写真/cherry chill will
 

最高はひとつじゃないが、最低のMCはもちろんひとりしかいない。完全制覇の名の下に生まれたアルバムを引っ提げて、ラスボスは余裕のマイペースでぶっぱなす!

こうなっちゃったよ

 「いま僕のことを知りはじめた人っていうのは、恐らく例の番組がきっかけだと思うし、それは入口としていいと思うんですよ。そこから、実はこういう活動もしてますよって知ってくれたらいいし、難しいこと考えないで作品を聴いて、おもしれえな、こんなヤツもいるんだなって思ってくれたらいちばんいいですよね」。

般若 グランドスラム 昭和レコード(2016)

 MCバトルをテーマにしたTV番組「フリースタイルダンジョン」に〈ラスボス〉として出演、特に7年ぶりのバトル復帰となった焚巻との一戦が大きな話題となり、いままで彼のことを知らなかった世代やリスナー層からも注目を集めている般若。家族を持ったことを主題にした前作『#バースデー』(2014年)以降は、日比谷野音でのワンマン開催や初の映画出演、tha BOSSとのコラボなどさまざまな話題もあったが、通算9作目となる『グランドスラム』には、またしても一面的なイメージの規定をかわすような彼の姿がある。

 「タイトルは早いうちに決めてたんですよ。俺がずっとライヴや作品を重ねて戦ってきて、〈一掃/制覇〉って、いま言えることだなって。いつもそうですけど、今回はある意味到達したなっていうアルバムです」。

 例えば全体の彩りという意味では『コンサート』(2013年)に近いバランスが感じられるし、空気を読まない破天荒なユーモアから、毒を吐きまくる初期の彼を思い出す人も多いだろう。

 「ああ、ファーストっぽいって意見は数人から聞きましたね。今回は1枚目から8枚目までの何かが入ってて、総集編みたいなとこはあるかもしんない。ただ意識してそうなったわけじゃなくて、それよりも一曲一曲にフォーカスを当てて作ったし、8小節だ16小節だってのも全部ぶっちぎって、好きなようにやりました」。

 とはいえ、完成までには時間がかかったようで、今作はもともと着想のあった別テーマの作品を棚上げし、昨年の秋ごろから新しく作りはじめたものだという。その過程で制作を大きく前進させたのが、すでにライヴで披露している“あの頃じゃねえ”だ。件の番組における焚巻とのバトル後に書き上げたというこの曲は、駆け出しの時代や当時のグループへ寄せる心情、同志たちへの思いも交え、熱さを込めて〈あの頃〉を語ったもの。漲る気迫で〈今〉を肯定するこのドラマティックな一曲は、結果的にアルバムの全体像を描き上げるきっかけになった。

 「その前に何曲か手を付けてはいたんですけど、大きなひとつではありましたね。そんな過去を振り返るようなことはやりたくなかったんですけど、焚巻と戦って、次の日ぐらいにもう書き上がったんですね。あと、その頃ぐらいに、本を出さないかという話があったんですよ。ただ、だったら曲でやりゃいいじゃん、って」。

 念のために言っておくと、『グランドスラム』が自伝的な作品ということではないし、彼がマイクを握って20年という節目への感慨が示されているわけでもなければ、ハードコアやシリアスといった一定のイメージを引き受けるものでもない。もっと言うと、作中での露悪的な振る舞いは〈父親だから〉〈家族ができたから〉という安易な前提からも程遠い。何なら、もっとも子どもに聴かせたくない類いの下衆な主題も含まれている。

 「それならそれで正解かもしれないっすね(笑)。作ってる時は没頭してるんで、自分ではわかんないけど……まあ……こうなっちゃったよ(笑)って。ただ、自分の曲はみんなが絶対にどこか共感する部分があるんじゃないかと常々思ってるんですけど、まさにそういう作品だと思うんですよ」。

 

核心には触れてる

 幕開けの“我覇者なり”から文字通りの“自己紹介”、そして真骨頂ともいえる“寝言”へ至る序盤の流れは、般若らしい鋭さと遊び心を余裕たっぷりにプレゼンしていて、この一連の展開がまとめて〈自己紹介〉としても機能する。得意のネームドロップもバシバシ散りばめられていて、それはある意味ビギナーへの親切なサーヴィスとなるかもしれない。なかでも、「最初に謝っちゃえばこっちのもんだろっていう下衆な精神」を下地に、〈寝言〉を介して言いたい放題にトピックをどんどん切り替えていく“寝言”は持ち前の話芸が冴え渡る逸曲だ(MVも必見!)。

 「コントや漫才、落語を見てたりとかして、話がどんどん切り替わっていくような手法のラップを自分がやりたかったし、ありそうでなかったものじゃないですか。いろんなテーマが入ってる曲があってもいいし、今回はALI-KICKの3拍子のビートで歌ってたり、縛られないで、自分の表現を突き詰めただけです。僕の言ってることは伝わりづらかったりするんですけど、核心にはけっこう触れてるかなと思う。偉そうな言い方かもしれないけど、説明しなきゃわかんないものって、そこまでのものなんですよね。かっこいいと思うものとか、本当に好きになるものって、説明されてそうなるもんじゃないし。たったそんだけのことですね」。

 笑かしにきていたり、剥き出しの表情があったり、率直さと天の邪鬼な部分がゴチャ混ぜになった多面性は今回もブレていない。それを支えるのが、フレッシュな顔合わせとなるbookeyやdubby bunny、理貴、さらには久々に組んだタイプライターら多様な顔ぶれの多彩なビートだ。日常の淀みを淡々と観察するようなセルフィー 、かつての“心の理由”(DJ PMX:2012年)に通じるテーマで吐かれた“なにもない”など重ための起伏も設け、素朴な歌心を滲ませた楽曲から軽快なロック・チューンまで、言葉と音の折り合う様子は先述の“あの頃じゃねえ”をピークにしつつ、予想の範疇に収まるものではない。〈ニトロじゃないほうのNTR〉〈終わったあと賢者/2時間も経てば拙者が戦車〉などヒドすぎるパンチラインを散りばめたファンキーな“たちがわるい” はその最たるもので、内容についてはあえて文字にしないが、ここでは唯一の客演者としてR-指定を道連れ(?)にしている。

