箏の弾き語りという独自のスタイルで歌を紡ぐ真依子が初めてインストのアルバム『箏 Koto-日本の叙情歌・唱歌』を発表した。テーマは“日本の叙情歌と唱歌”。《故郷》や《蛍の光》などをピアノやギターとの共演で雅に奏でている。
「ライヴでも叙情歌や唱歌を演奏してきましたが、今回改めて向き合うと、名曲の強みというか、メロディだけで聴かせることが出来る力を持っていると気づかされましたね。基本的に原曲の良さを大切にしつつ、ギターやピアノなどと共演することで、ポップな要素を取り入れたアルバムにしたいと考えました」
アルバムは《早春賦》から始まり、四季を追う構成になっており、《仰げば尊し》で幕を閉じるが、ボッサ風の《夏の思い出》やブルージーな《赤とんぼ》、ポップな《蛍の光》など、耳慣れたはずの歌が新鮮に響く。
「私のオリジナル楽曲も季節感がある曲が多いのと、お箏自体が風景や季節を描写してきたという歴史があるので、最初から四季を意識しながら選曲しました。アレンジは編曲者の方と相談しながら決めていったのですが、お箏はジャズと相性が良かったりと、調弦はちょっと大変だけれど、いろいろなジャンルの演奏ができるので、《赤とんぼ》とかも自然に弾けましたね」
幼い頃から自然豊かな滋賀で育ち、現在もそこで暮らしつつ、京都の町家に創作の拠点を構えている。今回箏のレコーディングに関しては、古い木造家屋の町家に構えたホームスタジオで録音したという。
「築百年の木造家屋の響きと箏の相性がとてもよくて、空間の広さや温かみが自然に音に反映されるので、自宅で録音するのがいいかなと考えたのですが、防音をしていないので、主に街が静まる深夜にレコーディングしていました。それでも《里の秋》にじっくり耳を傾けていただくと、箏のソロ演奏のバックで鈴虫が鳴く音が聴こえたりしますよ(笑)」
ホームスタジオではマイキングを含めて、全てひとりのDIY方式で行った。孤独な作業には迷いやプレッシャーが伴い、緊張を強いられたが、それをほぐしてくれたのがギタリストの笹子重治との共演だった。
「笹子さんとは初共演だったのですが、まるでテレパシーのように伝わってくる呼吸というのがあって、スピリチュアルな部分で通じ合いながら演奏することが出来て幸せでしたね。クリックに縛られることなく、自由なテンポで演奏できるのも気持ち良くて、これこそが本来のレコーディングのあり方だと思いました。笹子さんとは3曲を東京で録ったのですが、《浜辺の歌》はワンテイク目で『今の良かったんじゃない』と言ってもらえた、私の宝物の1曲になっています」