(左から)アデ、カルロッタ、アンバー、アナ
 

世界でいまもっとも勢いのあるガールズ・ガレージ・バンド、ハインズ――まだカルロッタ・コシアルスアナ・ガルシア・ペローテ(共にヴォーカル/ギター)によるデュオだった2014年3月にBandcampで公開したデモがイギリスを中心に各国で話題となり、その年の夏には4人編成のバンドとしてスペインのマドリードから世界に飛び出していったんだから、そんな惹句は決して大袈裟ではない。

2015年、もともとのバンド名だったディアーズ(Deers=鹿)から、同名バンドがいたことを理由にハインズ(HiNDS=雌鹿)に改めた彼女たちは、アジア、オーストラリア、アメリカを回るワールド・ツアーを実施。演奏することが楽しくて仕方ない!という想いが弾けた天真爛漫さで、行く先々のオーディエンスを虜にした。そして今年1月、〈ほっといて、やりたいようにやるわ〉というバンドのモットーをタイトルに冠した待望のデビュー・アルバム『Leave Me Alone』をリリース。現代のボヘミアンらしいサイケデリックなムードを纏いながらも何にも縛られない、誰にもおもねらない4人の存在感が剥き出しにしたガレージ・ロックの魅力を改めてアピールした。

そんなアルバムを引っ提げてワールド・ツアー真っ只中の彼女たちが、ついに日本上陸。4月17日にタワーレコード渋谷店で行われたライヴの本番前、しばしばこちらを置き去りにしたガールズ・トークに花を咲かせながら、インタヴューに応えてくれた。

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★マドリードの女子ガレージ・ロック・バンド、ハインズが徹底したDIY主義のメッセージ込めた初作『Leave Me Alone』を語る(bounce転載)

ハインズの2016年作『Leave Me Alone』収録曲“Chili Town”

――初めての東京はいかがですか?

カルロッタ・コシアルス「We love Tokyo!! 街の雰囲気、ビルディング、日本食……私たち全員、日本食が大好きなの! ホントはね、もっと未来都市っぽいと思ってたんだよね。なぜだかわからないんだけど。でも、思っていたほどではなかった。そういうところも含めて、すごく好き!」

――日本食は何を食べましたか?

カルロッタ「スーシ! ミソスープ!」

アデ・マーティン(ベース)「ナルト! ギョーザ!」

アナ・ガルシア・ペローテ「サケ、ヤムチャ!」

――あ、いやいや、飲茶は中国料理なんですよ。

アナ「あ、そうなんだ(笑)」

――納豆には挑戦した?

カルロッタ「まだよ。美味しいの?」

――うーん(笑)、日本人でも好き嫌いが分かれるかな。

カルロッタ「へぇ。魚(たぶん、寿司ネタのこと)はサケとマグロが好き」

アデ「おにぎりも!」

アナ「うん、セブン-イレブンのおにぎりは美味しいわ」

――どこかに遊びに行きました? そんな時間はなかったかな。

カルロッタ「渋谷駅に近いホテルに泊まっているんだけど、ホテルの近くに小さなバーが密集している通りを見つけて(のんべえ横丁?)、その中にある4人ぐらい入ったらいっぱいになっちゃうような小さな店に入ってみたら、とてもいい雰囲気で楽しかった!」

――ところで、今年3月に開催された〈SXSW〉で、皆さんのライヴを観せてもらったんですけど、その時にアデは〈TOKYO〉とロゴの入ったTシャツを着ていましたよね?

カルロッタ「ロンドンで買ったのよ」

アデ「そう。東京に行くことが決まっていたし、デザインも気に入っていたから買ったんだけど、考えてみたらちょっとトゥーマッチなんじゃないかって気がしたから、今回は置いてきちゃった(笑)」

――なーんだ(笑)。今年の〈SXSW〉で皆さんがやったライヴは4日間で全17公演。なんでも、マネージャーからはそんなにやる必要はないよと言われたにもかかわらず、前年の全16公演という記録を更新したいから挑戦したと聞きました。〈SXSW〉に出演したバンドは、一度それだけの数のライヴをやると、もうこりごりってなることが多いんですけど、皆さんはよっぽどライヴが好きなんだなと思いました。

