What A Nice Surprise
雲の上からカリフォルニアまでドリーミーに駆けるGOKU GREENが待望のサード・アルバムを完成した。リラクシンでYoung, Fresh & Greenなホテルに充満するものとは……黒鳥の生え抜きがいよいよ羽ばたく!
年齢はただの数字……と歌った人もいたけれど、それ自体がキャッチーなキャッチであったり、センセーションになりうる状況はどの分野でも同じことだろう。ロードにしろジャスティン・ビーバーにしろ、最近ではぼくのりりっくのぼうよみにしてもそうだが、ここで思い出すべきはもちろんGOKU GREENである。〈BLACK SWAN CASE#1〉としてオムニバスEPに収められた最初の公式音源“G-SHIT”(2012年)の時点で〈旭川在住の16歳〉というプロフィールは圧倒的に衝撃的だったものだし、小学生の頃からリリックを書きはじめ、14歳で曲作りを本格化させてきたという出自や、ネット上にアップした音源が注目された際も現役高校生であることに話題が集まったりもしたものだ。そのまま16歳で傑作ファースト・アルバム『HIGH SCHOOL』を投下し、翌2013年には2作目『Thrill Of Life』をリリース。昨年のBLACK SWAN新生に際しては、己の世界を掘り下げたEP『ACID & REEFER』を発表している。その頃には〈高校生ラップ選手権〉の影響などからティーンのラッパーが以前ほど珍しくなくなったこともあってか、GOKUが年齢とセットで語られる機会は流石に減っていたようにも思える。ただ、その間に実現したZeebraの“真っ昼間 New Boys Remix”にしても、SALUの“Studiolife”にしても、ある種のアップカミングな〈新世代〉感を望まれての起用だったことはよくわかる(どちらもT-Pablowとマイクを回していた)。そういう諸々を鑑みても、20歳になって完成させたサード・アルバム『HOTEL MALIFORNIA』は、GOKU GREENの真価が数字をヌキにして問われる勝負の一枚と言えそうだ。
タイトルからもわかるように全体のトーンは『ACID & REEFER』収録の“まるでCali”から枝葉を広げて育まれたものとも言えるが、レイドバックしたストーンドなビートに深く腰を下ろして吐き出される落ち着き払ったフロウの佇まいは、キュートさすら忍ばせてもいたメロディアスなフォルムから、不敵な風格を備えたものへと確実に進化している。向こう見ずで角の立った側面が磨かれたぶん、この数年かけて培ってきた思いや経験が大きな自信へと転化されたのだろう。パーティーとチル、仲間、女の子というサブジェクトこそ大きく変わらないものの、それは〈好きなものについてラップする〉という信条がいまも変わっていないことの証左に他ならない。
そんな才気を自在にフロウさせるビートメイカーには、最初期からの縁となるLil'諭吉、LIL'OGIに加え、FlammableやSaibeatz、LORD 8ERZ、さらにはスペインのクッキン・ソウルらがエントリー。ジャジーな冒頭曲“あいつは知らないけど”の大人びた快さにうっとりさせられてからは、ルーズにしてタイトな独特の語り口と密室的に響くトラックのブレンドにひたすら引き込まれるばかりだが、これまでにない尺の長さも手伝ってアルバムとしての深い奥行きを感じさせるのは確かだ。また、DOGMAにNIPPSという異能たちとの意外なマッチングのおもしろさも本作ならではの収穫だ。ともかく、色合いを変えていく展開も見事なI-DeAによる“Childish~I'll Feel Sorry For My G Thang”での仄明るい終幕には窓を開け放ったような眩しさが爽やかに射し込んでくる。ここからまたGOKUの新しい歩みが始まるのだろう。