今年3月をもってコンセルトヘボウ管の首席指揮者を勇退するヤンソンス。ブルックナー録音はそれほど多くないが、音楽の流れを妨げることがない流麗な彼のブルックナー像は、いわゆるブルックナー指揮者とは言えないかもしれないが、淀みのない真摯な音楽像に非常に好感が持てるのも確かだ。これまでコンセルトヘボウ管とは第3、4番のライヴ盤が発売されており、さらに'08年のバイエルン放送響との第7番があった。
今回の録音はそれぞれ2012年3月、9月と最近ではないとはいえ、ここ数年のヤンソンスの充実振りを見事に反映した出来。オケの木質的とも言えるつややかさを持った独特の音色と相まって、ブルックナーを聴いているという充実度が高い。コンセルトヘボウ管の第6番と言えば、1980年11月のヨッフムによるライヴ盤(TAHRA-廃盤)を一番に思い起こす。強固な構成力とダイナミックなコントラストにより、作品として小降りと思われていたこの曲の真価を再発見させてくれた名演。今回のヤンソンスによる演奏では演奏時間が53分強と、ヨッフム盤より約5分短い。だが時間的な充足感の不足は一切なく、力みなく音楽が流れゆく。ちょうどパーヴォ・ヤルヴィ盤が出るが、時間的にはそれほど変わらない。しかし出てくる音楽はまるで違う。互いにリズムの遅れによる曖昧さや弛緩は一切なく、良い意味で見通しの良い音楽となっているのも興味深い。
第7番は以前の盤より2分弱短いが、基本的にはこちらも良く流れ美しい音色が響き続ける。それにしても今回の演奏は、短期間では決して成し得ない音色であり、両者の成熟振りを示したと言えるのではないだろうか。このコンビが形式上無くなってしまうのは惜しいが、コンセルトヘボウ管の響きが時代を追うごとに変わっていく宿命を考えれば、次世代の響きはどうなって行くのか、心配と共にこれからも名立たるブルックナー・オケとして君臨して行って欲しいと切に願うばかりである。