Page 2 / 2 1ページ目から読む

ギターで泣きまくるヤツなんて、もうおらんでしょ

――今回のアルバムでギター・プレイに関して何か意識したことはありました?

「キッスの“Take Me”(76年作『Rock N Roll Over』収録)のフレーズを、“燃えろいい女”“てぃーんず ぶるーす”とか、いろんなところで弾いていて」

――それは意識して?

「気が付いたらやってしまっていた(笑)。(YouTubeで“Take Me”を聴きながら)キッスがこの曲が入っているアルバム『Rock and Roll Over』を出して、武道館公演が〈ヤング・ミュージック・ショー※1〉で放送されたことは、僕の世代のロック好きには物凄く大きな出来事だったんです※2。だから、とても思い出深いアルバムなんですよ。でも、この曲はアルバムのなかであんまり人気のない曲で。このアルバムで有名なのは“Hard Luck Woman”“Makin' Love”あたりなんですけど、“Take Me”のフレーズは、77~78年のロックの質感の権化みたいなフレーズで、これを聴くとその年代を思い出す。だからつい、いろいろな曲でこのフレーズを弾いてしまったんですね」

※1 71年~86年に放送されていた、海外のロック・ミュージシャンのライヴを紹介するNHKのTV番組

※2 キッスの武道館コンサートが放映されたのは77年5月7日

キッスの76年作『Rock and Roll Over』収録曲“Take Me”
 

――そういった77~78年のロックへの熱い想いが、アルバムに収録された“1978”という新曲に込められていますね。少年時代にロック・コンサートを観に行った時の興奮が歌詞に綴られていますが、やはりこれは実体験をもとにして作られた曲なんですか?

「そうです。77年にエレキ・ギターを始めたんですよ。アコースティック・ギターは76年からやっていたんですけど。それで、78年のクリスマスにわが町、高槻(大阪府)の市民会館にBOWWOWが来たんです! 当時『ハローヤング』という、かまやつひろしさんが司会のTV番組を土曜日の夜にやっていて、そこにアマチュア・バンドがいつも出ていたんですよ。そこに高校生バンドだったレイジーやツイストも出ていたんですが、その番組でBOWWOWを観てビックリしたんです。バンド・サウンド全体にジェットフェイザーが掛かっていて、ギタリストは目にも止まらない速ワザを決めていて、カッチョイイ~!と思ったんです。それで、彼らがクリスマス・コンサートを高槻でやると聞いて、友達の中田君とチケットを買って、〈初めてプロのバンドのロック・コンサートに行くぞー!〉と田んぼの真ん中の道を自転車で走って市民会館に行ったら、見たことのない長髪のお兄さんたちがいて。みんなナス型のサングラスをかけてロンドンブーツなんですよ。女の人はウルフ・カットでミニスカート、ジェラルミンのバッグにシールがいっぱい貼ってあった。それを見て僕らは〈うわーっ!〉って」

――ついにロックの世界にやって来た(笑)。

「それで、ステージの緞帳が上がってライヴが始まったら、B.C.リッチを持った(ギタリストの)山本恭司さんは、目にも止まらぬ速ワザで僕を魅了した。そして、帰りの田んぼ道で中田君と僕は〈凄かったなー!〉て言ってた。それから37年くらい、僕はずーっと音楽をやり続けてきて、52歳になったいま、自分がステージに上がってる! しかも、憧れの恭司さんと一緒にプレイしたりしている!! その気持ちを曲にしたんです。普通はもっと若い子が〈スターになったぜ!〉って作りそうな曲やけど、それを52歳の僕がやるわけですよ」

――感無量ですねー。でも、BOWWOWといえばハード・ロックのイメージが強いですが、デビュー当時は今回のアレンジみたいにブギーっぽい曲もやっていたんですか?

