
9月17日(土)に神奈川・横浜赤レンガ野外特設ステージで開催される〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2016〉(以下:BNJF)をMikikiで総力特集! この第3回では、〈BNJF〉のジャズ・サイドを担うジョージ・ベンソン、マーカス・ミラー、ゴーゴー・ペンギンの3組をピックアップ。前回に引き続き、R&B/ソウルに精通する音楽ジャーナリストの林剛氏と、〈Jazz The New Chapter〉シリーズ監修の柳樂光隆氏にライヴの見どころを語ってもらった。 *Mikiki編集部
ジョージ・ベンソン

林 剛「ジョージ・ベンソンはギタリストであり、ヴォーカリストでもあるから、ソウル・ファンにとっても聴きどころがあるんですよね」
柳樂光隆「80s好きのソウル・バーに行くと、よくかかってる印象です。トミー・リピューマ※周辺が好きな人が聴くアーティストという感じですよね」
※イエロージャケッツ、マイケル・フランクス、YMOなどに携わったアメリカを代表するプロデューサー。マイルス・デイヴィスの86年作『Tutu』ではマーカス・ミラーと共同プロデュースを務めている
林「特に80年代前後の作品はAORのファンに人気ですよね。ボズ・スキャッグスとか、ああいう流れで当時はたぶん聴かれていたはずなんですよ。基本的にはギタリストとして脚光を浴びているわけですが、ヴォーカリストとしても注目されるようになったのは『Breezin'』(76年)から。でも、もともとヴォーカル・グループでも歌ってた人なんですよね。で、トミー・リピューマに促されて本格的に歌いはじめたという」
柳樂「ギタリストとしての見どころは、やはり代名詞でもあるオーセンティックなオクターヴ奏法。マイルス・デイヴィスのレコーディングにも参加したことがあるし、ルー・ドナルドソンの『Alligator Bogaloo』(67年)とかソウル・ジャズ名盤にも参加していて」
林「僕、オクターヴ奏法が大好きで。あれが入ってると僕のなかで名曲になっちゃう(笑)。やっぱり、あの演奏を野外で、横浜の風を浴びながら聴くのは気持ちいいと思いますよ」
柳樂「なんせ〈ブリージン〉ですもんね(笑)」
林「そうそう、〈ブリージン&ウィークエンド・ヨコハマ〉って感じで(笑)これは世代とか関係なく、みんな気持ちいいんじゃないかな」
柳樂「最近は、日本の若いバンドもAORっぽい音を採り入れたがってるじゃないですか。だから若い人が聴いても楽しめると思います。日本では再評価の文脈があまりないけど、アメリカ版のWax Poeticsだと、ベンソンやジョージ・デュークがいまでも表紙になってたりするんですよね。〈ヒップホップ・カルチャーから見たブラック・ミュージック〉みたいな文脈で、ちゃんと捉え直されていて」
林「そういう話だと、ア・トライブ・コールド・クエストがベンソンの“Valdez In The Country”をライヴでほぼ1曲流して、スクラッチを刻むという場面をビデオで観たことがあって。それがすごく印象的です。原曲はダニー・ハサウェイで、最近だとテラス・マーティンが『Velvet Portraits』(2016年)で、“Valdez Off Crenshaw”という彼の地元版のタイトルでカヴァーしていて」
柳樂「ああ、ありましたね」
林「あと、ベンソンは今年亡くなったモハメド・アリの伝記映画『アリ/ザ・グレーテスト』(77年)の曲(“The Greatest Love Of All”)を歌っているんですよ。ホイットニー・ヒューストンによるカヴァーのほうが有名ですけど、それも追悼としてやってくれたら嬉しいです」
林「あと、90年代以降のリスナーに向けてということだと、柳樂さんがこの前のプレ・イヴェントでかけていたニューヨリカン・ソウルの作品にもベンソンが参加しているんですよね」
柳樂「そうそう。これはマスターズ・アット・ワークのルイ・ヴェガとケニー・ゴンザレスが、70~80年代のダンス・ミュージックを90sハウスのフォーマットに落とし込もうとしていたプロジェクトで、そこにベンソンも呼ばれてギターを弾いて歌っているんです。メロウなギター・ハウスみたいな感じで」
林「〈ニューヨリカン・ソウル〉っていうのは、NYのプエルトリカンによるソウルということですよね。彼らのコミュニティーでも、ベンソンみたいな音楽が流れていたんでしょうね」
柳樂「といっても、もう20年前の話なんですけどね(笑)」
林「97年ですからね。それでもニューヨリカン・ソウルがいまだに新しいものとして見えちゃうところはありますよね、ベンソン目線だと(笑)。まあ、ベンソンはその後も自分のアルバムでマスターズ・アット・ワークと一緒に曲を作っていて。あとは2000年代に入ってから、R&Bシンガーのジョー一派と一緒に曲を作っていたりもしています。いずれにしても、ベンソンは昔からその時代ごとにR&Bとかの一流プロデューサーを使って歌ものを吹き込んでいるのがすごいですよね。ヒップホップにおけるサンプリングもあたりまえのように多い」
柳樂「ハーレム・アンダーグラウンド・バンド(ベンソンが率いたファンク・バンド)はレア・グルーヴの流れでお馴染みですよね」
