マッドチェスター、渋谷系、レイヴ――数多の狂騒を体験してきた音楽家が、そのすべての歩みを投影した14年ぶりのソロ・アルバム!

 90年代初頭の渋谷系、そして、マッドチェスター・ムーヴメントの追い風を受け、当時、数少なかったUKインディー直系にして英語詞のギター・バンドとしてシーンに浮上したVENUS PETER。大きな時代のうねりのなかで、フロントマン、沖野俊太郎の音楽性はそうしたカテゴライズに楽々と収まり切るようなものではなかった。

 「渋谷系って結局のところ、ポップスのムーヴメントだったと思うんですね。かつて、ビロードというバンドを一緒にやってた小山田(圭吾コーネリアス)くんはVENUS PETERのことをロック・バンドとして認めてくれていたし、当時、渋谷系にカテゴライズされたことに違和感はありました。それと同時に、いわゆるマッドチェスターもダンス・ミュージックとして好きだったし、95年の最初のソロ・アルバム『Hold Still-Keep Going』もソウルというか、大きな意味でのダンス・ミュージックだったんですね。でも、VENUS PETERはそういうバンドではなかったので、解散後はバンドでできなかった音楽を追究するようになって。96年のセカンド『Electroika』やその後のソロ・プロジェクト、Indian Ropeの作品はレイヴ・カルチャーにどっぷりハマったことで生まれたんです」。

 しかしその後、VENUS PETERの2度に渡る再結成はあったものの、名曲“Cloud Age Symphony”を主題歌に提供した「LAST EXILE」などのアニメ音楽の仕事を除き、2000年代以降は表立ったソロ活動をほぼ行っていなかった彼は、終わりのない音楽制作を延々と続けていた。

 「自分は完璧主義というか、下手なものが出せないという怖さを感じていたし、以前のようにレーベルの後ろ盾も何もなかったので、自信を保つのが難しい状況下で曲は書いていたんですけど、アルバムを完成させられなくて。そんななかで、2013年にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが出した『M B V』にはすごく勇気付けられたし、聴いてすぐに書いた“Welcome To My World”と、共同プロデューサーに迎えたPLECTRUMタカタ(タイスケ)くんが今回のアルバム制作を進めるうえで大きな推進力になったんです」。

Shuntaro Okino F-A-R INDIAN SUMMER(2015)

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 そして、ようやく辿り着いた新作『F-A-R』は、彼が繰り広げてきた遙かな音楽の旅を全14曲に焼き付けた、Indian Rope名義の作品『Gimmie Brighter』から数えて約14年ぶりのソロ・アルバムだ。ガレージ・サイケからシューゲイズ、フリー・フォークへと繋がっていくギター・ロックの系譜と、チルアウト、ダウンテンポからテクノ、エレクトロニカを内包したフリーフォームなダンス・ミュージックが溶け合うことで生まれる色彩、光や影は、幾多の時代をサヴァイヴしてきた音楽家、沖野俊太郎の全貌を初めてあきらかにした作品と言えるかもしれない。

 「60年代から現在まで、自分が通ってきた音楽の要素がすべて入っているアルバムを作りたいとここ数年考えていました。そう思いつつ、これまで作ってきた曲の膨大なストックのなかには、その時々で流行ってる音楽に触発されて生まれた曲もたくさんあったんですけど、そういう曲は残らなかったんですね。だから、この作品は、これまで通ってきた音楽を自分なりに完全に消化した曲――最後に生き残った曲たちのアルバムなんです」。

 


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ここでは沖野俊太郎が『F-A-R』に至るまでの2000年代以降の活動を紹介。Indian Rope名義でPort of Notesの企画盤『Joint Adventure』(クルーエル)にリミックスを提供したのが2002年。翌年にはShuntaro Okino名義でアニメ「LAST EXILE」、2005年には「ガン×ソード」の曲を手掛け、後者は『GUN×SWORD O.S.T.』(flying DOG)に収められました。さらに同年、VENUS PETERを1年間限定で復活させ、2006年には13年ぶりのアルバム『Crystalized』(Grooovie Drunker)を発表。同バンドの石田真人らと共に結成したOceanの活動を挿み、2014年には再度VENUS PETERを甦らせての新作『Nowhere EP』(同)が話題となります。また、2013年にはSUGIURUMNのアルバム『May The House Be With You』(ワーナー)にゲストで参加しました。 *bounce編集部