分ぐらいのデモがあったけど、締め切りが過ぎても完成できなかったんです。それで、僕が弾き語りをしながら、それに合わせて(柳澤)豊がドラムを叩いた。確かにそのビートならいけるかもしれない、という感じで完成したんです。豊は〈もう一度同じパターンを叩いてと言われてもできない〉と言っていたくらい。そういうふうに、録り音を聴きながら曲を作ったのケースが今回は多かったですね」。
では、アルバム制作にあたって参照した音楽は何かあったのだろうか。
「特にこれを参照したっていうのはないんです。ただ、ヴァンパイア・ウィークエンドの最新作『Only God Was Above Us』が、ひとつ前のアルバムと音楽性はほぼ一緒なのに、録り音だけが変わっていた。それで印象が全然違っていて、ああ、録り音だけで違う音楽に聴こえるんだって思ったんです。それが、サウンド面に目が向く最初のきっかけになりましたね。同じようなソングライティングでも、録りやミックスでここまで変わるんだっていうのは、何かしらヒントになっていたかもしれないです」。
音を鳴らすことの悦楽と快楽がどの曲にも克明に刻み込まれている。その象徴と言えるのが加藤成順の変幻自在のギターである。劈頭を飾る“恐竜を求めて”でのシューゲイザーのようなノイズ、“ミサンガ”でのミニマル・ミュージック風のサイケなリフ、“ハイライト”での野生動物の咆哮のようなギター・ソロ……いずれも一点の曇りもない素晴らしさだ。また、玉置がアコースティック・ギターを弾く場面も増えている。玉置と加藤はアコースティック・ギター2本によるユニット、MIZでもコンスタントに作品を発表してきたが、そこからのフィードバックもあったのだろうか。
「それもありますね。MIZのライヴを観たHAPPYのRicに、〈めっちゃいいじゃん、バンドでもあれやりなよ!〉と言われて。そのときは〈キャラが違うんだよ〉みたいに話したけど、それは制作者側の都合であって、音楽にとっては関係ないし、プロジェクトごとに分けなくてもいいかなと思うようになったんです。それでアコギを弾くことのハードルが一気に下がったっていうのはあるかもしれないですね」。
信頼するってこと
ここ最近の彼らのライヴ・バンドとしての躍進ぶりには目を瞠るものがあるが、そのライヴの迸るような熱気がアルバムにも真空パックされている。フォーキーな幕開けから一転、途中からジャム・セッション風に展開する“カオサン”、モータウンを思わせる躍動感に溢れたグルーヴが心地よい“楽しい夜ふかし”などが、その典型例だ。
「明らかにライヴのヴァイブスがいいのはわかっていました。ライヴのときってこのフレーズをちゃんと弾き切れるかを神経質に考えて演奏していない。お客さんと感情を共有できているかが大事だったりする。その感じで音源を作ろうというのはありましたね。あと、海外でのライヴが多かったのも大きくて。言語の壁がある状態で、お客さんと繋がるのはもう演奏しかない。そのモードが、日本に帰ってきてからも続いているのかもしれないです」。
アルバム後半は比較的穏やかな曲が続く。特に、“シルビア”“ねぐせ”“はじめから”といったアコースティック・ギターの弾き語りで始まる曲のアレンジが秀逸だ。これらは弾き語りでも完成させられそうな感触だが、途中からギター、ベース、ドラムが有機的に絡んでくる。4人全員が自分のプレイ・スタイルを持っているから、アレンジの自由度が高くても、最終的にはバンド・サウンドに着地するのだろう。
「〈本当にメンバーを信頼する〉ってこういうことか、という感じがありましたね。『ザ・ビュッフェ』も自分ではけっこう民主的に作ったイメージだったんですけど、あれはシンプルにみんなの意見を聞くという作業を経由しただけだったかもしれない。今回は、自分の手を離れた曲が多いと思います」。
アルバムや玉置の発言からは、サウンドや演奏面での達成感が伝わってくるが、歌詞についてはどのような意識があったのだろうか。