 「彼は被害者ですね(笑)。オケ聴いて自分のヴァースを書いてる時に、アイツしかいないと思って。コンビニの前とか居酒屋で話してるようなくだらない話の延長みたいなものをやっていきたいし、夢を語ったりもすることもあるかもしれないですけど、だいたいは女だ金だって話が超リアルだと思うんですよ。まあ……アイツには申し訳ないですけど(笑)」。

 そんなタチの悪さと、“月の真ん中”や“ビビりながら”のグッとくる詩情が隣り合う様子は、その引き出しの多さを示すと同時に、アルバムという形態への般若のこだわりも窺わせる。

 「そうですね。曲単位でももちろん嬉しいですけど、やっぱりアルバムを聴いてほしいですよ。アルバムを出すのは音楽をやってるうえでの筋の通し方というか、アンサーだと思うんです。こんなにラップというものが広まって、いろんなタイプのラッパーが認知されて、すげえいいなと思ってるし、いつかブームは終わりますけど、その時に何が残って、何を残せるかって時に唯一正しいのは、自分が走ってればいいってことだけなんで。何かを発信するのはとても簡単になってるけど、自分がすべきこととしてアンサーは出し続けていきたいです。俺が言えるのは、音源聴いて一回ライヴ来てよっていうだけで。そこは『おはよう日本』から変わってないですね」。

 

近年のCDで聴ける般若ワークスを紹介

般若 #バースデー 昭和レコード(2014)

それ以前の諸々はバックナンバーなどをご覧いただくとして……こちらは前作にあたる通算8作目。KOHHと亡き父へ語る強烈な“家族”、SAYと新たな生命を迎える表題曲がハイライトではあるが、LUKA THE KISARAGIを抜擢した“目黒川”など佳曲揃い。

 

t-Ace フザケタヒーロー Pヴァイン(2014)

水戸の顔役とはエモーショナルな好曲“ダレも知らないブルース”でコラボ。揃って老人に扮したMVも話題になった。プロデュースを担当したのは、新作で“あの頃じゃねえ”を手掛ける以前から般若とも馴染みのCHIVA(BUZZER BEATS)。

 

NORIKIYO 雲と泥と手 諭吉(2014)

“皿に毒盛る料理店”のリミックスとして前年末に配信されていた“更に毒盛る料理店”に般若が助太刀。肉包丁の鋭さで話題となったオリジナルに輪をかけ、例の〈ダレノガレのアレを舐める〉などをブッ込みつつ妙に楽しそうな客演ぶりが最低だ。 

 

HAIIRO DE ROSSI KING OF CONSCIOUS forte(2014)

休養からの復帰シングルとしてここから先行カットもされた名曲“Ready To Die”に般若がフィーチャー。リリカルな気迫をぶつけるHAIIROに、飄々とマイペースな熱を注ぎ込む般若という好対照を、HIMUKIのドラマティックなビートが盛り上げる。

 

tha BOSS NEW YEAR'S DAY TBHR(2014)

THA BLUE HERB×般若のツーマン〈One Mic〉を見据えて発表されたコラボ・シングル。人間味に溢れた2本マイクの労いは毎年の大晦日に聴きたくなるもの。ここで温かくクールなビートを手掛けたgrooveman Spotは、般若の新作にて“自己紹介”を担当。

 

般若 ドッグラン 昭和レコード(2015)

すべてアルバム未収の3曲入りシングル。DJ FUMIRATCHと武史(山嵐/OZROSAURUS)によるカラッと開放的なミクスチャーの表題曲、皮肉な“放っとけ。”、映画「Zアイランド」で演じたキャラのままに暴れるJUNIOR製のダンスホール、いずれも個性的!

※試聴はこちら

 

ZORN The Downtown 昭和レコード(2015)

昭和の三男坊による話題作で、エッジーな“Backbone”では般若はNORIKIYOが援護。ここで大半を手掛けたdubby bunnyは般若の新作にラウドな“覚悟完了”を提供している。なお、SHINGO★西成も交えた昭和トリオのコンスタントな配信にも注目を。

 

DJ RYOW THE MIX TAPE VOLUME #1 -BACK TO THE CLASSIC CUTS- DREAM TEAM MUSIC(2015)

『グランドスラム』冒頭の“我覇者なり”を手掛けるなど、般若の作品にもたびたびビートを提供してきたRYOWのミックスCD。彼とTOKONA-Xの堂々たる東海クラシック“WHO ARE U ?”のエクスクルーシヴな2015年版には、ANARCHYと般若が見参!

 

DJ RYOW 216 DREAM TEAM MUSIC(2016)

初作『PROJECT DREAMS』(2005年)から自身の全アルバムに般若を招いてきたRYOWだが、この最新作ではILLMARIACHIのリサイクル“ビートモクソモネェカラキキナ 2016”に般若と漢を迎えるという極上のおもてなし。配信のリミックスにはR-指定も!

 

SIMON 03 COME TRUE(2016)

eスポーツ・イヴェント〈RAGE〉のテーマソングとして配信された“RAGE”でもAK-69を交え、般若と共演したばかりのSIMON。この新作では“D.N.A.”に改めて般若を迎え、揃って父親になった目線からリラックスした口調で己の血に思いを馳せる。