福島から上京し、音楽家として、ひとりの人間として、美しく成長を遂げた彼女。頼もしき先輩たちと紡いだ多様な〈女性の歌〉と力強い視線が聴き手の心を射貫く!
アルバム全曲で、私自身
音楽に選ばれる人は確かにいると思う。それと同時に強い意志を音楽に注ぎ、その結果として音楽と強固な関係を結ぶ人もいる。片平里菜というシンガー・ソングライターは、後者としての光輝を放っている。いまから1年半前、ファースト・フル・アルバム『amazing sky』のインタヴューで、彼女は「いつか自分が歌えなくなる日がくるかもしれないと思うと怖くなるんです」と、切実な表情で語っていたことが印象深い。〈人生〉の前に〈音楽〉が付く生き方をみずからの手で引き寄せたからこそ、彼女は音楽を絶対に裏切らない。
福島県で生まれ育った片平里菜がアコースティック・ギターを持ち、爪弾きながら歌いはじめたのは高校3年生の夏休み。言うまでもなく、早いスタートではない。だが、それから2年の月日を経て、彼女は〈閃光ライオット2011〉で審査員特別賞を受賞。デビューのチャンスを掴んだ。誰しもにとって原体験を育む最後の機会となる10代の頃の記憶と感覚を、不器用な様相もすべて生々しい魅力に変換される言葉と旋律と声で紡ぎ、片平は忘れ難きシンガー・ソングライターとしての産声を上げたのだ。
さらにそれから2年後の2013年にシングル“夏の夜”でメジャー・デビュー。2014年8月に発表した『amazing sky』では、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの山田貴洋、亀田誠治、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND、HAWAIIAN6の安野勇太など、多彩なアレンジャーを迎え、みずからの音楽の可能性を広げた。あくまでその核はギター1本の弾き語りで勝負できる歌にあるという自負があったうえで、ロックやポップ・ミュージックのさまざまな手法を採り入れる。そんな片平の信条が浮き彫りになったのが、『amazing sky』だった。
片平はこの1年半のあいだに上京。より濃密になった音楽生活のなかでライヴと制作とリリースを重ねてきた。また、昨年12月に東京スカパラダイスオーケストラのシングル“嘘をつく唇”にゲスト・ヴォーカリストとして招かれるという貴重な経験もした。そして、いまの片平里菜を凝縮したのが今回のニュー・アルバム『最高の仕打ち』である。まず特筆したいのは、楽曲ごとに硬軟幅広い女性像を描くソングライティングと、細やかに表情を変えるヴォーカルの表現力が、格段の成長を遂げているということだ。そこに満ち溢れているのは、アーティストとしての揺るぎない自信である。
「東京でひとり暮らしを始めて、環境が変化したことで自然と書く曲の雰囲気も変わってきました。私のなかで東京はいましか住めない街だなと思っていて。刺激もいっぱいあるんだけど、それと同時に寂しさを覚えることも多くて。でも、逆にその寂しさが曲を書かせてくれる。そういう部分も含めて大好きな街になりました。この1年半、曲を書いてレコーディングしてライヴで歌うという繰り返しのなかで、どんどん自分を客観視できるようになったんです。そうなるにつれて、自信がついていったのかもしれないですね」。
破れた恋を見切って女の子の特権をチャーミングに歌う“Party”、10代の記憶を20代の視点で慈しむ“あの頃、わたしたちは”、オーセンティックなロックンロール・サウンドとコブシを効かせた歌声で女の強さをダイナミックに転がす“BAD GIRL”、繊細かつドリーミーな音像で神秘的な声色を浮かべながら、行間だらけの恋愛感情を綴る“そんなふうに愛することができる?”など、どの楽曲も独立した女性像を魅力的に映し出しているからこそ、女性シンガー・ソングライター特有の求心力が増したことをはっきり感じ取ることができる。
「前作より女性の目線で書いた曲が多くなりましたね。それは私自身の心境の変化がもたらしたものだと思います。ちゃんと自分が女性であることを認められるようになった。これまでは女性である前に、まず人として認められたいという感覚が強くて。でも、結局は身体的な強さでは男性には敵わないし、同じ土俵に立たなくても女性だからこその強さや繊細さを表現できると思うようになったんです。このアルバムでも曲ごとにいろんなキャラクターの女性を書いてますけど、結局どれも私自身だなと思うんですね。〈アルバム全曲で、私自身です〉という感じです」。
自分らしく、気高く