「そうなんですよ。イメージ違うでしょ? BOWWOWはファースト・アルバムだけ、ちょっと違うんです。もともとBOWWOWは、ドゥー・T・ドールというバンドをやっていた斉藤光浩さんを売り出すために作られたバンドなんですよ。(YouTubeでBOWWOW“フォクシーレディ”をかける)」

BOWWOWの79年作『吼えろ!BOW WOW』収録曲“フォクシーレディ”
 

――なんか可愛い曲ですね。声も甘酸っぱいというか。

「アイドルっぽいでしょ? たぶん本人はイヤだったと思いますよ(笑)。ここまでポップなのはこの曲だけなんですけど、ほかにもポップな曲が何曲かファーストにあって、ジミヘンみたいな10分くらいの曲もあります。でも僕はこのちょっと甘ったるい感じのBOWWOWが好きなんです。BOWWOWは日本で初めての本格的なハード・ロック・バンドという形で売り出されたんですが、(“1978”では)〈僕の町にやってきたブギーバンド〉と歌っていたりして、僕のなかでは可愛いブギー・バンドみたいなイメージがあった。なかでも“フォクシーレディ”は大好きな曲で、いまでも恭司さんとやる時は必ずやる。でも今回は“フォクシーレディ”をカヴァーするよりも、BOWWOWに捧げる曲を歌うことで、カヴァーする以上のリスペクトを示したかったんです」

――そんなROLLYさんにとって、70年代の日本のロックの魅力とはどんなところですか?

「ひとつひとつのロック・バンドが、全部違った個性を持っていたところです。当時はいまほどバンドはいなかったし、情報もなかった。最近はバンドの数も多いし情報も溢れてるから、〈もしかして、カッコイイ歌詞とか音を集めてくっつけてる?〉みたいなバンドもおると思うんですよ。でも昔は、どのバンドもほかのバンドがやってないことをやろうとしていた。まあ、私が歳を取って、知識を蓄えすぎたので、生半可なものではカッコイイと思わなくなってしまったのもあるかもしれないね。すべてを忘れる装置がほしい(笑)! 1回リセットできたら、最近のバンドを聴いても〈おーっ!〉と思うんじゃないでしょうか。特にヴィジュアル系とメタル系の演奏力は凄まじいし、底は上がってきてると思うんですよ。でも、一般的なロック・バンドはギター・ソロはやらない……。この状況は一体いつまで続くんだろうなと思いますね(しんみり)」

――そんななかで、今回のアルバムではギター・ソロをたっぷり聴かせてもらいました。

「いやもう、それはたっぷりとね! ギターで泣きまくるヤツなんて、いまもうおらんでしょ?」

――いなくなりましたね。

「恭司さんや僕みたいに、やっている者はいるんですけど、最先端にいるバンドはそういうのはしないね。でもね、僕はギタリストでありヴォーカリストでもあるので、ギターだけじゃなくてヴォーカルも聴いてほしいです」

――では、今回ヴォーカルで特に印象に残っている曲はありますか?

「(アルバムの資料を見ながら)そうですねえ……すぐに出てこない……墓穴を掘ってしまったかな(笑)。今回、ギターとヴォーカルは4日間で録ったんですよ。歌はコーラスも含めて2日間くらいで録って、そんなに何テイクも録らなかった」

――短期間で一気にレコーディングしたんですね。そういえば、普通はオケから録音するところを、ROLLYさんは歌から入れたそうですね。それはどうしてなんですか?