マーカス・ミラー

林「今回の〈BNJF〉はギターとベースで、それぞれジャズを代表する超一流のプレイヤーがメイン・ステージに続けて出演するのもすごい話ですよね。その後に出演するアース・ウィンド&ファイア(以下:EW&F)も、ヴァーダイン・ホワイトはベーシストとしてかなり人気の高い実力派プレイヤーだったりしますけど」
柳樂「マーカス・ミラーは一番影響力のあるベーシストって感じですよね。マイルス・バンドの一員だった人でもありますし。デリック・ホッジ※やネオ・ソウル一派のベーシストは、実はマーカスの影響が大きいみたいです。デリック・ホッジに最近取材した時も、マーカスの『Tales』(95年)をよく聴いていたと語ってました
※ロバート・グラスパー・エクスペリメントのベーシスト。マックスウェルの音楽監督を務め、コモンやモス・デフなどの作品/ライヴにも参加。ソロ2作目『The Second』の日本盤を9月14日にリリースする
柳樂「それでいて、2015年の最新作『Afrodeezia』では〈Black Lives Matter※〉系のメッセージを込めた曲でチャック・Dがラップをしていたり、ロバート・グラスパーとか最近のジャズメンが参加していたりと新しいことにも取り組んでいて」
※アメリカ国内で相次ぐ白人警官による黒人の射殺など、アフリカン・アメリカンを取り巻く人種問題が顕在化していくなかで勃発した〈新たな公民権運動〉。ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』(2015年)や、ニーナ・シモンのトリビュート盤『Nina Revisited... A Tribute To Nina Simone』(2015年)など、この動きをテーマとした楽曲/アルバムが近年多数リリースされている
林「アフリカ回帰、黒人ルーツ的な要素を含むアルバムですよね。それにマーカスはベンソン以上に常にイマっぽい」
柳樂「それこそ、80年代に関してはジャズ・シーンにおけるプリンスみたいな人でしたよね。新作にはグラスパーのほかにも、アンブローズ・アキンムシーレやレイラ・ハサウェイも参加していて。それに、その一つ前のアルバム(2012年作『Renaissance』)でもグレッチェン・パーラトが歌っているうえに、バック・バンドもわりとゴリゴリなんですよ。ホセ・ジェイムズのバンドにも参加していたクリス・バワーズが鍵盤を弾いてたり、BIGYUKIとも仲の良い人ドラマーのルイス・ケイトーが叩いていたりして」
林「確かに、ベンソンが売れっ子とタッグを組んできたのに対して、マーカスはもう少しアンダーグラウンド的な、尖ったミュージシャンと組んできたイメージかもしれない。マーカスは新しい空気を察知して、的確に選んでいる。古い話だけど、ルーサー・ヴァンドロスはソロで活動しはじめた初期の頃からマーカスとタッグを組んで、当時の最先端を走ってたわけですよね」
柳樂「〈ザ・ブラック・コンテンポラリー〉って感じがしますよね。演奏も死ぬほど上手いし。そういえば、林さんはこの間のイヴェントでコリーヌ・ベイリー・レイとの曲をかけてましたよね」
林「そう、それはデニース・ウィリアムズのカヴァーで、モーリス・ホワイト(EW&F)のカリンバ・プロダクションズ繋がりということで、こじつけでかけたんですけど。こういう歌モノの曲でも、マーカスは遠慮しないですよね」
柳樂「ですよね、遠慮せずにベースを弾きまくるという(笑)」
柳樂「あと、マーカスはEW&Fの“Brazilian Rhyme”をカヴァーしているから、〈BNJF〉でも一緒にやればいいんじゃないかな」
林「うんうん、EW&Fの時にマーカスが飛び入りしてくれたらいいですよね。それは可能性も高そうだし、今回のメイン・ステージで一番期待したいポイントかもしれないな。ヴァーダイン・ホワイトとマーカス・ミラーが並んでベースを弾くという場面を想像したら、それだけで鳥肌が立ちます」
柳樂「“Brazilian Rhyme”はブラジル音楽由来の成分が入った曲で、J・ディラもそうだし、Zeebraも“Parteechecka”という曲でサンプリングしていたりする、大ネタ中の大ネタですよ。ダニー・クリヴィットによるエディット版も有名ですね」
林「EW&Fのなかで、ブラジル音楽は初期の頃から大きいですから。“Brazilian Rhyme”も、もともとはミルトン・ナシメント経由で、トニーニョ・オルタの曲をリメイクした未発表楽曲の後半に登場するスキャット部分をインタールードとして利用したものだったりしますから」
柳樂「それこそ、ジョージ・デュークやウェイン・ショーター経由ですよね。あとはCTIとか」
ゴーゴー・ペンギン

柳樂「ゴーゴー・ペンギンはエイフェックス・ツインのような音楽を人力で演奏するバンドで、ブルーノート東京で4月に行われた初来日公演はすごく盛り上がってました。若いお客さんがいっぱい来てましたね」
林「僕は観たことないので、今回すごく楽しみなんですよ」
柳樂「ライヴも想像以上にアグレッシヴで良かったですね。本国のイギリスで〈マーキュリー・プライズ〉にノミネートされるだけあって、スケールの小さいこじんまりとしたトリオって感じではなくて、大きいステージでも映える音を生み出せるバンドだと思いました」
