4人組ロック・バンドのおとぎ話が、結成16年目にして8枚目のアルバム『ISLAY』(アイラ)をリリースする。昨年の前作『CULTURE CLUB』はすべてを振り絞って作った、これまでの彼らの集大成のような作品だったこともあり、今回は改めてデビューするような気持ちで制作に臨めたという。そして完成した『ISLAY』は、ウィスキーの聖地〈アイラー島〉から取られたタイトルが象徴するように、極上のシングルモルト・ウィスキーの如く月日を経ても褪せることのない、まろやかでエヴァーグリーンな味わいの作品になった。ロックンロールのグラマラスな魅力、サイケデリック・ロックの幻惑、モータウン・ソウルを思わせるセクシーなビートーーすべてが混在となった音の塊がスピーカーから現れる。

この近年、バンドは映画監督の山戸結希、劇作家/女優の根本宗子など次世代のクリエイターとのコラボレーションを精力的に行い、おとぎ話の音楽がこれまでになく注目を浴びていることは間違いない。長きに渡るキャリアを経て、この作品でようやくこのバンドらしさを気負うことなく出せたと語る、フロントマン・有馬和樹の目は自信と確信の輝きに満ちていた。

おとぎ話 ISLAY felicity(2016)

作りたかったのは〈切実なディスコ〉

――前作『CULTURE CLUB』は、おとぎ話のこれまでの歩みを総括するようなアルバムだったと思うんですが、今作ではどのような作品を作ろうと思ったのでしょうか?

「前作は、俺らにとって大切なアルバムなんですが、収録しなかった曲もたくさんあったんです。今回は、それらの曲と新しく作った曲を組み合わせた感じですね。あと、いまのシーンで流行っているダンス・ナンバーとはまた違った〈切実なディスコ〉を作りたいと思っていました。それで出来たのが1曲目の“JEALOUS LOVE”。あの曲がアルバムを導いてくれたんです」

――〈切実なディスコ〉とは具体的にどんなものでしょうか?

「フェス向けとか言われる、みんなで盛り上がれるような曲は自分には大事じゃなくて。1人で聴ける曲だけど踊れるものを作りたいと思っていました。俺は最近のバンド・シーンの、友達同士で肩組んで踊ってるような感じがちょっと苦手で。〈これは自分だけの曲だ〉と聴いた人が思ってくれるような曲を作りたかった」

――今作を聴いて、コンテンポラリーなアルバムに仕上がっているんだけど、ロック・レジェンドたちの姿が見え隠れするようなグラマラスなスター感も強く出ている気がしたんです。

「そう言ってもらえると嬉しいですね。いまの俺は、リスナーと何かを共有したいとか〈俺に付いてこい〉みたいな気持ちはないんですけど、昔はそういうスターみたいな存在になりたいと思っていました。俺らは毛皮のマリーズTHE BAWDIESと同じ時期に表に出て、日本におけるガレージ・ロック・リヴァイヴァルみたいな文脈で扱われることもあったけど。おとぎ話でロックスター的な音楽をやろうとしても、どうしてもできなかった。それがコンプレックスだったんですけど、もう16年もバンドを続けていると、ある程度諦めがついてきたんです。そうしたらなぜか良い感じになりはじめた(笑)。今回は、ファースト・アルバム以前の俺たちが本当に作りたかったアルバムをようやく作れたと思います」

おとぎ話 が2007年にリリースしたファースト・シングル“KIDS”
 

――気負わずに力を抜いたほうが、おとぎ話なりの艶が出てきたという感じですかね?

「そうですね。このアルバムでは、4人ともまったく力が入ってない。やっぱり前作の『CULTURE CLUB』がすごくデカかったんですよ。あそこでやり切ったし、普通だったら解散してもおかしくなかった。その後にこんなアルバムを作ったバンドは日本にいないんじゃないかな」

――このアルバムに至るまでの制作期間ってどんな期間でしたか?

「忙しかったですね。前回のアルバムのツアーが終わった後の感触が、自分のなかでは意外にあっけなくて。始まる前はアルバムと同じで、それまでの集大成になるのかなと思っていたんですけど、終わってみると〈あぁ、何も始まってないんだな〉という手応えだったんです。そこから2年は根本宗子さんの舞台『ファンファーレサーカス』に出演したり、ドレスコーズのバック・バンドをやったり。バンドとしてはライヴを良くするためにずーっと練習していた感じかな。まあ、いつも通りですね」

――9曲目に収録された“太陽の讃歌”でも〈いや、まだ何もはじまっちゃいないよ〉と歌われています。特にアルバム後半は、おとぎ話のバンドとしての決意が窺える気がしたんですが。

「でも、そんなに真面目に書いたつもりはないんですよ。“太陽の讃歌”の歌詞は、16年もバンドをやっていたら売れていて金を持っていてもおかしくないけど、現実はそうじゃないから、まだ始まってないと言っていたほうが安心するという想いで(笑)。10曲目の“めぐり逢えたら”はパーソナルなラヴソングのように聴こえると思うけど、実はめちゃくちゃフィクションなんです。ウディ・アレンの映画を観ていたら、ふと〈男も女もハッピーにならないほうが楽しいな〉と思ったことが着想元だった。その次の“夜明けのバラード”は決意表明のように聴こえるかもしれないけれど、〈生きるのって辛いよね、みんな〉という傷の舐め合いソング(笑)」

――そこまで言いますか(笑)?

「歌詞で歌っていることは本気だけど、本気じゃない。こういう生き方しなきゃ!と肩肘張って伝えるというより、フワッと歌えるようにしているんです」

――他のバンドの名前を出して恐縮ですが、銀杏BOYZのようなスタイルではないということですね。

「以前は、峯田(和伸)さんみたいなお客さんとの関わり方をしてみたいと思ってがんばってみましたけど、お客さんは俺のことなんか見ないですからね。そういう意味では、俺にはカリスマ性がない。じゃあ、どうして銀杏BOYZは俺らと対バンしてくれたんだろうと考えると、やっぱり変なバンドだったからなんだろうなと思った。それからずっと自分の器を探して、気が付いたら16年が経っていて、7作目でやっと自分たちの集大成のようなアルバムを作ることができた。そしたら、ふっと楽になることができて、いまはここから先がデビューという気持ちです」

※2005年の共演ライヴがきっかけで、おとぎ話が注目を集めた

――結成から16年を経て、おとぎ話はどんなバンドになっていると思いますか?

「俺らって本当にフェスにもライヴ・サーキットにもあんまり呼ばれないし、たまに呼ばれて出ても、本当に他のバンドと違っているなと実感する。どこにも属せないんですよね。自分たちの居場所がないというのが、もしかするとおとぎ話らしさなのかもしれない」