人を持ち上げるだけ持ち上げておいて、ボロ雑巾のように捨ててしまう今の世相にぴったりの名曲に名演が生まれた。語り役のジャンヌが独り民謡の節を歌う場面がこれほど哀しく響いた演奏はなかった。この作品の名盤といわれる小澤征爾録音はドラマに対してクライマックスへ向けて直球勝負で魅力を伝えていた。このドゥネーヴとコンセルトヘボウ管は、クライマックス前のジャンヌの幸せな思い出や悲劇へのエピソードをやわらかで色鮮やかな筆致で、火刑台での死への覚悟を決めた場面でもただ絶叫するだけでない、抑揚で聴かせる。高音質で音場の広い録音は、オーケストラと合唱の巧さ最上級に伝えている。
ステファヌ・ドゥネーヴ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 『オネゲル:劇的オラトリオ《火刑台上のジャンヌ・ダルク》』 やわらかで色鮮やかな筆致と抑揚で聴かせる
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