林「今回の〈BNJF〉に来るお客さんは、EW&Fやアンドラ・デイが目当てのR&Bファンも結構多いと思うんですけど、そういう人たちにゴーゴー・ペンギンのどういったところを聴いてほしいですか? 例えば、この前のマックスウェルの来日公演でバックを務めていたデリック・ホッジやキーヨン・ハロルド、ケネス・ウェイラム3世のような、R&Bのバックで演奏しているジャズ・プレイヤーにも注目しようという空気も少なからずあると思うんですが」
柳樂「ずばり、タイトなリズムじゃないですか。ネオ・ソウルみたいにレイドバックするんじゃなくて、カッチリとしたマシーンそのままみたいな演奏なんですよ。それに、ニック・ブラッカ(ベース)とロブ・ターナー(ドラムス)のリズム隊もすごいんですけど、ピアニストのクリス・アイリングワースもクラシック音楽の出身で、当然のように左右の手で全然違うことを弾くテクニシャンで」
林「へー、なるほど」
柳樂「さっきも話したように、ライヴだと思った以上にサービス精神があるし、ベースもエフェクターとかを使ってローエンドをしっかり出せるように工夫しているから音も太い。だから、野外でも楽しくノれる類のバンドだと思います。あとは、ブラック・ミュージックよりもレディオヘッドに感性が近いというか。ロックやエレクトロニック・ミュージックが好きな人にも入りやすい感じがある。若い人にも人気が出るのも頷けますね」
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林「こうやって一通り振り返ってみると改めて思いますけど、やっぱり今回の〈BNJF〉はどれを観ても外れはなさそうですね」
柳樂「ゴーゴー・ペンギンがちょっとだけ異色かもしれないですけど(笑)、彼らがフェスのエッジーな部分を際立たせているとも言えそう。あと、今回は飛び入りが前回以上に実現するかもしれないですね。バンドというよりもグループっぽい出演者が多いので」
林「さっきも話に出た“Brazilian Rhyme”での共演は大いに期待したいですね」
柳樂「あとは、黒田卓也さんがEW&Fのホーン・セクションに入ったりとか。そういう想像も膨らませつつ、思う存分ライヴを楽しみたいです」
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2016
日時/会場:2016年9月17日(土) 神奈川・横浜赤レンガ野外特設ステージ
開場 /開演:11:00/12:00
出演:〈BIRD STAGE〉
アース・ウィンド・アンド・ファイア/ジョージ・ベンソン/マーカス・ミラー
〈DIZ STAGE〉
アンドラ・デイ/MISIA × 黒田卓也/ゴーゴー・ペンギン
〈THIS IS OUR MUSIC powered by MINI〉
ホット・サーディンズ/Yasei Collective/Ema with セサル・ロペス/RM jazz legacy/DJ大塚広子
料金(税込、1D別):S指定席/26,000円、A指定席/19,000円、スタンディング/10,800円
※S指定席は専用トイレ、優先ドリンク・レーン、記念グッズの特典あり。
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Celebrating "Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2016"
日時/会場:2016年9月16日(金) モーション・ブルー・ヨコハマ
開場 /開演:18:00/19:30
出演/トゥモロー・ピープル・アンサンブル ほか
料金(税込):自由席/5,000円、BOX席/20,000円+シート・チャージ5,000円 (4名までご利用可能)
※〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2016〉のチケットをお持ちの方は入場無料。
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PROFILE
林 剛
70年生まれ。ソウル/R&Bをメインとする音楽ジャーナリスト。音楽雑誌~サイトへの寄稿、CDライナーノーツの執筆、ラジオ番組の選曲などを行う。音楽書籍の執筆/監修も多数。近著は「新R&B入門~ディアンジェロでつながるソウル・ディスク・ガイド 1995-2015」と「新R&B教室~マイケル・ジャクソンでつながるソウル/ブギー・ディスク・ガイド 1995-2016」(共にSPACE SHOWER BOOKS)。12年間通い続けている〈Essence Festival〉をはじめ、国内外でライヴを観ることをライフワークとしている。
柳樂光隆
79年島根県出雲生まれ。ジャズとその周りにある音楽について書いている音楽評論家。〈Jazz The New Chapter〉シリーズと「MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド」(共にシンコーミュージック)の監修を務める。音楽雑誌~サイトへの寄稿、CDライナーノーツの執筆も多数。


