往年の名指揮者ベイヌム(1901~59)が遺した数少ないステレオ録音の一つで、彼が56歳にして最晩年のアバドに比肩する境地に至っていたことを証明している。彼はここで楽譜を解釈するのではなく、隅々まで読み取って演奏しており、全ての音符に意味があることを痛感させてくれる。これら聴き慣れた名曲の、その折々の楽器配合の意味や色合いの変化を、陰影の深い響きと多彩な音色で次々に明らかにしてゆく。60年前のコンセルトヘボウ管弦楽団の繊細な表現力と豊かな音楽性にも驚かされるばかり。重厚であるのに軽やかで、豊麗であるのに透明な合奏は、深い眼差しを浮かべて聴き手に語りかけてくる。