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舞台は役者を丸裸にする

 近年、テレビや映画でも活躍する天海。だが、天海の真価は、やはり舞台でこそ発揮されると〈ゲキ×シネ〉を観ながら改めて感じる。

 たとえば、蒼真の初登場シーン。舞台奥の扉が開くと、渡来人の女・蒼真が異国風の青いドレスをまとい、長い四肢を優雅に見せつけるポーズを決めて立っている。その立ち姿の華やかさと、蒼真の強い意志力を物語る眼。さすが、過去、宝塚歌劇団のトップスターとして君臨した人だと誰もが思うだろう。

 よく言われるが、舞台はごまかしがきかない。たとえセリフを言っていても、脇にいい芝居をしている者がいれば、観客の視線はそちらに集まる。主役ともなればことさら、強い吸引力が不可欠だ。

 「蒼の乱」蒼真の吸引力はものすごい。蒼真だが結局、天海祐希の芯にある強い磁力に人は引きつけられてしまうのだろうと思う。

 舞台俳優からしばしば聞く「役になりきるなんて無理」という言葉。監督の「カット!」の声がかかるまでの短い間なら可能なのかもしれないが、長い時間、長い期間、役になりきって過ごすなんて、人間には無理なのだろう。だから舞台では、その人の本質がどうしようもなく溢れ出る。蒼真しかり。そして、将門小次郎役の松山ケンイチしかり。

 「小次郎は、あまりにも素直で正直だから、あっちこっちで利用されてしまうんです。それによって行動はブレるんだけど、ただひとつ蒼真を守るという信念だけは通している。ケンちゃん自身が、本当に牧歌的で野生児みたいなところがある人で、大らかな小次郎を演じてくれたから、私もああいう蒼真でいられたんだと思います」

 ラストシーン、蒼真は真っ青な草の海に立つ。もちろん舞台だから、本物の草原の風景ではない。だが、その心地よさ、清々しさは、〈これは映画ではなく元々は舞台なのだ〉という前提を思い出してなお、胸に迫りくる。エンドロールの後に映し出されるカーテンコールの様子、キャストたちの顔が、また格別なのだ。

 


天海祐希(あまみ・ゆうき)
女優。1967年生まれ、東京都出身。87年に宝塚歌劇団に73期生として入団。93年に初舞台から7年という短期間で月組のトップスターに就任。95年に退団するも、翌96年には女優として活動を開始。映画やテレビドラマ、舞台、CMなど活躍の場を広げ、幅広い層からの人気を集める。

劇団☆新感線(げきだん・しんかんせん)
1980年11月、大阪芸術大学舞台芸術学科の四回生を中心にしたメンバーにより、つかこうへい作品「熱海殺人事件」で旗揚げ。つかのコピー劇団として人気を得るが84年にはつか作品から離れ、新生・新感線として活動開始。時代活劇のシリーズである「いのうえ歌舞伎」や、ロックミュージカルともいえる「新感線R」シリーズなど、ジャンルレスな要素を盛り込んだエンターテインメントショーとして人気を誇る。

 


寄稿者プロフィール
みよしみか
雑誌を中心に、演劇関係の記事や、役者・演出家のインタヴュー記事を寄稿。劇団☆新感線〈ゲキ×シネ〉「シレンとラギ」「ZIPANG PUNK」パンフレットも編集・執筆を担当。

 


INFORMATION

ゲキ×シネ「蒼の乱」
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:天海祐希/松山ケンイチ/早乙女太一
2015年5月9日(土)全国ロードショー 

 

ゲキ×シネ「阿修羅城の瞳 2003」
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:市川染五郎/天海祐希/夏木マリ/高田聖子
絶賛公開中!
http://www.geki-cine.jp/

 

五右衛門VS轟天
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
作詞:森雪之丞/いのうえひでのり
音楽:岡崎司
出演:古田新太/橋本じゅん/松雪泰子/池田成志/賀来賢人/高田聖子/粟根まこと
大阪公演:2015年5月下旬~2015年6月下旬/シアターBRAVA!
福岡公演:2015年7月中旬/キャナルシティ劇場
東京公演:2015年7月下旬~2015年9月上旬/赤坂ACTシアター
http://www.g-v-g.com/