アナ「ライヴはもちろん好きよ。でも、〈SXSW〉の雰囲気が何よりも好き。みんなが酔っ払いながらライヴを楽しんで、うわーって盛り上がるあのクレイジーな感じがね。最初の年がすごく楽しかったから、もう一回、あの楽しさを体験したかった。でも、実際できるのかどうかちょっと心配もしていたんだけど、全17公演、無事にできてとても良かったわ」

ハインズの2016年の〈SXSW〉におけるライヴ映像
 

――自分たちのライヴで忙しかったと思うけど、何かいいバンドを見つけることはできました?

カルロッタ「ライヴはいっぱい観たわ。20バンドぐらい観たかも」

アナサンフラワー・ビーンは初めて観たけど、とても良かった」

サンフラワー・ビーンの2016年作『Human Ceremony』収録曲“Easier Said”
 

アデ「あのバンド、何って言ったっけ? ほら、あの頭のおかしな連中(笑)」

カルロッタ「ああ、あの連中! 何てバンドだったっけ(笑)?」

アナスティーリング・シープも良かったわよ」

カルロッタ「うんうん。イギリスの女性3人組なんだけど、彼女たちはとても良かった」

スティーリング・シープの2015年作『Not Real』収録曲“Apparition”
 

アナ「今回はマドリードを含めてスペイン出身のバンドが結構出演していたんだけど、私たちはいつも海外でツアーをしていてスペインを離れているから、普段はなかなか会えない友達のバンドに会えたのも良かった」

アデ「まるで同窓会みたいだったわね」

――いま、いつも海外でツアーしているという話が出ましたけど、2015年は世界各地を回って133本のライヴをやったそうですね。それだけ数をこなせば、演奏もかなり上達するだろうし、バンドとしての結束もより強いものになったという実感があるんじゃないですか?

アナ「それだけライヴをやって良かったのは、いろいろな場所で、いろいろなことを試せたこと。アメリカではこうやってみよう、ヨーロッパではこうやってみようとか、いろいろ実験的なこともやってみた。その反応を受け止めて、そこからまた新しいことが生まれたという意味では有意義だったわ。もちろん、バンドの絆もより深いものになったし」

――いろいろなこととは、具体的にどんなことを試したんですか?

アナ「フフ。ちゃんと名前があるのよ。例えば〈ウッドストック〉というのは、オーディエンスが私たちの音楽をじっくり聴きこんでいるようなライヴを言うんだけど、そういう時は私たちもそんなにワイルドなことはせず、場合によっては目をつぶって演奏するぐらい演奏に集中するようにしている。〈バーガー・マニア〉は、まさに〈バーガー・マニア〉というバーガー・レコードのイヴェントに出演した時のライヴがきっかけになったんだけど、ステージの上でジャンプしたりクラウド・サーフィンしたり、もうハチャメチャになるぐらいワイルドにやるスタイルね。それと〈ファット・ボーイ・ファミリー〉。これは打ち合わせもせず、感情の赴くまま、何でもやっちゃえ!っていうライヴ。常識を打ち破るのよ」

――〈ファット・ボーイ・ファミリー〉ですか。

アナ「そう。ファット・ホワイト・ファミリーっていうメチャクチャなバンドがロンドンにいるじゃない。彼らみたいなライヴをめざしているのよ。それともうひとつ、〈ウィーズ〉。これはハッパを吸ったかのようにチルアウトした感じですごくメロウにやる。本当に吸うわけじゃないわよ(笑)。そうやって、今日はこのスタイルで行こうみたいな感じでいつもやってるのよ」

ファット・ホワイト・ファミリーの2016年作『Songs For Our Mothers』収録曲“Whitest Boy On The Beach”
 

――昨年の〈SXSW〉でもハインズのライヴを観せてもらっているんですけど、毎回心底楽しそうにステージで演奏している皆さんを見ていると、僕も含めて多くの人が幸せな気持ちになれるからこそ、ハインズは世界各地で歓迎されているんだと思います。でも、バンド活動は楽しいことばかりではないですよね?

