Motion Picture©2018 VOX LUX FILM HOLDINGS, LLC. All Right Reserved.

トラウマを背負った傷だらけのポップスター、セレステの痛々しいまでに壮絶なステージ・パフォーマンスを見よ!

 平和な学校での授業風景から、不穏な同級生の登場、緊張、そして戦慄が走るような銃撃事件へ──衝撃的な場面から始まる「ポップスター」は、ポスターや予告の映像から受ける印象だけに留まらない多様なテーマを含む挑戦的な作品だ。

 主人公、セレステは、2000年代を迎えた10代の頃、同級生が学校の教室で起こした銃撃事件に巻き込まれ、瀕死の重傷を負う、というトラウマを背負っている。心と体に深い傷を負ったセレステが、自分を奮い立たし、再生するため、姉のエリーとともに作った曲が思わぬ評判を呼び、導かれるようにショービジネスの世界に進む。10代で多大な注目と賞賛を受け、世界を飛び回り、いつしかショービズ界の中で揉まれ、神経を消耗し、お定まりのようにドラッグや酒、そしてさまざまなスキャンダルに見舞われていくセレステ。そんな彼女の10数年に渡る人生の変遷を、姉のエリーや娘のアルビーなどとの人間ドラマを織り交ぜながら、描く。

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 セレステを演じるのは、約10年前、彼女にオスカーをもたらした「ブラック・スワン」での熱演が記憶に新しいナタリー・ポートマンで、今作では製作総指揮もこなしている。同作では子役出身の清楚なイメージをかなぐり捨てた姿が役自体のイメージと重なるハマリ具合が印象的だったが、今作では彼女のノーブルなイメージとはかけ離れたポップスターのイメージ(70年代のデビッド・ボウイのようなグラム風メイクアップを施し、グリッターな衣装を纏った)を打ち出し、その裏の、さまざまなトラウマに打ちひしがれた生身の女性のリアルを巧みに演じている。

 そんな彼女の少女時代を、あえて若手のラフィー・キャシディーに演じさせ、セレステの娘、アルビーも同時に演じさせるという配役が興味深い。また、乱れまくったセレステの私生活やアルビーの世話係をこなし、女兄弟ならではの嫉妬や猜疑心に駆られる微妙な関係に悩む姉、エリーをステイシー・マーティンが演じている。彼女は監督、ブラディ・コーベットの前作「シークレット・オブ・モンスター」(2015年)に続いてのコーベット作品への出演。また、セレステをデビュー時から見守るマネージャー役にジュード・ロウが扮し、確かな存在感を発揮している。

 全編を通じて要所要所で挿入されるナレーションの渋い声の主は、あの名優、ウィレム・デフォー。セレステの多難な人生で起こる事件や心境の変化を、さりげなく語る。

 少女時代のトラウマ、その十数年後の、乱れたポップスターとしてのセレステ、そして終盤の、セレステのステージという3つのパートから成る構成。10代での思わぬデビューと成功から、セレステの人生がどのように歪んでいったのかという詳細な描写が省かれているため、母となった経緯やその他の恋愛沙汰、ドラッグや酒への依存などの過程がわかりにくくもあるが、その結果を、30代前半にして、疲れ切った中年女のような、退廃した仕草や表情、そしてしゃべり方で表現してみせるポートマンの演技力に驚く。とにかく、絶妙に〈やさぐれて〉いるのだ。

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 こうなるしかなかった自分への自己弁護、愛情を抱きながらもふつうの母親のように接することができない娘への複雑な思い、そして、身近でありながら、ある時から意識的にその存在を避け、そんな自分の立場を守るために攻撃的にならざるを得ない姉への思い、そして純粋に音楽を作り表現するだけでは生き残っていけない現代のショービジネス界の厳しさに耐えかねているポップスターとしての自分。邦題となった〈ポップスター〉という、使い古された言葉のもつ、華やかでありながら、その実チープになり下がった存在を、多様に解釈させる作品なのだ。

 セレステのトラウマの原点的体験である学校での銃撃事件、そして三十代の彼女に降りかかるように再び起きた銃撃事件(犯人たちが彼女が以前MVで着用していたマスクを着けていたことでマスコミは何かと彼女自身とこの犯罪を関連付けたがるようになる)。こうしたトラウマが、何年を経ても被害者に心身両面に影響を与え続けることの恐怖も、この作品のテーマの一つだろう。それを一時的にでも克服するための手段としてのアート(歌、そしてダンス)も、今作のテーマとなっている。音楽を担当したのが、その独創的でパワフルな歌とダンスで知られるSia(シーア)だというのも頷ける。自分の心を絞り出すようなメロディと歌詞、そしてダンスで知られる異色のパフォーマーだからだ。

 今作のクライマックス、終盤のステージ・シーンは、心身ともにボロボロになりながらも懸命にオーディエンスに応えようとするセレステの表情が観る者の胸をえぐる。ロックでもソウルでもない、ポップ。人間離れしたスーパースターとは異なるタイプのスターであるセレステの、等身大の“痛み”が伝わってくるようなパフォーマンス。この後のセレステやアルビーの人生を思い、ちょっぴり複雑な気持ちになる作品だ。

 


映画「ポップスター」
監督・脚本:ブラディ・コーベット
オリジナル歌曲・製作総指揮:シーア
音楽監督:マーガレット・イェン
作曲・編曲:スコット・ウォーカー
振付:バンジャマン・ミルピエ
出演:作総指揮:ナタリー・ポートマン/ジュード・ロウ
出演:ラフィー・キャシディ/ステイシー・マーティン/ジェニファー・イーリー/他
ナレーション:ウィレム・デフォー
配給:ギャガ(2019年 イギリス 118分)
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https://gaga.ne.jp/popstar/
2020年6月5日より全国順次ロードショー