ヘビメタ好きな“ギター小僧”がヴィオラ・ダ・ガンバに目覚めたら
セビリア出身のファミ・アルカイは、現在スペインで最も注目を集めているヴィオラ・ダ・ガンバ奏者。子供の頃はヘビメタ好きな“ギター小僧”だったという。
「最初はイングヴェイ・マルムスティーンが僕の“ギター・ヒーロー”でした。いつか、あんなギタリストになりたいな、と。それでエレキ・ギターを始め、ドラムやベースにも手を出したのですが、バンド演奏で生計を立てていくのは、さすがに難しい。もともと、うちの家族は医者が薬剤師のどちらかを職業にしていたので、最初は大学で歯科医の勉強をしていました」
しかし、音楽家になりたい夢を捨てきれなかった彼は、マヌエル・カスティーヨ音楽院の門を叩く。
「入学すると、1枚の紙が目に飛び込んできました。『ヴィオラ・ダ・ガンバ、開講1年目』。つまり、その授業はスペイン初のヴィオラ・ダ・ガンバのコースだったんです。『ヴィオラ・ダ・ガンバって知ってる?』と友達に訊いてみても、『なんか古楽の楽器だろ?』とか『ヘンな名前の楽器だな』といった反応ばかり(笑)。でも、とにかく受講してみようかと」
そんな経緯で出会ったヴィオラ・ダ・ガンバ。彼によれば、これほど謎の多い楽器は他に存在しないとか。
「そもそも、アラブ文化圏の弦楽器とキリスト教文化圏の弦楽器がバレンシアで融合したという出自自体がユニークです。撥弦楽器なのに足で挟む。弦の数も5本から8本まで。フレット(柱)の場所と数もさまざま。楽器の大きさもいろいろ。つまり、ヴィオラ・ダ・ガンバの正しいあり方は、誰にもわからない。だから、無限の可能性が含まれているのです」
2014年には、ガスパール・サンスからジョー・サトリアーニまで4世紀以上に及ぶギター曲を収めたアルバム『A Piacere』をリリースし、欧州で絶賛された。
「楽器は、あくまでも楽器。『自由気ままに』を意味するアルバム・タイトルが示しているように、まずは自分が心から愛している音楽だけを録音したかった。そういう意味で、とてもパーソナルなアルバムです。もうひとつの特徴は、収録曲のすべてが(出版前提に)作曲された音楽ではない、ということ。何らかの形で僕の編曲が加わっています。例えばファンダンゴは、ただそのまま演奏しただけでは、型に嵌ったダンス音楽に過ぎません。パコ・デ・ルシアのような演奏家が弾いて、初めて天上のような音楽になる。ガスパール・サンスの《カナリオス》や《パッサカージェ(パッサカリア)》は、ベートーヴェンのソナタと同じようには書かれていない。あくまでも“例”に過ぎないのです。その“例”が、パコのフラメンコのように発展できるかどうか、すべては音楽家の腕次第ですね」