インタビュー

tricot、ドラマー脱退を逆手に取り5人の個性的なプレイヤー招いて過去最大の振り幅見せた心躍るニュー・アルバム

原点に立ち返ったことをきっかけに、5人の個性派ドラマーを迎えて作り上げた心躍る変拍子! 無敵のグルーヴを手にした3人は、さらに予想不能の未来へ向かう――

 

 

ある種の原点回帰

 昨年3月に敢行した初のアジア・ツアー後、ドラマーのkomaki♂が脱退してオリジナル・メンバーの女子3人体制に戻ったtricot。しかし、彼女たちは歩みを止めることなく、すぐにDETROITSEVEN山口美代子をサポートに迎えてライヴ活動を継続し、夏にはNMEやBBCの人気DJによる後押しも受けて、初のヨーロッパ・ツアーを開催。現地のフェスへの出演やピクシーズのサポートなど、活躍の場を国外にも広げていった。

 「向こうでリリースがあったわけではないので、もちろんほとんどの人が初見だったんです。でも、フェスのときは曲をやるごとに拍手や歓声が増えていって、ちゃんと伝わってるんやなって思ったし、勝手にその国と繋がった気持ちにもなれたので、行ってよかったなって。日本で初めてフェスに呼んでもらった頃の気持ちに戻ったような感じもしました」(中嶋イッキュウ、ヴォーカル/ギター)。

tricot A N D BAKURETSU(2015)

 こうしたある種の原点回帰ののち、3人はアルバムの本格的な制作へと突入。MVが〈NME.com〉で先行公開されたシングル“E”を経て、新作『A N D』が完成した。ドラマーの不在を逆手に取り、5人の個性的なプレイヤーを招いた本作は、タイトル通りにコラボレーション・アルバム的な側面が強い一方、それでも失われることのないtricotというバンドの核を再発見するような一枚だ。

 「曲はまず3人だけでガレージバンドで作って、ざっくりとしたドラムのパターンを入れて、それが出来上がってきた頃に誰とやりたいかを考えました。いままではセッションで、リズムありきで曲を作ってたので、最初はイメージが膨らみにくかったりもしたけど、徐々に慣れていきましたね」(キダ モティフォ、ギター)。

 「前の作り方にちょっと限界を感じてもいたので、新しいやり方を一回やってみたかったんです。いままでは防音のちっちゃいスタジオに籠って作ってたわけですけど、今回は私の家で3人でお茶とか飲みながら思い付いたフレーズを入れていったんで、そのときの空気感、肩の力が抜けてる感じが、開けた音にも繋がったのかなって」(中嶋)。

 「ホンマにギター・フレーズだけあって、決まったリズムが何もないなかで思い付いたベースのフレーズを入れて、最後に3人でリズムを入れたので、自分の想像は凄い膨らみました」(ヒロミ・ヒロヒロ、ベース)。

 

心が躍るほうがいい

 複雑な変拍子を全面に押し出した“E”や“走れ”のような、実にtricotらしい攻撃的なナンバーから、キャッチーなメロディーが印象的な“神戸ナンバー”、ストレートな裏打ちがすぐに16分の細かい刻みへと変化し、さらにはサンバのリズムへと大胆に展開していく“庭”など、各ドラマーの個性を活かした楽曲は、過去最大の振り幅の広さを見せる。

 「“神戸ナンバー”は“99.974℃”(2013年)を出した頃にはスタジオで合わせてたんですけど、その頃ちょうど赤い公園が活動を休止してたので、〈津野米咲節の曲を書いてみよう〉って思って作りました。結局自分たちの音になっちゃいましたけど(笑)」(キダ)。

 「〈踊らせ系〉のロックみたいなのがあるけど、踊らせるために曲を作るとかって、自分がやるのはダサいなって思うんですよ。演奏に興奮して、心が躍るほうがいいじゃないですか? そう思って“庭”を作ってたら、最後はサンバになっちゃいました(笑)」(中嶋)。

 さらに本作には、ドラマー以外にもう一人のゲストが参加。〈天才ピアノ・マジシャン〉ことH ZETT Mが“QFF”と“ぱい~ん”の『A N D』ヴァージョンで鮮やかなプレイを披露し、楽曲に彩りを添えている。

 「“QFF”のデモを作ってるときに、ヒロミさんがピアノを入れたいって言ったんですけど、私はそういう曲でもギター、ベース、ドラムでやるのがtricotのカッコ良さだと思っていたので、迷ってたんです。でも、その頃ちょうどH ZETT Mさんと共演する機会があって、そこで度肝を抜かれちゃって、ぜひ参加してほしいなと思って」(中嶋)。

 「私はもともと個人的にピアノの音が大好きで、3人になって、ドラムもいろんな人に参加してもらうから、自分たちだけの音にこだわる必要はもうないのかなって思ったんです。“QFF”の最後のソロは何パターンかやってくれたんですけど、全部凄すぎて選べなかった(笑)」(ヒロミ)。

 

予想できない未来へ

 3人になって発表された最初のシングルにして、本作のラスト・トラック“Break”で、〈簡単な事ではないけどさようなら/またいつか〉と歌われているように、〈3人に戻る〉という選択は決して楽なものではなかったはずだ。しかし、変化を恐れなかったその姿勢こそが、いまのtricotの孤高とも言うべきポジションを導いたことは間違いない。これからも軽やかに、3人は自分たちだけの道を行く。

 「最初も3人やったんで、初期衝動が戻ってきたというか、ドラムもいいひんのに、3人おったら何とかなるやろっていう、変な無敵感はまた出てきた気がします」(ヒロミ)。

 「私たち、いままで予想通りいったことなんて何ひとつなくて(笑)。他のバンドが経験してない災難もたくさんあったけど、他のバンドにはない奇跡もたくさんあったと思うんです。なので、これからもきっと予想できない未来が待っているんだろうなと。それに怯えつつ(笑)、でもどうなるのか楽しみにしてますね」(中嶋)。

 

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