Page 2 / 2 1ページ目から読む

 世界最古の写真撮影法であるダゲレオタイプが重要な鍵を握る。屋敷の主である写真家は自分の娘をモデルにダゲレオタイプの写真を撮るが、長い露光時間を要する撮影法のため、娘は静止した状態を長らく保たねばならず、本作では異様な拷問器具のような装置で彼女が固定される。それにしても、動く映像(映画)の優れた作り手である黒沢が、この二重の意味で静止によって特徴づけられる――長時間の静止を強いられるモデルと静止画像である写真――ダゲレオタイプを自作に取り入れた理由や狙いは何か?

 「これだけ映画も含めてデジタル化が進み、動画が溢れかえっている現代にあって、いまだに僕が撮っているような映画は、二度とない、ある瞬間を何とか捉えようとしている。カメラが回る1分は二度とない1分であると考え、カメラが回っていなければ絶対に目撃できなかったであろう何かを固定しようとする。動画なんて簡単に撮れることが常識なのに、いや、おいそれとこの瞬間は撮れないはずだとの設定で、全てのスタッフや俳優が最大限の力を発揮する、そんな作業を映画は続けているわけです。とんでもないアナクロニズムですね(笑)。二度とやってこない瞬間や時間を固定させ、見えるようにしようとする点で動く映像と静止画の違いはないでしょう」

 イメージに憑かれた人々を描く本作は、単に秀逸なゴシック・ホラーであることを超えて、映像/映画についての映画、映像/映画原論めいた趣で僕らを圧倒する。

 


映画「ダゲレオタイプの女」
監督・脚本:黒沢清
音楽:グレゴワール・エッツェル
出演:タハール・ラヒム/コンスタンス・ルソー/オリヴィエ・グルメ/マチュー・アマルリック/マリック・ジディ
配給:ビターズ・エンド (2016年 フランス・ベルギー・日本 131分)
© FILM-IN-EVOLUTION - LES PRODUCTIONS BALTHAZAR - FRAKAS PRODUCTIONS – LFDLPA Japan Film Partners - ARTE France Cinéma
◎10/15(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開!
bitters.co.jp/dagereo/