「音楽は国境や国じゃなく、人に属しているのさ!」
エチオピアの音楽が世界各地のジャズ・ミュージシャンやクラブDJから注目されて久しい。そのほとんどは、国外移民組も含めたエチオピアのアーティスト、もしくはエチオピアと欧米のアーティストの共演だが、東京ジャズで来日したインペリアル・タイガー・オーケストラはそうではない。スイス人とフランス人だけでエチオピア音楽をやっている。
「あるとき友だちにもらったエチオピア音楽の美しさにまいってしまった。だからジュネーヴのクラブで実験的なことをやってみないかと誘われたとき、エチオピアの音楽を演奏してみた。一回限りのつもりだったけど、評判が最高で、強いエネルギーを感じて、続けることにしたんだ」(ラファエル-R)
「ジャズ・ドラマーの父親の影響で、子供のころからジャズやワールド・ミュージックを聞いて、あちこちを旅した。でもエチオピア音楽に出会って、宇宙からバッファローが舞い降りてきたようなショックを受けて、毎朝目覚まし音楽として聞くようになったんだ。そしたらシリルが、ジュネーヴでエチオピア音楽をやっている奴がいるぞって言うじゃないか。それで押しかけていったんだ」(リュック-L)
日本盤も出た『ワックス』はエチオピアの旅をモチーフにしたアルバムで、各地のいろんな民族の音楽をとりあげ、近隣のソマリアやスーダンの音楽も演奏している。ディープな民謡が洗練された軽快なインスト曲に生まれ変わり、エレクトロニックな響きもさりげなく使われる。
「もとの曲のパワーやフィーリングを大切にして、そこから離れすぎないように、みんなで試行錯誤しながら新しいものをつけ加えていった。リズムとメロディが別のものじゃなくて、ひとつになっているのはアフリカの音楽の特徴。ポリフォニーだったら異なるメロディが同じテンポで演奏されるが、エチオピアの伝統音楽は複数の独立したメロディが、ときどき交差するという変わったシステムを持っているんだよ」(L)
それにしてもなぜスイス人やフランス人がエチオピア音楽を?
「ドイツ人や日本人もレゲエをやるだろう? 有楽町のビルの谷間で日本のファンがわれわれの演奏するエチオピア音楽で踊っている光景はクレイジーで素敵だった」(R)
「音楽は国境や国にじゃなく、人に属しているのさ」という二人は、沖縄の音楽や演歌や河内音頭にも目がないようだった。情報が地球規模で行き交う時代ならではの音楽のありようは、誰にも止めることができそうにない。