すべての創造はすべての静寂から生まれる――英国ジャズ界の誇る当代きっての才能が即興の美学と緻密な音響を融合した2部構成の大作、その〈後編〉がついに登場!

 ダブの音響と即興の美が融和した『All The Quiet (Part I)』から3か月――その〈後編〉にあたるジョー・アーモン・ジョーンズの『All The Quiet (Part II)』がついにリリースされた。エズラ・コレクティヴでの〈フジロック〉出演も間近に控えた絶好のタイミングでもあるが、バンドでの創意工夫とはまた異なる方向で磨かれた連作の世界は、この英国ジャズの才人が音楽家としての新たな地平に到達したことを示してくれている。

JOE ARMON-JONES 『All The Quiet (Part II)』 Aquarii/BEAT(2025)

 本人が「ダブのサウンド世界を探求することに夢中になったんだ。そのプロセスをジャズやファンク、そして自分が愛するあらゆる音楽に応用していった」とコメントしている通り、この連作は仲間たちと4日間かけて行なったセッションをレコーディング後、ジョーがそれらの録音にディレイやエコーを施しながら音像を再構築し、シンセなども加えて即興性と計算の入り交じった緻密なテクスチャーで構成されている。同じセッションの成果が2枚に振り分けられた格好となるわけで、ほぼ全曲のリズムに貢献したココロコのムタレ・チャシ(ベース)、ナシェット・ワキリ(ドラムス)をはじめ、ヌバイア・ガルシア(サックス)、エズラ・コレクティヴのジェイムズ・モリソン(サックス)とイフェ・オグンジョビ(トランペット)といったホーンズ、そして要所でイエーガー・ゴードン(ドラムス)、クウェイク・ベース(パーカッション)、オスカー・ジェローム(ギター)が参加した演奏陣の顔ぶれはもちろん変わらず。〈Part I〉に名のなかったアタリー・アーモン・ジョーンズ(ジョーの姉妹?)はマックスウェル・オーウィンとのコラボ作やエズラ・コレクティヴの楽曲にも招かれていたヴァイオリン奏者だ。

 そんな豊かなサウンドに乗せて、数名の声がメッセージの芯を伝える構成も〈Part I〉と同じ。ルーツ・レゲエのような導入のアタックから滑らかなグルーヴに流れ込むオープニングの“Acknowledgement Is Key”では、グライムやレゲエを下地に持つロンドンの注目株ハック・ベイカーが社会派の語りと歌を挿入し、〈認めることが大事〉と語りかける。ポエティックな奥行きという意味では〈Part I〉収録の“Kingfisher”に続いてアシェバーが“Westmoreland”でメロディアスな歌唱を響かせている。

 それらコラボ曲のなかでもハイライトとなるのが、グリーンティー・ペンとウー・ルーを迎えた“Another Place”だろう。ジョーいわく「新しいヴァージョンの、ルイ・アームストロングとエラ・フィッツジェラルドのデュエットみたいな感じにしたかった」とのことで、空間を漂うような両名の歌唱が浮遊感のあるドリーミーな音像のなかでゆったり調和している。

 もちろん、ジョーの創造世界はそうした声にすべてを託すものではない。〈Part I〉収録の“One Way Traffic”から派生した即興を導入として自然に紡がれたという“Lavender”、独りで音を重ねたインタールードの“PSR Orchestra”、ナシェット&ムタレとのトリオで温かくもメロウな空気を熟成する“Paladin Of Sound & Circumstance”、重厚なホーン・セクションが小気味良いピアノの躍動を盛り立てる“War Transmission”、雄大な旅情のイメージを纏いながら芳醇に音世界を深めていく“Journey South”と、〈Part I〉の素晴らしさから地続きの妙々たる聴き心地が堪能できる。

 そしてラストを飾るのは、ヤズミン・レイシーのヴォーカルをメインに据えた“One Way Traffic”。ジョーいわく「音楽に対する考え方が似ていて、プロセスやその神聖さを大事にしているところも共感できる」という彼女は〈Part I〉の“Forgiveness”にも声を添えていたが、ここではエレピ主体の演奏に守られて品のいいリリカルな歌声をソウルフルに響かせていて、その歌がダビーに溶けていく幻想的なエンディングまで聴き逃せない。シリーズに共通した〈音楽の魂を守る音の騎士が戦う〉という、ジョーの強い意志から始まった物語は、ここからまた続いていくのだ。

参加ヴォーカル陣の作品を一部紹介。
左から、ハック・ベイカーの2023年作『World's End FM』(Has Attack)、グリーンティー・ペンの2025年作『Tell Dem It's Sunny』(AWAL)、ウー・ルーの2022年作『LOGGERHEAD』(Warp)、ヤズミン・レイシーの2023年作『Voice Notes』(Own Your Own)

左から、ジョー・アーモン・ジョーンズの2018年作『Starting Today』、同2019年作『Turn To Clear View』(共にBrownswood)、同2025年作『All The Quiet (Part I)』、ジョー・アーモン・ジョーンズ&マクスウェル・オーウィンの2023年作『Archetype』(共にAquarii)、エズラ・コレクティヴの2022年作『Where I'm Meant To Be』、同2024年作『Dance, No One's Watching』(共にPartisan)