とことんローファイでほんのりサーフ風味のアンサンブルと、ホロ苦い恋物語を描くブロークンな英語の詞、そしてお喋りするように歌う2人の女性の素朴なハーモニーが織り成すギター・ポップは、いまにもホロリと崩れそうなくらいに隙間だらけで危なっかしい。でも何も足したいとは思わないし、隙間の隅々にまで作り手のパーソナリティーが染み渡っていて、人懐こく耳に絡む。そんな不完全なパーフェクションで世界を魅了したバンドの故郷は、LAでもグラスゴーでもなく、何とマドリード。活きの良いガレージ・ロックの宝庫としてじわじわ存在感を強めているスペインの首都から、先陣を切って世界に羽ばたいたのが本稿の主役、ハインズなのである。
その核にあるのは、2009年に出会ったカルロッタ・コシアルスとアナ・ガルシア・ペローテの固い友情だ。ボブ・ディランからXXまで雑多なアーティストの楽曲を、アコギ片手に遊び半分でカヴァーしているうちに、カルロッタいわく「2人の声をフィットさせる感覚」にすっかりハマり、やがていっしょに曲を書きはじめたという。
「初めて曲を完成させた時、本当にスペシャルなものが生まれた気がして、〈これ最高じゃん!〉と思った。だって、私たちが大好きな音楽だったの。好きな音楽を聴きたいという理由だけで、自分たちのために曲を作ったのよ」(アナ)。
そう屈託なく話す彼女たちは、2013年にアデ・マーティンとアンバー・グリムベルゲンを迎え入れ、オール・ガールズのフル・バンドとして再出発。以来、ツアーに明け暮れ、英国を中心に注目を集め、〈ネクスト・ビッグ・シング〉と騒がれるまでに時間はかからなかった。「要するに素晴らしい音楽を作っていたってことよ。他とは違うことをやっていたのね」とアナ。よって4人のファースト・アルバム『Leave Me Alone』は大きな期待を背負っていたわけだけど、アルバム制作のアプローチもやっぱりマイペース。同郷のこれまた話題のバンド、パロッツを率いるディエゴ・ガルシアにプロデュースを依頼し、ほぼ全編ライヴで録音したそうだ。
「最初のアルバムは身分証明書みたいなものだし、これまで発表したシングル曲のヴァイブに忠実なローファイさを維持して、サウンドを磨かないことにしたの。ローファイな音楽が好きだから! あまりにもローファイで、いまどきこんなアルバムって他にはないかも。最新設備のスタジオを使ったんだけど、結局アナログ・テープで録音したし、何もかもハンドメイドだってことが音から伝わると思うわ」(カルロッタ)。
そんなふうに自己流を貫く4人だから、〈ほっといて〉と突き放すアルバム・タイトルも実にお似合い。既存のルールに従わないゆえに周囲から揶揄され、辟易していたためだというが、自分たちにとって楽しいこと、正しいと思うことだけを追求する徹底したDIY主義には明確なメッセージが込められている。
「まず、音楽シーンでの女性を巡る状況に関して責任を背負っていると思う。バンド活動をしていると、女性と男性の間にあまりにも大きな隔たりがあって、そこを何とかしたいの。それにもちろん、ロックンロールも掘り下げたい。リアルなロックンロール、リアルな音楽を鳴らして、ビジネス化から音楽を救って、フィーリングに根差したアンダーグラウンドな表現に戻したいのよ。完璧に歌う必要はないし、ガリガリでブロンドである必要もないし、アメリカ人である必要もない。私たちからすると、音楽を台なしにしているものが世の中にはたくさんあると思うから、微力ながら可能な範囲内で音楽を原点に回帰させられたら、と願っているわ」(カルロッタ)。
ハインズ
カルロッタ・コシアルス(ヴォーカル/ギター)、アナ・ガルシア・ペローテ(ヴォーカル/ギター)、アデ・マーティン(ベース)、アンバー・グリムベルゲン(ドラムス)から成るマドリードの4人組。2011年にカルロッタとアナが前身となるディアーズを結成。2013年にアデとアンバーが加わり、2014年9月にリバティーンズの前座を務める。2015年1月にバンド名をハインズに変更し、4月にはバーガーからカセットテープ限定で『Burger』をリリース。〈プリマヴェーラ〉や〈グラストンベリー〉など大型フェスにも出演して話題を集めるなか、今年1月にファースト・アルバム『Leave Me Alone』(Lucky Number/Mom + Pop/ソニー)を発表。このたび、その日本盤をリリース。