箏の世界に吹き込んだ新風がもたらす、自然な邂逅

 ジャケット写真だけを見て、彼がなんの楽器の演奏家か当てられる人はいないだろう。正解は箏。インターナショナルスクールの授業で箏と出会い、数々のコンクールで受賞を重ねてきたLEOは現在、東京藝術大学の邦楽科で学ぶ2年生。今年8月に2ndアルバム『玲央 Encounters:邂逅』をリリースした。

LEO (今野玲央) 玲央 Encounters:邂逅 Columbia(2018)

 「現代箏曲をメインに演奏してきましたが、古典も学びたいと思い、藝大に行くことにしました。これまで習ってきたスタイルとは違う流派の先生に教えていただけるのも大きいですね。邦楽科は師弟関係が厳しく、普段の生活全般にわたってルールがあって、窮屈に感じたこともありました。けれど、そういった環境で1年間学んだことで、音にも変化が出てきて、入学前にリリースした1stアルバムと比べても違いがお分かりいただけるのではと思います。まだまだですが」

 今作の冒頭を飾る大塚茜による書き下ろし曲《邂逅 -六段とSerenadeによる-》は、八橋検校の作とされる筝曲とシューベルトの歌曲が出会い、互いの“個”を保ちながら、ひとつに融合する作品。また、沢井箏曲院の会長であり、ギタリストとしても知られる沢井比河流の作曲による《土声》も、ロック・テイストあふれるリズムとユニークな響きが面白い。どちらも高木凜々子のヴァイオリンとの、自然な呼吸によるコラボレーションとなっている。

 「高木さんは藝大の4年生で、僕からお願いして共演していただきました。年齢が近く、同じような情熱を持っている人と演奏したかったんです。その方が、一緒に音楽を作るときに気持ちを合わせやすく、意見交換も対等にできると思って。でも、やはり西洋音楽と邦楽では根本的な考え方が違うので大変でした。音を緻密に積み重ねていくことで構築される西洋音楽とは違い、邦楽は楽曲もメロディもシンプルで、ひとつひとつの音に重点が置かれます。そういったお互いの音楽観を譲らず、対等に渡り合いながら新しい音楽を作っていくのは至難の業ですが、楽しい作業でしたね」

 LEO自身の作曲による《鏡》は内省的で、日本らしい美しさが際立つ。

 「日本人とアメリカ人のハーフであることで、自分のアイデンティティがどこにあるのか悩んでいました。でも9歳で箏と出会ったとき、直感的にこれが〈自分の居場所〉だと思ったんです。それからは、箏がいちばん素直に自分の気持ちを表現できる楽器になりました。《鏡》は、そんな箏の持つ魅力やパワーを多くの方々に伝えたいという思いで書きました」

 今は、若いときにしかできないことにチャレンジしたいと語るLEO。今後の飛躍にますます期待したい。