SCANDAL、cinema staff、亀田誠治、ミト、安野勇太、伊澤一葉、石崎光、Babi、島田昌典、須長和広と、前作に引き続き今作でも多様な音楽性を持ったアレンジャーが参加し、さらに多面的なサウンドスケープを獲得している。
「いまはどんな音楽にも興味があるし、吸収したいと思っていて。そういう自由な発想をさまざまなタイプのアレンジャーの皆さんと共有できて幸せですね。可能性がまたグッと広がったと思います。ここからまた、どんなサウンドでも歌えるなって」。
そのうえで、安野勇太の弾くアコギのみをバックに切実な歌を響かせる“最高の仕打ち”が素晴らしい。結果的にアルバムの表題も担ったこの楽曲は、すでにライヴでも披露され、昨年開催された弾き語りツアーのタイトルにも冠されていた。サビのフレーズは、こうだ――〈悔しさは飲み込んで それでも上を向く君は 誰よりも美しい人になれる それが最高の仕打ち ほら、最高の仕打ちをしよう〉。
「この曲はメジャー・デビュー直後に書いた曲なんです。10代の頃からこういったテーマの曲をずっとカタチにしたいと思っていたんですけど、やっとここまで強い曲を書くことができたという感触がありましたね。この曲で歌っていることは、私自身のことでもあるんですけど、世の中と照らし合わせても普遍的なテーマだと思うんです。誰かに傷つけられたときに、やられたらやり返すのではなく、自分らしく気高く生きて、美しい姿を見せることが〈最高の仕打ち〉になるんだと思うんですよね」。
インタヴューの最後に片平は「まだまだ曲にしたいことはいっぱいあります」と微笑んだ。その笑顔は「いつか自分が歌えなくなる日がくるかもしれないと思うと怖くなるんです」とこぼしていた1年半前の彼女には浮かべられなかったものだろう。片平里菜は、本当に力強く美しいシンガー・ソングライターになった。
「自信作になったからこそ、2016年はこの『最高の仕打ち』を携えてどこまでも羽ばたけるような一年にしたいと思います」
新作の多彩なアレンジャー陣を、片平里菜からのコメントを交えて紹介!
【伊澤一葉】
かつて東京事変で活躍し、現在は自身がヴォーカルを務めるあっぱに加え、the HIATUSのメンバーとして2014年作『Keeper Of The Flame』(ユニバーサル)などの近作に参加するキーボーディスト。『最高の仕打ち』では幕開けの“この空を上手に飛ぶには”を編曲。「生の演奏が素晴らしいのはもちろんですが、お人柄に触れてとてもおもしろい方だなぁと驚きました。レコーディング中もタバコを片手にあぐらをかいてピアノと向き合っている姿が印象的で、〈あぁだめだー〉と不服そうな本人の反応とは裏腹に、毎回素晴らしいピアノ……。演奏もキャラも最高です」。
【石崎光】
渡辺シュンスケと共に結成したcafelonでの活動でも知られる、リッケンバッカーがトレードマークのギタリスト/プロデューサー。近年も吉澤嘉代子の2015年のミニ・アルバム『秘密公園』(e-stretch)をはじめ、堂島孝平やさかいゆう、Rie fuの近作などで腕を振るっており、そのビートルズ~ELOライクなポップセンスは、今回アレンジを担当した“煙たい”“スターター”の2曲でも発揮されています。「“煙たい”の歌録りは3度目の正直で、2日も駄目にしてしまうほどなかなか声の調子が万全でなく、それでも良いものが録れるまで日を改めて徹底して付き合ってくださいました。光さんと対等に音楽のお話ができるようになったら楽しいだろうなぁ……。アレンジ大好きです」。
【亀田誠治】
80年代から活躍するプロデューサー/ベーシストで、2014年にはflumpoolのメンバーと共にTHE TURTLES JAPANを結成したことが話題に。最近だけでも高橋優や赤い公園、GLIM SPANKYなど多数のアーティストを手掛け、なかでも大原櫻子は2014年のデビューから2015年の最新シングル“キミを忘れないよ”(ビクター)までのほぼ全作に関わっています。片平とは2014年のシングル“Oh JANE”に続いてのタッグで、パンチの効いたロックンロール“BAD GIRL”を豪快に調理。「亀田さんと初めてお会いしたのはなぜか福島。どうしても音楽プロデューサーという肩書き(のイメージ)が先行していたので、お会いしてみてとてもチャーミングな方で驚きました。今回も“BAD GIRL”というツワモノを亀田さんテイストで料理していただきました。レコーディングはセッション一発録り、スリリングでした!」。
【cinema staff】
