曖昧だからこそ、音楽も人間もおもしろい

――今回のアルバムを聴いても、モータウン系のソウルやサイケ、パンクなど一口でロックと言えない、いろんな要素がきちんと咀嚼したうえで採り入られている気がします。

「俺らはどこまでもリスナー気質だと思うんですけど、4人でいつも言っているのは、影響を受けているものをそのまんまでは出さないようにってことなんですよ。〈まんますぎてダサイでしょ〉となるギリギリ手前で止めている。最近の若い子たちは〈○○っぽいもの〉を作るのが上手いですよね。影響を受けたものをすぐにコピーできる。でも、俺らはコピーじゃない〈王道〉なバンドでいたいなと思っているんです」

――有馬さんにとって〈王道〉とは?

「すごく売れているのに、決して主流にはならない音楽こそが王道と呼ばれるべきものだと思うな。ビートルズや日本だとある時期のサザンオールスターズがそうだと思うんだけど、次に何やるのかわからないバンド。いまさらですけど、ゆらゆら帝国時代を含め坂本慎太郎さんは凄いなと思っています」

坂本慎太郎の2016年のパフォーマンス映像
 

――アルバムのタイトル『ISLAY(アイラ)』はシングルモルト・ウィスキーの有名な産地・アイラ島から取られたそうですが、このアルバムもまさにウィスキーのように時が経っても古びない、深みのある作品になっていると思いました。

「時代にリンクしようと思って作った曲もいままでたくさんあったんですけど、あまり上手くいかなかったんです。今作に関しては、自分が昔好きだったアルバムとようやく肩を並べて聴けるアルバムになったと思う。フィッシュマンズレディオヘッドのあとに聴いてみても、同じような手触りを感じられた。すごく良いアルバムとは、やりすぎていない、ちょうどいいところで留まることができた作品だと思うんですが、このアルバムもそれをやれた気がします。自信があるというより、確信というか聴いた人に安心して委ねることのできる作品だと思う。いままでは演奏する自分たちがどうにかしなければ、と思っていたんだけど」

――今作の制作過程で苦労した面はありますか?

「それが1つもないんですよね。そもそも理路整然としたものをめざしていなかった。いまの音楽はコンピューター上で編集して綺麗に作ろうとするけど、そういうふうに整理しても全然おもしろくないし、ロックじゃないですよね。曖昧だからこそ、音楽も人間もおもしろいんだなと思えるものが良い」

――まさに『ISLAY』は演奏している人たちの体温が感じられるアルバムですね。

「やっぱり音楽には人間が出ると思うし、変わった人のほうがおもしろい音楽を作りますよね。いまは手先の器用な人が多いから〈インディー感を出してみた〉みたいな音源を作れちゃうけど、上手くやられてもなーと思うんです。ジャック・ホワイトみたいな、いままでどこにいたんだろうと驚いてしまう変な人が作る音楽のほうがずっとカッコイイし、本物だと思う。プリンスデヴィッド・ボウイもそうですよね」

ジャック・ホワイトがフロントマンを務めていたホワイト・ストライプスの2001年作『White Blood Cells』収録曲“Fell in Love with a Girl”
 

――インタヴューでも、この先自分が音楽業界でどうサヴァイヴしていくのかという戦略ばかりを語っているアーティストも多いですよね。インタヴューアーがそうさせている面もあると思うんですが。

「みんな、自分というものに自覚的ですよね。俺だったら自殺してしまうと思うな。だって自分のことがわかったら、超つまんないんじゃないですか。俺が音楽をやっているのは、自分からまだ何が出てくるんだろう、自分って何なんだろうというのを突き詰めていくのがおもしろいからなんですよ」

 

『ISLAY』はおとぎ話らしさの名刺になるアルバム

――“めぐり逢えたら”が挿入歌になっている山戸結希監督の映画「溺れるナイフ」も11月5日に公開されますし、あの作品からおとぎ話を知るファンも増えるんじゃないかと思うんですが。

「『溺れるナイフ』に使われているヴァージョンは、アルバムに収録したものとは全然違うアレンジで、謎のカラオケみたいな感じなんですよ。アイドル・ソングみたいな感じで、それを聴いてから俺らのヴァージョンを聴くと〈うわー〉と驚いてもらえると思います。これまでのおとぎ話の演奏とは180度違う、新しいことをできた曲じゃないかな。おとぎ話なりのスタンダード・ナンバーが作れたと思ってます」

――山戸結希さんや劇作家の根本宗子さんのような、当代きっての才能に見初められていることも、おとぎ話という存在の凄さを証明していると思います。

「彼らはこれから先の日本を背負う才能たちですよね。その2人がおとぎ話に声をかけてくれたことに、運命とかは感じないけど、自分たちが意外とやれてんだなという自信にはなりました。銀杏BOYZみたいなやり方をしてもダメだったし、デビュー時に近い場所にいた人たちは売れたり解散したりしながらも、俺たちは一向に脚光を浴びず、集客も増えずで劣等感と嫉妬ばかりを抱えてきたから。35歳になってまだまだ可能性があるんだと思わせてくれたのは、本当にありがたいなと思いますよ」

山戸結希が監督した、2015年作『CULTURE CLUB』収録曲“COSMOS”のMV
 

――冒頭の話に戻りますけど、集大成となる作品を作ったことで力が抜けて、おとぎ話らしさというものに対する答えがバンドとして自然に出せているのかもしれないですね。

「ついにって感じですよね(笑)。このアルバムは〈おとぎ話らしさ〉の名刺になると思う。この先も同じクォリティーとハングリー精神を保ったままでいたい。いまの時代はなんでもできる人たちが多いけど、俺はそんなに器用じゃないし。おとぎ話は〈いまここで録音しろ!〉と言われても、おとぎ話らしさを一切失うことなく良い音源を作れるバンドでいたいな」