アナ「そうね。ツアーに出るたび、毎回必ずひとりは感情的になってステージに上がれなくなっちゃうことがある。期待が大きければ大きいほど、注目されればされるほど、ちゃんとやりたいって思うんだけど、そういう気持ちとは裏腹に、どうしても気持ちが付いていかない時もある。それは全員が経験しているわ」

――そういう時はどうやって乗り越えるんですか?

カルロッタ「こうすれば乗り越えられる、なんていうものはないわ。その時は一人にしてあげて、とことん泣いて、気持ちを切り替えたり、周りの人たちの協力でムードを変えてみたり。ケース・バイ・ケースで対処するしかないのよ」

アナ「だって、これまではマドリードからどこへも行ったことがなかった女の子たちが、いきなり世界に飛び出していったのよ」

カルロッタ「世界を知らないぶん、怖いもの知らずに何にでも挑戦できるところはあるけど、どうしようもない時もある」

ハインズの2015年の〈KEXP〉におけるライヴ映像
 

――ハインズ(当時ディアーズ)が4人編成のバンドになった時のことを、アデとアンバーに訊きたいんですけど、2人はカルロッタとアナに誘われた時、どんな可能性を感じたんですか?

カルロッタ「聞かせて、聞かせて!」

アデ「一言で言えば、ヘンな感じ(笑)。カルロッタとアナはもともと友達だったから、2人がリハーサルしているところに顔を出して、いろいろアドヴァイスしていたのよね。私はこの2人よりも音楽のことをわかっていたから。最初はそんなふうにマネージャーっぽい立場で傍にいたんだけど、ある時コンテストに出ようということになって――その時はもうアンバーもいて、〈どうしてもベース・プレイヤーが必要だからお願い!〉って言われたの。でも、私はもともとギタリストだったし、ベースなんてやったこともないし、ちゃんと弾けるかどうかわからないから、正直やりたくなかった(笑)。でも、コンテストのちょうど1か月前、私の誕生日にカルロッタとアナがベースをプレゼントしてくれたから、そこまで言うなら仕方ないと渋々引き受けたの。でも4人で初めて音を出した時に〈これこそバンドだ〉と思えて、それが楽しかったからベーシストになったのよ」

ハインズの2016年作『Leave Me Alone』収録曲“Bamboo”
 

――アンバーはSNSを通じて、メンバーと知り合ったそうですね。

アンバー・グリムベルゲン(ドラムス)「そう。カルロッタとアナがまだデュオでやっていた時、なぜかアナからFacebookに友達リクエストが来て、ちょっとびっくりしながら返信したら、〈実はドラマーを探してるんだけど〉って話だったのよ(笑)。それでドキドキしながら2人に会った。その時アデはまだ友達としてリハーサルに来ていたんだけど、初めて会ってから3日か4日後にはこの4人でバンドになっていたわ」

HINDS Leave Me Alone Lucky Number/Mom+ Pop/RED Project(2016)

――デビュー・アルバムの『Leave Me Alone』はあえてローファイなサウンドを意識しながら作ったそうですが、逆に言えばローファイじゃないサウンドも作れたということですよね。今後、バンドの成長と共にハインズのサウンドも変わっていくと思うんですけど、どんなふうに自分たちの音楽を進化・発展させていきたいですか?

カルロッタ「やりたいことは基本、変わらないと思う。もちろん、この次にレコーディングする時には経験も積んでいるし、知識も増えているからデビュー・アルバムとは違うアイデアもいろいろ生まれると思う。そのアイデアを形にする方法も徐々にわかってきているから、当然レコーディングのアプローチは違うものになるわね。でも、それは演奏力や技術の話。私たちの音楽のベースになるものは変わらないと思うし、大事にしていきたいわ」

――デビュー・アルバムでは主にほろ苦い恋愛体験を基にしていたという歌詞のテーマも変わりそう?

アナ「もちろん、私たちは自分たちの日々の気持ちを歌にしているから、経験を積んで人として成長すれば興味を持つテーマも変わる。歌詞だって当然変わっていくと思うわ」

ハインズの2016年作『Leave Me Alone』収録曲“Garden”