インタビュー

RHYMESTER、不寛容な時代に〈美しく生きようとすること〉で抗うコンセプチュアルな新作の背景を語る

RHYMESTER 『Bitter, Sweet & Beautiful』 Pt.1

RHYMESTER、不寛容な時代に〈美しく生きようとすること〉で抗うコンセプチュアルな新作の背景を語る

不寛容や不穏さに抗う唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着すること。そして、変わり続けることを肯定すること——RHYMESTERの歌と言葉は君に語りかける
 

美しく生きようとすること

 RHYMESTERが待望の新作『Bitter, Sweet & Beautiful』を完成させた。今回は通算10枚目。レコード会社移籍&みずからのレーベルを立ち上げて1発目のアルバムという記念碑的な作品となる。

RHYMESTER Bitter, Sweet & Beautiful starplayers/CONNECTONE(2015)

 「10枚目のアルバムでもあり、移籍第1弾だから、若干の気負いはもちろんあったよ」(Mummy-D、MC)。

「ジャケに顔を出さないとかロゴの感じとか、変化した見え方っていうのは意識した。いつもカウンターは打ってるけど、より仕切り直してますっていう感じはあると思う」(宇多丸、MC)。

 オリジナル・フル・アルバムのリリースはおよそ2年半ぶり。過去最長の制作期間を経て届けられた本作は、全14曲にひとつのテーマが通底するコンセプチュアルな内容となった。紙資料に太文字で書かれたそのテーマとは〈人生を美しく生きること〉。

「と言うより、もっとギリギリ、〈美しく生きようとすること〉みたいな。アルバムのタイトルを僕なりに日本語に訳すと〈酸いも甘いも美しい〉。杓子定規な〈正しさ〉では割り切れない何かが僕らの人生には必ず含まれているわけで、そういう幅を含めて、世界は〈美しい〉んじゃないかと。他者を排除して済ませるような考え方に対するプロテストでもある」(宇多丸)。

「みんなが正しさを振りかざして、他者とのちょっとした違いを受け入れない、みたいな傾向が強くなってる感じがしていて。でも、渦中にいると何が正しいかはわからないじゃん。エネルギー問題にしても国防問題にしても子供に何て言ったらいいかわからないけど、でも〈醜いものはきっとダメだろう〉くらいの感じ。カッコ悪く生きるのはダメだよとか、少なくとも美しいものは間違ってないんじゃないかとか、それくらいの直感的なことなんだよね。〈正しさ〉と〈美しさ〉はアルバムのなかで何度も出てくるけど、美しいほうに賭けていこうっていう感じ」(Mummy-D)。

 深い情感を湛えたピアノの旋律から始まる今作は、サウンド面でも美しさを追求。粗暴な音像を意識した前作『ダーティーサイエンス』とは反対にメロウネスとファンクネスが宿るグラマラスな音像が広がる。そこに一風変わったポップ・フレイヴァーを加味しているのが、今回最多の5曲で起用されたPUNPEEのトラックだ。

「PUNPEEは、音はすごいキラキラしてるし、嫌な感じがしないポップさをナチュラルに全開で出せる人間。ものすごくユニークでおもしろい存在だと思います」(DJ JIN、DJ)。

「PUNPEEがいることで風通しの良さ感が出たかもしれない。さっき言ったみたいなガッチガチのコンセプトだけで全編いっちゃうと息苦しくなっちゃったかもしれないけど、例えば“SOMINSAI”のアイツのヴァースとか、ちゃんと〈他者〉も混ざり込んでる感じが出てる。俺たちが〈意味! 意味! 意味!〉でハナから完璧な建築にしちゃうんじゃないほうが、今回のアルバムには相応しかったんだと思う」(宇多丸)。

交差して、集まって、次に向かう

 何かを作る者の苦悩を、先の見えない現代社会を生き抜く術に通じるように描いた“フットステップス・イン・ザ・ダーク”から始まり、子供の頃の冒険心や自由奔放さをテーマにした“Kids In The Park”、KREVA産のメロウなトラックの上で〈薬も過ぎれば毒となる〉的なことを歌う“ペインキラー”、日本語ラップに対する根深い偏見への最終通告ソング“ガラパゴス”と続いていく本作。その物語はRHYMESTER流に正義を問う“The X-Day”からクライマックスに向けて一気に加速。DJ JINとSWING-Oの共同プロデュースしたタイトル・トラックとも言える次曲“Beautiful”が青白く揺れる炎だとすれば、続く“人間交差点”は火花を散らす真っ赤な炎。シングル・リリース時とはまるで趣が異なって耳に刺さる。


「“Beautiful”は、総合プロデューサーのMummy-Dから〈昔のディズニーのアニメ映画みたいな、ドリーミーでちょっとノスタルジーを感じさせるような要素が欲しい〉と言われて。いくつかあったSWING-Oが弾くピアノのフレーズを取っ掛かりにして作っていったんです。その演奏がすごくリッチだったし、引っ掛かりのあるおもしろいものにしていきたいという気持ちはありました」(DJ JIN)。

「“人間交差点”が出来たときに、これはアルバムの結論になるなと思っていて。最後にもう一回アルバムのテーマをおさらいっていうのと、あと物語的に言うと、クライマックス直前に主人公を一旦どん底まで蹴落としとくことで、その後のカタルシスがより増す、みたいな。手前の“Beautiful”で答えの出ない問いを繰り返しておいてとことん重くなったところで、〈ドン!〉と“人間交差点”が来るとさらに開放感が増す、っていう構成イメージはあった」(宇多丸)。

 今回はアルバム制作の半ばで全体の構成や大まかな曲順を決めたそうだが、とりわけ“The X-Day”以降の流れは見事。ラストの“マイクロフォン”にバトン=マイクを繋いでいくまでのドラマティックな展開に恐れ入る。

「不寛容な人間関係を見直していこうというふうに聴こえてくれたらいいなと考えて曲を並べていって、それを流れとしても表現しようと。“Beautiful”のあとは“人間交差点”で、いろんな人が混ざり合う。交差したら離れていくから、“サイレント・ナイト”はそこまでRHYMESTERとしてやってきた3人の〈オフの日〉というか、個人にバラける感じ。それがまた再集合して “マイクロフォン”で次に向かう、みたいなイメージなんだ。だから次のアルバムの1曲目がくっ付いてるみたいな感じに聴こえればいいかなと思ってる」(Mummy-D)。

 新作を出すたびに日本語ラップ全体の動向にも影響を及ぼす彼らだが、この美しきコンセプチュアル・アートはシーンにどんな波紋を拡げるのか。そして9月から始まる全国ツアーで〈キング・オブ・ステージ〉はこの甘くほろ苦い人生讃歌をどう表現するのか。いろいろ興味が尽きないし、今度もまた見もののライヴとなりそうだ。

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