2015年の最新EP『SOLUTION E.P.』(ポニーキャニオン)で攻撃的なギター・ロックを提示した4人組とは今回が初対面。上京したての不安な心情を綴った“大人になれなくて”の編曲/演奏を担当し、風通しの良い爽やかなバンド・アンサンブルで主役の瑞々しさを際立たせています。「同じレーベル、同じ制作チームということで、いつ共作ができるのかとタイミングを見計らっていましたが、やっと! バンドというものに憧れながらもソロとして気張ってやってきましたが、今回cinema staffというバンドを間近で体感して、やっぱりバンドって良いなぁ……と(笑)」。
【島田昌典】
いきものがかりやJUJU、back numberら数々のヒット曲を手掛けるプロデューサーで、直近では昨年にメジャー・デビューしたGoodbye holidayのニュー・アルバム『with YOU』(avex trax)に関与。その感傷的なサウンドメイクは、先行シングルとなった今回の“この涙を知らない”でも貫かれています。「デビュー曲“夏の夜”や“女の子は泣かない”ぶりでお願いすることができてとても嬉しいです! 島田さんの楽曲にはいつもイントロから掴まれてしまいます。“この涙を知らない”は失恋のバラード曲。去年はレコーディングだけでなくラジオやライヴでセッションすることが何度かあって感動しました……」。
【SCANDAL】
ダンサブルな2015年のシングル“Sisters”(エピック)に続き、3月にはニュー・アルバム『YELLOW』のリリースを控える4人組ガールズ・バンド。片平との初コラボとなる“Party”では、ガッツ溢れる力強い演奏で主役を盛り立てています。「性別なんてどうでもいいことなのだけれど、女の子5人で作り上げたこの曲は私のアルバムのなかでも最速、堂々と骨太でロックな曲となりました。今回ご一緒させてもらって、SCANDALというバンドに惚れました。バンドに混ざらせてくれて本当にありがとうございました! いつかライヴも一緒に!」。
【須長和広】
ジャズ・クァルテットのquasimode(現在は活動休止)に在籍する傍ら、プレイヤーとしても幅広く活躍するベーシスト。2015年の初ソロ・アルバム『MIRROR』(ユニバーサル)では自身の歌も織り交ぜてジャズ経由の柔らかなポップスを紡いで見せましたが、片平との“舟漕ぐ人”はその延長線上にあるサウンドに。「何度かレコーディングでも演奏してもらっていたのですが、去年にリリースされたソロ・アルバムを聴いてとても素敵な作品だったのでお声掛けさせてもらいました。ナチュラルな音が合わさって繊細で優雅な楽曲にしていただきとても気に入っています。いつも須長さんの爽やかな笑顔に癒されています!」。
【Babi】
クラシックなどの素養を下地とする多重録音を駆使したカラフルな作風で知られ、2013年作『Botanical』(noble)などを残す音楽家。今回アレンジで携わった“そんなふうに愛することができる?”では、音数を絞ったエレクトロニカ調の繊細なサウンドで、不思議な浮遊感のある楽曲に仕立てています。「この曲はアルバムの鍵となる曲にしたいと思っていて、ポップなものとしてではなく、水面下の異世界に連れて行ってくれるような楽曲にしたいと思っていました。Babiさんと(の作業)は今回が初めてで、私の思いや曲のメッセージをひとつずつ丁寧に汲んでくださる素敵な女性でした。ひんやりとした街と鼓動、音での表現力に感銘を受けました。またぜひよろしくお願いします!」。
【ミト】
昨年に結成20周年を飾る『triology』(コロムビア)を発表したクラムボンをはじめ、ソロを含む多数のプロジェクトやベーシスト/プロデューサー/作曲家として活動の場を広げる彼は、ピアノを中心とした煌びやかなバンド・サウンドがロマンティックに弾む“Love takes time”を編曲。「ミトさんにアレンジしていただいて、自分にとってまた新しいジャンルに挑戦することができました! ミトさんのベースと柏倉(隆史)さんのドラム、リズム隊が歌を生き生きと輝かせてくれる魔法のような曲になりました。次はぜひヴォーカル・ディレクションもお願いします!」。
【安野勇太】
2014年作『Where The Light Remains』(IKKI NOT DEAD)以来の新作も待ち遠しいHAWAIIAN6のフロントマンとしてメロコア・シーンを突っ走る一方、最近では声優の佐藤聡美などに楽曲を提供する彼。アルバム表題曲となる“最高の仕打ち”にて会心のギター・プレイを披露しています。「1年前からバンド・アレンジで進めてきた“最高の仕打ち”、最終的に勇太さんのギターと私の歌のみのレコーディングとなりました。手がつりそうになりながらも勇太さんにしか弾けないであろう激ムズなコードを何度も……。アルバムの核となるこの曲を一発録りで最高の曲として世に送り出せることを幸せに思います」。
