スミス・ウェスタンズのギタリストだったマックス・カケイセックと、アンノウン・モータル・オーケストラ~同バンドのドラマーだったジュリアン・アーリックによって結成されたホイットニー。〈カントリー・ソウル〉を標榜した昨年発表のデビュー作『Light Upon The Lake』が日本でもヒットを記録した彼らが、先日待望の初来日ツアーを行った。ライヴ前から終始上機嫌だったジュリアンは、東京公演こそ泥酔して途中退場するという不完全燃焼のステージとなったが、翌日の大阪公演では汚名返上とばかりに素晴らしいパフォーマンスを披露。再来日が早くも待たれる彼らが、意外な交遊関係やオブスキュアな音楽への探究心を語ってくれた。
僕らの曲には、物理的な感覚が伴う必要があると思った
――ジュリアンはもうすぐ誕生日だということで、プレゼントです(バラの花を渡す)。
ジュリアン・アーリック「ありがとう!」
――元ガールズのクリストファー・オウエンスが4年前に来日した時もバラの花をあげたんですよ。
マックス・カケイセック「クリストファーのことは知ってるよ。僕がスミス・ウェスタンズというバンドをやっていた頃に、ガールズと一緒にツアーしたことがあるんだ」
――何か当時のエピソードはありますか?
マックス「まだ19歳ぐらいの時かな、メンバーのカレン(・オオモリ)とキャメロン(・オオモリ)と僕でサンフランシスコにやってきて、クリストファーの家に転がり込んだんだ。彼の持っていたすごく高いフリスビーで遊んでいたんだけど、僕が思いっきり投げたら木の上に引っ掛かって、めちゃくちゃ怒られたのが思い出だね(笑)」
――ジュリアンのお父さんはオレゴン州のポートランドでスタジオを運営していて、そこでアンノウン・モータル・オーケストラのジェイク・ポートレイトが働いていたのが、彼のバンドに入るきっかけになったそうですね。
ジュリアン「その通り。実は今回、僕の父親も日本に一緒に来てるんだ」
――そのスタジオはいまでもあるんですか?
ジュリアン「当時とは設備が違うけどね。いまはヨンダー・スタジオという、ラジオやTVのコマーシャルを作るスタジオになってるんだ。ジェイクが働いてた頃はフュージョンとか、そんな名前だったかな?」
――マックスのご両親はウィスコンシン州の出身なんでしたっけ?
マックス「いや、シカゴだよ」
ジュリアン「ウィスコンシンってことにしとけばいいのに(笑)」
マックス「おばあちゃんがウィスコンシンに住んでいるんだけど、シカゴでアパートが見つからなくて大変だった時に、1か月ぐらい山小屋に住まわせてくれて、そこでアルバムの曲作りをしたんだ」
――(取材日の)ちょうど1週間ぐらい前に、あなたたちがレーベルに送ったデモを公開してましたけど、そのデモテープを録音したテープ・マシーンを、ジョーン・オブ・アーク※のボビー・バーグからもらったというのは本当ですか?
※ティム・キンセラを中心として90年代後半から活動を続けるシカゴのアヴァンギャルド/ポスト・ロック・バンド。ボビー・バーグはラヴ・オブ・エヴリシング名義でソロ活動もしているベーシスト
ジュリアン「ボビー・バーグだって! どうして彼のことを知ってるの? いや、あのビデオに写ってるのは別のテープ・マシーンなんだけど、確かに彼からテープ・マシーンをもらったんだ」
マックス「インタヴューで名前が出たって、後でボビーにメールしとくよ(笑)」
――ジョーン・オブ・アークはあなたたちより世代的にだいぶ上ですけど、何か交流があるんですか?
