自然な呼吸法を実践するブルグ&若尾の意欲作
長年ボストン交響楽団の準首席オーボエ奏者、ボストン・ポップス・オーケストラの首席オーボエ奏者を務めている若尾圭介が、敬愛する「現代最高のオーボエ奏者のひとり」と称されるモーリス・ブルグと共演し、『オーボエの世界~オーボエ室内楽曲集~』を録音した。これは彼らの音楽仲間とのアンサンブルで、レフラー、サン=サーンス、上林裕子、ブリテン、ミヨーという幅広い作品を盛り込んだプログラム構成である。
「ブルグさんは昔からあこがれの存在。呼吸法を研究し、8年間かけて自然な呼吸法をマスターしたことでも知られています。それを学びたかったんです」
若尾は2013年に3カ月休暇を取ってパリで暮らし、南仏のブルグのもとにレッスンに通った。翌年、ブルグはボストンを訪れて若尾の仲間たちと共演し、それが今回の録音につながった。ブルグが語る。
「彼のオーボエはフランス楽派の感覚を備えている。だから自然に共演でき、録音も当然のなりゆき」
ブルグはオーボエの知られざる名曲を世に紹介するという使命を抱いている。このアルバムもレフラーの 「オーボエ、ヴィオラとピアノのための2つのラプソディ」という作品からスタートする。
「レフラーはボストン響に在籍し、エキゾチックでロマンあふれる作品を書いた。こういう曲をもっと知ってほしい。今回、どうしても録音したかったのはミヨー。彼は私と同じ南仏出身。いい曲が多いんですよ」。このことばに、若尾が続ける。
「私はブルグさんとの出会いは本当に貴重だと思っています。彼は自然で自由な呼吸法を会得し、一緒に演奏していると神からの贈り物を得たような気持ちになります。録音はすごく楽しい雰囲気のなかで行われ、みんながとてもハッピーだった。彼は八重奏をぜひやりたいといっていますから、近々実現させたい」
ふたりは、口をそろえて「人の出会いの大切さ」を力説する。いいタイミングでいい人に巡り会えるのは人生の宝であり、それが音楽家同志であれば感情が結ばれ、いい音楽を共有できると語る。
「オーボエは作品数が少ないため、知られざる曲を見つける必要がある。みんなにもっとオーボエの魅力を知ってほしいし、興味を抱いてほしいから、これからもこうした努力はずっと続けていくつもり」
そしてブルグは「ひとこと付け加えたい」といった。
「オーボエ奏者に限らず、ピアニストもヴァイオリニストも呼吸法を学んでほしいと思います。からだが自然に呼吸し、正しい姿勢を保ち、それを音楽に生かす。すべての音楽は、自然で自由で繊細かつ正確な呼吸法から生まれます。管楽器奏者だけではないんですよ」