「例えるとこういうことですよ。カレーを作っていて、ルーはできて福神漬けもあるけど、ご飯はまだ炊けてないと。そんな時に、ご飯をよそうところだけ開けといて、ルーだけ入れるというのは……いや、この例えはわかりにくいか(笑)。歌が入っていない状態でギターを弾くと、何か寂しくて必要以上に弾いてしまうんです。でも、いちばん大切なのは歌、そう思いませんか? 伴奏も大切ですけど、歌に対してのギターじゃないですか。ヴォーカルが入っていない時にギターを弾いたら、後で歌を入れる時に被ってしまうことがあるんです。先に歌があったら、その歌を聴きながら弾くから歌中心の曲になりますよね。歌があって、その合いの手のギター・ソロが入るというか。最近の音楽はオケが分厚い。それはオケを先に作るからだと思うんです。歌を先に入れると、最近の曲と質感が違ってくる」

――70年代のロックもそうですよね。

「70年代はいまよりもっと歌を聴いていたと思う。エアロスミスとかもそうだけど、70年代のロック・バンドはギタリストが弾きまくっていても、ヴォーカルが歌いはじめたら一歩退いていた。いまの日本のロック・バンドは、歌が始まっても、ギターもベースも思い切り弾くでしょ。ヴォーカルを見ないでやっている。ヴォーカルが歌いはじめたらギターは退く、そういうバンドの呼吸、グルーヴがいまのバンドにはない。〈エレキ・ギターに付いてるヴォリュームとかトーン、いらんのちゃいまっか?〉って(笑)。みんな演奏は上手いけど、シューッと流れていってしまう気がするんですよ」

――音楽に限らず映画もそうですよね。スマートにパッケージされているけど、強烈なアクがない。

「そう。体臭を感じないというか。その人の匂いがグイングインしてくるのがアーティスト性だと思うんですよね。最近のバンドはスマートやけど、そういう体臭がない」

――このアルバムはカヴァーですが、ROLLYの体臭がぷんぷんしますよね(笑)。2枚続けて70年代をテーマにしたカヴァー・アルバムを出されたわけですが、ROLLYさんにとってカヴァー・アルバムの良さはどんなところですか?

「最初にも言いましたけど、まずこれまで僕に興味なかった人が聴いてくれること。もうひとつは、作っていて物凄く楽しい(笑)。でも昔のアルバムはシングル曲以外はカヴァーが多かったですよね。ビートルズやストーンズですら、そうだったでしょ? 僕が初めて買ったレコードはフィンガー5の『ファーストアルバム』(73年作)なんですが、ほとんどがカヴァーでしたから。ジャクソン5オズモンズスリー・ドッグ・ナイトとかね」

フィンガー5の73年作『ファーストアルバム』収録曲、ジャクソン5のカヴァー“I'll Be There”
 

――確かにそうですよね。

「だから洋楽を聴くようになったきっかけは、フィンガー5だったんです。カヴァーにはそういう良さがある。そやから、このアルバムを聴いて興味を持ったら、四人囃子やら乱魔堂を聴いてほしいわけですよ。僕はデビュー当時から一貫して、オリジナル曲でも、ありとあらゆるものを合体させて、その合体ワザによって元ネタを発見した人を喜ばせる。例えばザ・フーの〈恋のピンチヒッター〉をベースにして、サビに行くところはシンディ・ローパーの〈タイム・アフター・タイム〉。ギター・ソロはウリ・ジョン・ロートで……みたいにね。ルーツになった音楽をみんなに聴いてもらいたい!という想いでやってきましたからね」

――このアルバムの根っこにあるのは、ROLLYさんのロックへの胸いっぱいの愛なんですね。だから、70年代をテーマにしていても甘ったるいノスタルジーは感じさせないし、いま聴いて楽しめるロックが詰まっている。

「ありがとうございます。世の中、カヴァー・アルバムってたくさんありますけど、カヴァー作を出すと意外とその人のことがわかるんですよ。このアルバムはアホ丸出し! ロックはアホ丸出しやないとアカンのです。何カッコつけてますの? ロックでしょ、と。そういうことがわかるおじさん、おばさんたちが、いま一番買うべきアルバムがこれです! 若者のなかでも、昔の僕みたいにちょっと変わった趣味の子も楽しめると思いますよ。とにかく、いまの日本で、メタル以外でもっともギターが炸裂しているアルバムですから」