ここまで語ってきてナンですが、〈ダブとは?〉という質問への的確な回答はやっぱり難しい。辞書的な言い回しなら、〈ジャマイカ人が発明した過激なリミックスの手法〉? でも生演奏のダブ・バンドもいるわけで……だからもう、あえて言うなら〈ルーツへの敬意と音楽的な実験心〉! その2つを保って、形を変えながらUK〜アジア〜オセアニアと常に進化してるのがダブですな。DRY & HEAVYだって、きっと〈更新〉がテーマだった(ように感じます)。

 【参考動画】DRY & HEAVYの2000年作『Full Contact』収録曲 “Love Explosion”

 

 だからこそ、バンドで実践されるダブは、結果的に一種のオルタナティヴ・ロックになっていると思う。TAMTAMのシングル『クライマクス&REMIXES』でリミックスを手掛けたあらかじめ決められた恋人たちへは〈シネマティック・ダブ〉などと呼ばれていますが、音楽的には叙情的でハードなロックを基盤としつつ、過剰なドラム・リヴァーブとギターの轟音、生活音のサンプリングにオーガスタス・パブロよろしくのピアニカ、そして、まさかのテルミン。聴いていると泣き叫びたくなる、モッシュしたくなるダブという独特の形です。

 【参考動画】あらかじめ決められた恋人たちへの2011年作『CALLING』レコ発ワンマン〈Dubbing 03〉より“Back”のパフォーマンス

 

 日本で歌モノとしてのダブを進化させたのは、お待ちかねの人も多いと思うフィッシュマンズ。彼らを通して〈ダブ〉という言葉を知った人は、私の年代にも多いです。最近改めて2枚のベスト盤〈宇宙〉と〈空中〉を聴きましたけど、完全にグルーヴがレゲエ。退廃的な歌詞もやっぱり良くて……彼らがダブを採り入れたのは、きっと彼らの日常に根付いていたパンクスの気分からだと思うのです。あと個人的には、〈見た目が怖くなくてもダブとかやっていいんだ〉てなカルチャー革命がありました(後追いですが)。

 【参考動画】フィッシュマンズの95年のシングル “ナイトクルージング”

 

 それから、最近買ったA/T/O/Sがカッコ良かった。ヒップホップからダブへのアプローチとしてトリップホップなるものがありますが、〈最新型トリップホップ〉と銘打って、タワーの新宿店が激押ししてました。いままでコラムで取り上げてきたような派手なエフェクトとかでなく、くぐもった音色や重心の重さで〈質感としてのダブ〉を感じさせる一枚かと思います(〈全曲似てない?〉とか思っても、それはそれとして……)。

 【参考音源】A/T/O/Sの2014年作『A/T/O/S』

 

 以上! 自分自身にとっても大変有意義なコラムでした。またライヴかどこかで。

 

▼文中に登場した作品

左から、あらかじめ決められた恋人たちへの2011年作『CALLING』(POPGROUP)、フィッシュマンズのベスト盤『宇宙 ベスト・オブ・フィッシュマンズ』(ポニーキャニオン)、A/T/O/Sの2014年作『A/T/O/S』(Deep Medi)
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