フレンチ・エレクトロニカの重要人物が来日、その進化形を披露
パリの現代アートの拠点〈ポンピドゥー・センター〉のサウンド・ディレクターでもある、フレンチ・エレクトロニカの重要人物セイセットが六本木の新ヴェニュー〈VARIT〉で来日公演を行った。昨年リリースのアルバム『Mirage』を携えたアジア9都市ツアーの一環だ。「思春期の頃に出会った宮崎駿映画や『AKIRA』が、自分を形成するカルチャーの中でも特に大切なものだ」と話すセイセット=ピエール・ルフェブ自身にとっても、東京公演は待望だったという。
「東京は二度目だけど、今回の滞在では美術館やギャラリーを歩いて巡ったり、代々木公園でのんびり過ごすことができた。満開の桜も初めて実際に見て、想像以上の信じられない美しさだと思ったよ」
満開の桜の花々が見せる、目の前の風景が現実から少しだけ離れるような感覚。儚く幻想的な美しさ。セイセットの『Mirage』にもそうした趣がある。彼の音楽性は、エレクトロニカという括りにおいて、電子音へのフェティシズムやチルアウト機能寄りのアンビエントとは一線を画す。その繊細なエレクトロニクスはあくまで、美しいメロディや幻想的な女性ヴォーカルを引き立てるためにある。まさに蜃気楼のようなシンフォニーを、メロディと音響で生み出す音楽だ。
「だけど現在のことを言うと、ライヴに関してはアルバムよりも激しく暴力的なアレンジでやりたいと思うようになってきた。攻撃的な激しいサウンドと、『となりのトトロ』みたいに穏やかで不思議な世界観、その両方をミックスできないかと考えているんだ」
“暴力的な”と彼は言うが、思えば2014年末に『Mirage』を完成させてから、彼が暮らすパリの街では二度の悲惨なテロがあった。地元での痛ましい出来事が、彼の内面にも何らかの変化を残したのか。
「激しいライヴをしたいと思うようになったのには、もしかしたら一連の事件の影響があるのかもしれないけど、自分としてはまだそう確信はできない、という感じなんだ。亡くなった人も大勢いて、空虚感や喪失感をリアルに感じている。でも、あれが自分にとって何だったのかは、もう少し時間が経たないとわからないと思っている」
この話の後、セイセット東京公演を観た。本人が言うようにパワフルなビートは時にテクノへと接近し、かつドラマティックな展開のセットに観客のヴォルテージはかなり高まっていた。次回作については「まだ着手していないし、どんな形になるかも見当がつかない(笑)。進むべき道を見つけるのにまだ時間が必要だよ」とのことだが、ダンスフロアにアプローチする手応えを、自身が感じたステージだったのでは?