COLUMN

映画「きっと、星のせいじゃない。」

「愛とは決して後悔しないこと ―Love means never having to say you're sorry― 」

(C)2014 Twentieth Century Fox.All Rights Reserved.

 

 「愛とは決して後悔しないこと」――このフレーズを、いったい何度見聞きしたことだろう。アメリカ映画『ある愛の詩』(70年)が日本で公開された時(71年)のことだ。

 とある富豪の息子オリバーが父親の反対を押し切って、家柄が違う女子大生ジェニファーと結婚するも、間もなく彼女が白血病であることが発覚し、悲しい結末を迎える――『ある愛の詩』はこんな物語である。「愛とは決して後悔しないこと(Love means never having to say you're sorry)」は、ジェニファーがオリバーに遺した言葉だが、日本公開時にキャッチコピーとして大々的に使われた。このキャッチコピーとフランシス・レイが作曲したテーマ曲の相乗効果もあって、『ある愛の詩』は日本で大ヒットした。もっとも当時、僕はまだ小学校6年生だった。だから実際にこの映画を観たのは10年ほど後のことだが、“難病”を題材とした洋画といえば、すぐに『ある愛の詩』を思い出す。

 2012年に米国で出版されたジョン・グリーンの小説『The Fault in Our Stars』を映画化した『きっと、星のせいじゃない』は、部分的には『ある愛の詩』に通じる物語である。ただし、ヒロインである17歳のヘイゼル(シャイリーン・ウッドリー)は、甲状腺癌が肺に転移している癌患者。だから常にチューブと酸素ボンベを手放せない。もう一人の主人公である18歳の青年“ガス”ことオーガスタス(アンセル・エルゴート)も、悪性の骨肉腫にかかっていて、すでに片脚を切断して失っている。このように主人公の男女は、どちらも深刻な病を抱えており、まずこの点が『ある愛の詩』とまったく違う。

 ヘイゼルは両親の愛に恵まれているが、病のために学校に通うことができず、1日のほとんど時間を自宅の部屋で過ごしている。しかしある日、ヘイゼルは両親に言われて癌患者ミーティングに渋々参加し、ここで初めてガスに出会う。ガスも、親友のアイザック(ナット・ウルフ)に誘われて、初めてこのミーティングに参加していたのだ。ミーティングのリーダーから「死について不安に思うことは何?」と質問されたガスは、「忘れられること」と答える。彼は、かつて高校のバスケットボール部の花形選手だったので、自尊心が人一倍強い。ヘイゼルはこの発言に対して、「人はいつかみんな死ぬ。クレオパトラもモハメッド・アリもモーツァルトも、いつか忘れられる。そんなに不安だったら、みんなを無視すれば?」とシニカルに言い放つ。ガス(オーガスタス)はこんなヘイゼルに恋心を抱き、接近するものの、彼女は距離を置こうとする。自分の死を覚悟しているので、彼を傷つけたくないからだ。

 『きっと、星のせいじゃない』は、「愛する人が不治の病で亡くなる映画」である。その意味では、前述したように『ある愛の詩』の流れを汲んでいるが、この手の物語の定石的な語り口を回避しており、現実とフィクション、シリアスさとユーモアの巧みなバランスによって、過剰に感傷的にならないように仕上げられている。また、物語を彩る音楽も、『ある愛の詩』の感傷的なテーマ曲とは全然違う。ヘイゼルとガス、アイザックの3人は、癌患者ではあるが、前向きで溌剌とした10代の若者たち。そんな彼らを後押しするかのように、エド・シーランジェイク・バグトム・オデールなど欧米の新進アーティストのロック/ポップが数々のシーンを彩る。映画の幕開きを飾るナレーションから引用すると、「(この映画には)ピーター・ゲイブリエルの曲はしっくりこない」――これをどう解釈するか、人によって意見が分かれるだろうが、ピーター・ゲイブリエルの《Don't Give Up》のような重厚な音楽はしっくりこない、と僕は受け取った。

 ヘイゼルとガスの距離が縮まるきっかけとなったのは、一冊の本だった。それは、ヘイゼルがガスに貸したピーター・ヴァン・ホーテン(ウィレム・デフォー)の『大いなる痛み』で、癌の少女が主人公のこの小説は唐突に終わっていた。ヘイゼルは物語の続きが知りたくて、アムステルダム在住のピーターに手紙を書いたが、返事はなかったという。ヘイゼルと同じく、小説の登場人物たちのその後を知りたくなったガスは数日後、ピーターの秘書にメールすると、返信が来た。登場人物たちのその後は教えられないとのことだったが、「アムステルダムに来訪の際はお立ち寄りを」と締め括られていた。ガスは、癌患者の子供を支援するとある財団の特権を使って、ヘイゼルと彼女の母と一緒にアムステルダムに旅立つ。ところが、彼らを待ち受けていたのは思いもよらない結果で、ガスとヘイゼルはこのピーターとの面会をきっかけにお互いに予想もしなかった運命を辿っていく。

 もし僕が高校生だったとしたら、ガール・フレンドを誘ってこの映画を観に行きたい。サッド・ストーリーではあるものの、あざとい演出はほとんど見当たらず、清爽な作品だから。そしてたとえ何歳であろうと、感性を全開にすれば、こんな言葉を感じ取ることができるに違いない。

 

MOVIE INFORMATION

映画「きっと、星のせいじゃない。」

「(500)日のサマー」の脚本コンビがベストセラー小説を映画化!
世界中が恋に落ちた、すべての人生を輝かす希望の物語

◎ 2015/2/20(土)よりTOHO シネマズ日本橋他 全国ロードショー

監督:ジョシュ・ブーン 脚本:スコット・ノイスタッター&マイケル・H・ウェバー『(500) 日のサマー』
原作:ジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』(岩波書店刊)
音楽:マイク・モーギス&ナサニエル・ウォルコット
出演:シャイリーン・ウッドリー『ファミリー・ツリー』/アンセル・エルゴート『キャリー』『ダイバージェント』/ 他

配給:20世紀フォックス映画(2014 年 アメリカ 126 分) PG12

kitto-hoshi.jp

タグ
TOWER DOORS
pagetop