「ミツメの川辺(素)くんと喋っていたときに、彼が〈歌詞のスピード〉っていう話をしていたんです。坂本慎太郎さんの歌詞がいいのは、言ってることと曲のスピードが合ってるからだって。その話を聞いたら、自分が作っている音楽は曲に対して明らかに歌詞のスピードが速いと思ったんですよね。言葉を詰め込みすぎだろって。だから、8小節には8小節分の情報を入れるみたいなことを、今回は多少意識しました。昔の自分だったら、そんな単純なことで1行使っちゃうんだって思うけど、そこをあえて使った。そのほうが聴いている人もすんなり聴けるだろうって。これまでは、大喜利的に上手いことを言う歌詞もあったけど、上手いこと言ったからってなんだよっていう気持ちが今回はあった」。
なるほど、本作の歌詞は玉置にとっての〈等身大〉と言ってもいいかもしれない。思い詰めることなく、つらつらと書きつけたようなワードのチョイスが印象的だ。
「曲名にした“カオサン”“バッキンガム”は、自分が昔バックパックを背負って行った場所ですね。“スリランカ”は、友達がスリランカ旅行の思い出話をしてくれて、そこから膨らませました。いままでは、自分はこう思っているけど社会はこうで、みたいな感覚がベースにあったんですけど、今回はラフに日記を付けるように書いていきました。できるだけ考えないというか、あまりシリアスな話をしていないと思います。あと、『ザ・ビュッフェ』がやや大袈裟な感じがあって、それはそれでよかったけど、毎回やるのは無理だなと。やっぱ音楽はそもそも楽しいものだし、そう実感しながら作りたい。そう考えると、ムードさえ良ければいいかなって思ったんです」。 *土佐有明
MONO NO AWAREとメンバーの音楽旅行を辿るディスコグラフィー!!
玉置が最大のルーツと語るアークティック・モンキーズを筆頭に洋楽インディーの影響を独自のガレージ・ロックやサイケ色に染めた演奏が快い1作目。日本語ならではの発語のおもしろさを活かした言語感覚がバンドの個性を確立させている。
2作目ではエンジニアの葛西敏彦を迎え、明瞭なプロダクションが各プレイヤーの魅力を引き立てている。加藤のマニュエル・ゲッチング的なギターが冴える“窓”、オリエンタルな趣のテクノ・ポップ調“そういう日もある”など音楽性も広がった。
ハク。のカヴァーがヴァイラル・ヒットになった“かむかもしかもにどもかも!”は本作に収録。〈小学校から高校までの12年間〉をコンセプトにした3作目は、エレクトロニクスを効果的に使いつつ、変幻自在のバンド・アンサンブルが旨味たっぷり。
玉置の構想をベースにした制作から、コミュニケーションを重視し、各自のアイデアを取り入れることに舵を切った4作目。アフロ・ポップを思わせる軽妙な“そこにあったから”、真正面から愛を綴った“LOVE LOVE”など、親密な響きが胸に残る。
前年から休養していたベーシストの竹田綾子が制作中に復帰、バンドとしてのスケールアップを感じさせる5作目。〈食〉に現代社会のさまざまな様相を映す玉置の鋭いアングルに、脂の乗った演奏が豊かな色合いや太い輪郭を見事に加えた。
推進力に溢れたロック・サウンドの表題曲、トロピカリズモ的な“スノードーム”、さらに初期楽曲の新アレンジ版を収めたEPと、同年のワンマンライヴ〈波止場大サーカス〉を収めたBlu-rayを合わせた2枚組。バンドの充実期を音と映像で伝える。
八丈島を故郷に持つ玉置と加藤によるアコースティック・デュオの3作目。台湾・長浜の民宿で録音されており、美しいハーモニーやギターの調べと一緒に同地の匂いや風までをもパッケージしたかのようなアンビエント・フォークの傑作だ。
Tempalayの小原綾斗率いる不定形バンドが改名後に完成させたファースト・アルバムにて、加藤は大半の楽曲でギターを演奏。フリーキーかつヒプノティックなプレイで、クラウトロックやスペース・ロック的なサイケデリアを増幅させている。
ドラマーの柳澤豊がメンバーに名を連ねるバンドの2作目。ツイン・ギターによるドライヴィンなサウンドをタイトなリズムで支えている。若者特有のヒリヒリとした感覚を映したソングライティングが眩い、国産カレッジ・ロックの逸品といえよう。 *田中亮太









