和の要素を詰め込んだ、王者の風格漂う規格外の“BON”
Number_iの初のミニアルバムに位置づけられている『No.O -ring-』(『GOAT』はシングル扱い)は、2024年5月27日にリリースされた。『GOAT』の全曲について書いた記事に続いて、ここでは、名刺代わりの作品になった本作の、“花びらが舞う日に”以外の配信された7曲をレビューしてみよう。
開幕の曲でリードトラックでもある“BON”は、平野紫耀が自らプロデュース。作詞はODD Foot WorksのPecori、作編曲はDATSのMONJOEという、もはや定番のNumber_iチーム。だからといって安心はできないのが彼らとNumber_iのタッグによる作品で、常套的なことは決してやらない。“GOAT”と“FUJI”での成功に味をしめたのか、過激さや過剰さが思いっきり増している。“GOAT”の正統な発展型と言える曲だ。
ミュージックビデオは〈和〉をテーマに制作されているが、曲自体も日本的な要素が強調されている。イントロは、笙や鈴の音が雅に鳴り響く雅楽。神宮寺勇太が歌う〈あゝ夕焼け盆踊り〉の部分はヨナ抜き音階で、しかもまるで民謡のような節回し。さらに、拍子木が鳴り響いたかと思えば、琴や三味線や鼓を模した音も用いられ、〈Number_i 規格外盆栽〉と平野紫耀がラップするパートは祭囃子風になる。日本の貴族・宮廷音楽も民俗音楽(フォークミュージック)もごった煮になった、まさに〈踊る1億人〉のための曲。
それにしても、“GOAT”以上にめまぐるしい展開である。各パートごとに、プロダクションやアプローチがまったく異なっている。一体、何曲分のアイデアが詰まっているのだろう?
プリコーラス(サビ前)の部分はEDMのビルドアップで、コーラス(サビ)へと盛り上げていく役割を果たしているが、ここで“GOAT”と同様にジャージークラブのビートが用いられているのが改めて新鮮に感じる(正確には、“GOAT”ではビートではなくボーカルがジャージークラブのビートを模していた)。また、先に言及した祭囃子風の部分は、ヒップホップのいわゆるブーンバップのビートが組み合わされていて、これまでに聴いたことがない曲調になっている。〈新たな教会〉から始まるコーラスでは、ダブステップやブロステップ由来のワブルベースが暴力的にうねる。“GOAT”のように楽音とは言いがたいノイズや金属音が多用されていることも、“BON”に強烈な個性を与えている。
低く掠れた声を中心にしたボーカルや、今回もパンチラインだらけのリリックに関して言えば、まず、出だしからして平野の〈王者が掻っ攫う〉である。“FUJI”の〈まずは1バース〉と同じく、開始数秒でワンパンKO、というスタイルがNumber_iのやり方なのだ。
前半は、平野による矢継ぎ早に言葉を吐き出すスキルフルなラップに続いて、岸優太が奇妙な発声でジョーカーキャラをぶちかます。その後の〈Number_iはけっこう調子いいね〉〈あーだこーだうっせーやつらキリがねー/愛でもってみんなまとめちゃえ〉〈Internet Maji Easy/ぶっちぎる I’m KC〉など、全編にわたって岸の〈かぶく〉魅力が全開だ(アウトロの笑っちゃうような〈のびのび~!〉の声は、岸によるものだろうか?)。
正式なデビューから、まだ半年。過去のキャリアがあるとはいえ、〈最初は小せえ鉢から急成長〉し、王者の風格を早くも揺るぎないものにしている〈規格外〉な〈3人の天才〉の堂々たる姿が、“BON”には確実にある。そんな彼らに〈花咲かせろ〉とけしかけられたら、ファンも〈やるしかねえ〉と決心するほかない。