クラーヴェの捧げ物

 99年、 ディープ・ルンバはファースト・アルバムをリリースした翌年にニッティング・ファクトリーでライヴを行っている。その様子がYouTubeにアップされていて、キューバからNYに活動の拠点を移したばかりの若きダフニス・プリエトのトラップ・ドラミングを聴くことができる。ルンバにドラムセットを移入するというディープ・ルンバのコンセプトが、2セットのドラムと三人のドラマー共演によって猛々しくステージに実現され、今見ても圧倒される。ダフニスという若い才能がNYで花開いた瞬間だった。

 そのダフニスの最新プロジェクトである、ダフニス・プリエト・ビッグバンドのクラウドファンディングによるローンチがアナウンスされたのが2016年。早くもそのファースト・アルバムが完成し、今春リリースとなった。レコーディングと並行し、ビッグバンドはNYを中心に活動を開始、プロジェクトの順調な仕上がり具合はライヴ動画にまとめられ、YouTubeや本人のサイトでリリースされていたのでその音楽は、浸透済みではないだろうか。

DAFNIS PRIETO BIG BAND BACK TO THE SUNSET DAFNISON MUSIC(2018)

 ダフニスは、NYに拠点を移して以来、ミシェロ・カミロ・トリオ、ヘンリー・スレッギルやスティーヴ・コールマン、ヨスヴァニ・テリーのプロジェクトに参加しつつ、自身の出自であるキューバの音楽の伝統を、クラーヴェをキーにリサーチし続けてきた。特に、90年代にキューバでルンバのアンサンブルとアルバムを制作したスティーヴ・コールマンとは、アフロ=ラテンのポリリズムのストラクチャーへの関心を共有してきたようだ。リサーチの成果は一昨年、本にまとめられ教則本としてリリースされている。

 キューバ人だからこそ魅せられたというクラーヴェ、そのクラーヴェを発明したとされるマリオ・バウサへのトリビュートや、〈ラテンのクセナキス〉という異名をダフニスがNYで冠せらる元凶となった恩師の一人、ヘンリー・スレッギル、前述のスティーヴ・コールマンらにも捧げられた作品は、クラーヴェをセンターに、分厚くインストゥルメンテーションされ、ラテン・ジャズの新たな面白さを乱反射する。