ムーズムズ
ポップでひねりのある凄く完成度の高い音楽
京都を拠点に活動する3人組。結成10年目を迎えた2015年、こんがりおんがくからファースト・アルバム『Flashing Magic』をリリースした。ラップを独自解釈した耳に残るヴォーカル、洒脱ながら人懐っこさを堪えたキーボード、ユニークなタイム感を持つドラムで、実にオリジナルなポップ・サウンドを紡ぎ出している。
森「もともとムーズムズのふぐちん(渡邉智之/ドラムス)は、neco眠る“ENGAWA DE DANCEHALL”のミュージック・ビデオを作ってくれた坂本(渉太)くんと、いまはDJをやっている森(靖弘)くんとトリオロスヘグシオというツイン・ドラムとギターから成る凄く変なバンドをやっていて、neco眠るは2005~2007年頃にいろんなイヴェントで彼らと対バンしていたんです。人力テクノと言えそうな雰囲気やけど、ジャムっぽい感じではなくてポップな新しい見せ方をしようとしていたバンドで、僕らも音楽的にかなり影響を受けてる。そのときから、ムーズムズのことも知っていて」
モタコ「(ムーズムズが)これまでCDを出してなかったことはちょっと不思議なぐらいやったもんね。森くんはやっぱり好きなバンドは(音源を)出したいという気持ちがあるんちゃう?」
森「好きなバンドで、リリースとか上手くやれない奴を見るとね。それを出したら売れるからではまったくなくて、単純に〈なんで出さへんの?〉という(笑)。じゃあ手伝いますんでって、ホンマにそんな感じ」
モタコ「ムーズムズのアルバムはこんがりのなかでいちばん聴いているかもしれへん。全曲好きやな」
森「ムーズムズはいわゆる京都っぽさもあるけど、なんか特殊やんねんな。」
――京都っぽさというのは?
森「めちゃくちゃわかりやすく言うとくるりとか……ない? 吉田寮や磔磔から脈々と続いている感じというか……。ムーズムズはどうしても京都っぽさを感じる。こんなにクォリティーの高い音楽を、こんだけ知られていないバンドがやっているというのが衝撃的やったな。めちゃくちゃポップで、ちゃんとひねりもあるし、凄く完成度の高い音楽やと思う」
手ノ内嫁蔵
メンバーそれぞれが思い描くロックンロール像を無理やり形にしていく感じがヤバイ
オシリペンペンズの石井モタコを中心に、谷村じゅげむ(ワッツーシゾンビ)、和田シンジ(巨人ゆえにデカイ)、トメ田トメ吉(アウトドアホームレス)と関西アンダーグラウンドの猛者たちが集う異能のロックンロール・バンド。2016年8月にDODDODOや宮武BONESのカメヤマがゲスト参加した新作『city,digest,浜』をリリースした。
モタコ「……赤裸々に言ってもいいよね?」
――はい、赤裸々で。
モタコ「2004年に手ノ内を始めた頃はペンペンズがイヤでイヤでしょうがなくて……」
――ハハハ(笑)。
モタコ「ペンペンズの(2014年に脱退した)前ドラマーの迎祐輔とは、仲良いんやけけど言い合いばっかしていたんよ」
森「愛憎入り交じっている感じですかね」
モタコ「もう俺ひとりでやろう!と思ったときに付けた名前が手ノ内嫁蔵。あわよくばこっちのほうが売れればいい、と」
――ハハハ(笑)。
モタコ「まあ、だんだんそういう気持ちもなくなってきて、最初はソロでやってたんやけど、アウトドホームレスのベースで幼馴染のトメダトメ吉と、あと巨人ゆえにデカイの和田シンジが入ったらへんから、みんなで曲を作るようになった。布袋(寅泰)さんや町田町蔵、デヴィッド・ボウイとか、昔から憧れてるロックのイメージみたいなんを自分らでやれたらなと、キャッキャやってたんやけど、それをちゃんと形にしていこうとなり。そうしたらシンジがギターをやりたいと言い出して、もう訳わからんくなって(笑)」
森「ハハハ(笑)」
モタコ「お前、ドラマーじゃね?と」
森「メンバーそれぞれが思い描くロックンロール像を手ノ内というバンドで無理やり形にしていく感じがヤバイすよね」
モタコ「それで、ワッツーシゾンビではヴォーカル/ギターの谷村じゅげむがドラムスで入って……。2人ともこれまでとパート違うし、これで良いんかなと思ったけど、和田シンジはやっぱりホントにロックが好きやからギターを弾いても良かって。俺はシンジの顔を見てるだけで〈なんもせんでええわ〉と思うぐらい」
森「いまは結構シンジくんのバンドになってますよね」
モタコ「そういう面もある。彼が録音もやってるし」
森「〈学ランを着たサイボーグゴリラのロックンロール〉というキャッチがピッタリやね」
モタコ「その通りやわ。俺はフラフラしてるとこあるけど、シンジには信念があるし、録音にもこだわるし、任せられるからおもしろい。ゴリラに任したらどうなるんやろ?みたいな気持ちもあった」
――じゃあ、当初よりもだいぶ引いた目で見ているんですか?
