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ドラマーのダフニス・プリエトがいまだ謎多きラテン・リズムの構造&可能性に迫った研究書「A World Of Rhythmic Possibiliteis」

ドラマーのダフニス・プリエトがいまだ謎多きラテン・リズムの構造&可能性に迫った研究書「A World Of Rhythmic Possibiliteis」

謎は可能性に~ドラマー、ダフニス・プリエトの偉業!!

 リズムについては日本でもいろんな研究書や教則本、DVDなどなどが出されているが大体はパーカッションやドラムの演奏方法を紹介するものだったりするので、その類の楽器を演奏しない人には縁遠いものが大半だ。しかし近年、ジャズ・ヒップホップアーティストの菊地成孔がニコニコ動画上でリズムに関する集中的な講義を行い、独自のポリリズム観に基づくリズムの発生原理、構成理論を存在論・認識論的なレベルで展開し、リズムについてポピュラー音楽側からおそらく初めてと言える、基礎理論を提出した(そういえば菊地の相棒でありdCprGのキーボード奏者の坪口昌恭は私家版ではあるがアフリカのリズム研究をまとめて発表している)。どの程度リズムについての原理的認識、いわゆるリテラシーが普及、拡大しているのか定かではないが、音楽家の側からはこの日本でも新しい取り組みが始まっているようだ。

DAFNIS PRIETO A World Of Rhythmic Possibilities DAFNISON MUSIC(2016)

 そんな日本の状況とは全く関係なく、ラテン・リズムについての認識を刷新するような画期的な研究書、教則本がアメリカで出版された。”A World of Rhythmic Possibiliteis”、著者はキューバ出身のドラマー、ダフニス・プリエト、現ミシェロ・カミロ・トリオのドラマー、と紹介すれば少しは分かりやすいのだろうか。2000年代初期にNYに上陸、ヘンリー・スレッギルZooidスティーヴ・コールマンFIve Elementsキップ・ハンラハンDeepRumbaなどに参加、ドラマー、作曲家として才能・実力は世界に認知され、2011年に”MacArthurFellowship Award”を、スティーヴ・コールマン、ジェイソン・モランに続いて受賞した。自身が運営するレーベルからは、まさにダフニス・ミュージックと言えるソロ・アルバムをコンスタントにリリースしている。

 ラテン・リズムについては、例えば海外ではダフニスの先輩であるオラシオ・エルナンデスの、4way Drumming, Claveについての教則本、VHSが出ている。日本でも楽器屋さんで随分見かけたので持っているドラマー、パーカッショニストも意外といるのではないだろうか。こうした教則本、メディアが、ラテンの基本、つまりジャズに於けるスウィングに当たるラテン・グルーヴの基本単位であるクラーヴェの基礎情報を供給しつづけ、クラーヴェは可視化されてきた。しかし未だにキューバの外に育った多くの音楽家にとってクラーヴェは、謎でありつづけている。例えば構造的に3-2, 2-3の二種類に分けられるクラーヴェの変化、使い分けについては未だに具体的な判断の基準を与えてくれる理論が不在なのだ。このことについてチック・コリアは「ラテン・ミュージシャンは、クラーヴェのあり方を曖昧にしてある意味、特権的な価値を与えて既得権益化している」と批判したことがある。

 それほどまでにクラーヴェには謎が多い。またそれだけに興味も尽きない。しかし今回、誤解まで招いてしまうクラーヴェにまつわる謎がこの本によって解けた気がした。ダフニスはこの本でまずキューバの伝統音楽を支えてきたクラーヴェとカスカラの構造的な分析を行うとともに、現役の音楽家としてこの二つのリズムの持つさらなる可能性を提示していく。歴史的なリサーチも随分行ったようだ。クラーヴェの出自については「マチート時代に、そのバンドの音楽監督、アレンジャーだったマリオ・バウザがキューバ人以外のバンドメンバーに説明するために作り出した」と、一つの説として紹介し、3-2/2-3クラーヴェ、それぞれの発生原理として唯一彼が納得できる理論として先輩音楽家フランク・エミリオ説を説明し、音源とともに図解する。

 こうして第1章で詳細に追求されるクラーヴェとカスカラは、ロス・バン・バンによってキューバで発明されたソンゴを紹介する章において、このリズムを理解する道具になり、ソンゴに寄り添いそのグルーブを深化させる背景として引用される。

 スティーヴ・コールマンに聴かされ、それ以来頭から離れなくなったというチャーリー・パーカーの“Klact-Oveeseds-Tene (take B alterenate)”におけるマックス・ローチの二小節のドラムブレイクを扱う章では、クラーヴェやカスカラは分析の道具として使用される。たった二小節のブレイクを入念に分析し、基本要素にまで分解されたそのブレイクはさらにエレメントとしてリズムに組み込んだグルーヴを再構築するアイディアまで紹介する。

 基本的にはドラマーがドラマーのために書いた本なので、紹介されたアイディアを実際に演奏するために必要な技術習得のための章もあるほか、メンタルなトレーニンングなどの章もある。僕自身はドラマーではないが、ダフニスのリズムや技術そのものに対する分析は音楽をリズムから解きほぐすのにとても有効な方法であるだけでなく、可逆的、つまり音楽をリズムから組みあげる時にも有効だと思った。本を買うとDLできる音源と映像は300を超える。彼自身の演奏による音源と明快な分析言語を持ってして、謎はついに可能性に飛躍した!

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