ジュリアン「シカゴはそういう街なんだよね。大都市だけど、音楽をやっている人たちは近かったりして」
マックス「ボビー・バーグはどのショーに行っても必ずいるんだよ。僕らの最初のショーにも来てくれたし、彼は絵も描いていて、彼からもらった絵がずっと部屋に飾ってあるよ」
――レーベルにデモテープを送る時に、ただテープを送るんじゃなくて、テープを再生している映像を撮影して送ったそうですが、どうしてそういう方法を選んだんですか?
マックス「実際に曲を書いてみて、確かに良い曲だとは思ったんだけど、何かが足りない気がしたんだ。だけどあのテープ・マシーンにかけて聴いてみたら、リールがぐるぐる回る光景も含めて、すごくパーフェクトだと思えた。 僕らの曲には、何か物理的な感覚が伴う必要があると思ったんだ」
ジュリアン「Apple Musicだったり、クリックするだけですべてがストリーミングで聴けてしまう時代だけど、テープってものの力を借りることで、曲がそこに実在する感覚が味わえるというのかな。出来上がったものを別の場所に運んで、それをマスタリングするっていう行程も含めてひとつの曲というか」
リアーナのようなポップソングか、オブスキュアな音楽を聴きたい
――ところで、ジュリアンはお父さんから聴かせてもらったアラン・トゥーサンの音楽に影響を受けているそうですね。
ジュリアン「(2015年に)アラン・トゥーサンが亡くなる半年ぐらい前に、うちの父親が彼の『Southern Nights』(77年)を聴いたらしいんだ。それで僕らが録った最初のデモを父に送ったら、〈この曲知ってるか?〉とアルバムのタイトル曲を送ってきてね。知らなかったけどすごく良い曲だったからカヴァーしてYouTubeにアップしたら、ライヴに来るお客さんからも“Southern Nights”をやれってリクエストされるようになっちゃって(笑)」
――アラン・トゥーサンのどんなところが好きですか?
ジュリアン「すごく想像力を掻き立てられるし、メロディーを大事にしているから。音楽はメロディーさえ良ければそれで十分ってこともあるんだよね」
――というわけで、これからアラン・トゥーサンがプロデュースしたミュージシャンの曲をいくつか紹介するので聴いてみてください。まず最初は、当時16歳だったブロウニング・ブライアントという人です。
ジュリアン「アラン・トゥーサンがプロデュースしたの? これはヤバイね」
――たぶん日本でしかCD化されていないので、良かったら差し上げますよ。
ジュリアン「マジで? アリガト! 君ら最高だね!」
――次は元ティーン・アイドルのブライアン・ハイランドが、ニューオーリンズで録音した『In The State Of Bayou』から。アラン・トゥーサンが他のアーティストに提供した曲を集めた、〈アラン・トゥーサン・ソングブック〉みたいな内容です。
マックス「(レコードの裏面を眺めながら)ホントだ、“Basic Lady”も入ってる。〈フェンダー・ローズ88〉とか、ジャケット裏の楽器のクレジットが細かいね」
ジュリアン「曲のタイトルを眺めてるだけでも、名盤って感じがするよ」
――次は、ネヴィル・ブラザーズのアーロン・ネヴィルによるソロ作から。
マックス「えっ、ネヴィル・ブラザーズってもっとおもしろい感じのイメージだった。〈ハ・ハ・ハ・ハ〜〉みたいな歌い方でさ。ダニエル・ラノワの『Acadie』というアルバムは聴いたことある? B面にネヴィル・ブラザーズが歌ってる“Amazing Grace”が入ってるんだけど、あれウケるよね(笑)」
――どのようにして、そういう古い音楽を知るようになったんですか?
ジュリアン「こうやっていろんな人から教えてもらったり……僕はカニエ・ウェストとかリアーナみたいなポップソングか、もしくは本当にオブスキュアな音楽が聴きたいんだ。その中間……例えばジョニ・ミッチェルやニール・ヤングなんかがクラシックなのはわかるけど、そういったものからは距離を置きたかったというか」
マックス「ヌメロ・グループから出ている、『Wayfaring Strangers』というコンピなんかを聴いたりね」
〈ホイットニー〉にフラれちゃったんだ
――そういえば最近Instagramに、ライオンというオランダの男女2人組の“You’ve Got A Woman”という曲のカヴァーをアップしてましたけど、どうやってあんなマイナーな曲を知ったんですか?