モタコ「おれはもともと人とやるのが好きやから。手ノ内はペンペンズよりも人とやっている感じがする。他のメンバーから〈こういうのやりたい〉と言われたときに、どういうふうに応えるかを考えるのがおもしろい。それが手ノ内嫁蔵かな。こういう奴がいるなら、じゃあ俺はこういうの歌おうと思う感じというか、ホンマにバンドっぽい。今回の『city,digest,浜』はこのバンドの10年間の集大成かな。でも、こんがりで出してなかったことが意外やんな」
森「ファースト・アルバムの『ギミアぶれいく鷹』(2011年)はWORD IS OUT!からのリリースやもんね」
モタコ「遠くへ投げたいと思っていたときにWORD IS OUT!が声を掛けてくれたから、任せてみようと思った」
森「チッツなんかもそうやけど、こんがりのバンドはもっと大きくてちゃんとしたレーベルに行ったほうが良いんじゃないかという気持ちがずっとあって。例えば踊ってばかりの国のマネージメントをやっている内(大介)さんが神聖かまってちゃんの対バンでチッツを呼んでくれたりすると、やっぱり東京でドーンとやってくれる人のところからリリースしてほしいなって。こんがりは〈大阪!〉というイメージがあるし、あくまでローカルな小さいレーベルやしね。そういう話をメンバーにしても〈うーん……こんがりから出したいっす〉となるんやけど……。やっぱりチッツはペンペンズに憧れすぎてるんすよ」
モタコ「ホンマなん?」
森「ホンマに。もちろん僕は出したいけど、そのバンドにとってもっとも良い形になればという気持ちがいちばん」
モタコ「俺は森くんがそう言えるのはちょっと凄いなと思う。〈好き〉っていうのがホンマに大事やし、森くんがいちばん動くことで、それをやれているというのがね。森くんみたいな人がおってくれて良かった」
森「ちなみにneco眠るの(難波)ベアーズの初ライヴは、手ノ内が対バンやった。あとMASONNAとOVe-NaXx」
モタコ「これがまた平日火曜に超満員になった。ベアーズの動員記録を更新して」
森「2005年くらいやね。まだnecoのCDも出る前で」
モタコ「俺が〈対バンはneco眠るが良い!〉と言ったんよ」
森「オファーしてくれる前に、デモCDをモタコくんに緊張しながら渡しましたもん」
――チッツ然りモタコさんにデモを渡すとCDがリリースされるんですね。
モタコ「ほんまや! CASIOももらってるで」
――ここに供えとくとCDになる神社みたいな……。
森「やっぱモタコくんはアイコンというか。最初はQuick Japanで(松本)亀吉さんが書いたオシリペンペンズの記事を読んで、〈どんなすげえバンドなんや〉と思ってBRIDGEに観に行った。でも、そんときは伝説のタワレコ破壊ライヴ(2004年)※と同日にやった2本目のライヴで、モタコくんは足をめちゃ怪我していて、やけにおとなしくて(笑)」
※オシリペンペンズの2010年のDVD「ばっかも~ん再提出! 大阪国立天然大学卒業制作」にその模様が収録されている
モタコ「タワレコで焼酎瓶が割れた上を歩いて、ガラスがグチャグチャに刺さっていたから、歩かれへんかってん」
森「なんか思ってたんとちゃうなって(笑)」
――それがいまは一緒にレーベルをやっているという。
森「始めたときは、こんなにいろんな人の音源を出すとは思っていなかったけど、良い形で広まっていって、好きな人と好きなことをできているし、そういう意味では最初の目的を見失ってない。〈こんがりおんがく祭〉とか、楽しいイヴェントも毎年やれているしね。リアルな話、今年は〈こんがりおんがく祭〉で黒字を出せたから、こんだけ多くのリリースをできているという面も(笑)。去年はむちゃ赤字やって……」
モタコ「大変やってん。イヴェント当日には雨も降ったし……恐ろしかったな。おれと森くんはマイナス120万という数字を見て、ヤベエ……って」
――フフフ(笑)。
モタコ「一応、今年でプラスになった」
――じゃあ、こんがりおんがく祭の人の入りを見ると、その年のリリース数がわかると。
森「そうやね(笑)」
モタコ「だいたいわかる」