ジュリアン「ブルックリンでベイビーズ・オールライトというライヴハウスを経営しているビリー・ジョーンズが、ずっと前に送ってくれたんだ」
マックス「彼はポーチズ※のマネージャーでもあるんだよ」
※フランキー・コスモスのボーイフレンドでもあるアーロン・メインが率いるバンド
ジュリアン「レーベルから何か1曲提供してくれと頼まれていて、新しい曲も書いてはいるんだけど、それは次のアルバムに取っておきたかったから、とりあえずカヴァーでもやってみようと思って録音したんだ。せっかくだからライヴでもやってみようと思って(日本に来る前に)韓国で演奏してみたんだけど、ドラムを叩きながら歌うのが難しくて後悔したよ(笑)」
――それはシングルとしてリリースするんですか?
ジュリアン「そう。ビデオも撮影するつもりだよ。僕らが演技するんだ」
マックス「2か月以内にリリースできたらいいかな。僕が女性役で……」
ジュリアン「僕が男役(笑)」
――本国での所属レーベル、シークレットリー・カナディアンが企画した『Our First 100 Days』というアンチ・トランプのコンピレーション※にあなたたちも参加しているそうですが、そこに提供するのはまた別の曲ですか?
※ドナルド・トランプが大統領に就任してから最初の100日間、毎日1曲ずつ新曲が公開されていく。エンジェル・オルセンやエイヴィ・テア(アニマル・コレクティヴ)、トロ・イ・モワらも参加
マックス「そうだね。ただ、いまも〈アンチ・トランプ〉という言い方をされたし、実際にいくつかのニュースの見出しはそうなっていたけど、必ずしもそういうことではないんだ」
ジュリアン「確かに彼はアホだし、僕らは反トランプの立場ではあるけどね」
マックス「このアルバムの性格としては、トランプ政権下で辛い思いをしたり、皺寄せを受けるであろうグループへのチャリティー・コンピという名目なんだ※。〈アンチ〉ってネガティヴさを打ち出しているというよりは、その下で戦っている人たちへの応援の気持ちを込めた作品だってことは言っておきたいね」
※アルバムの収益は女性の権利や移民問題などに取り組む団体に寄付される
――先日ポルトガルのリスボンで曲作りを始めたと聞いたのですが、次のアルバムも意外と早く聴けそうでしょうか?
マックス「ちょっと先になるかな。曲は書いているけど、ツアーもまだ続くし、落ちついてレコーディングできるのは秋頃になりそうだね。ライヴでは新曲もやるけどね」
ジュリアン「(4月に開催される)〈コーチェラ〉あたりで新曲を披露するつもりだから、日本でもライヴ・ストリーミングで観られると思うよ」
――では最後にベーシックな質問ですけど、そもそもどうして〈ホイットニー〉なんですか?
マックス「響きが良いから」
──ジュリアンの初恋の相手の名前でもあると聞いたんですけど。
ジュリアン「いやまあ、あれは小学校5年生ぐらいの時で、確かにキスもしたし、デートもしたけど、フラれちゃったんだ(笑)」
――彼女はあなたがホイットニーというバンドをやっていることを、どう思ってるんでしょう?
マックス「プロポーズされたんだっけ?」
ジュリアン「違うよ(笑)。もう彼女は結婚して、子供もいるから。でもこの間TVの深夜番組に出演した時も、その話をしたんだよね。彼女は小さな街に住んでるから、きっとみんなに言いふらして話題になっているんじゃないかな。〈あなたから名前を取ったバンドがいるんだって?〉とね(笑)」