海外のインディー・ロックで2016年の新人王を選ぶとしたら、真っ先に挙げたいバンドの一つがホイットニーだ。昨年6月にリリースされたデビュー作『Light Upon The Lake』は海外メディアの年間ベストに軒並みランクイン。ここ日本でもASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文氏など多くのアーティスト/音楽評論家が絶賛すると、内容の良さも相まってSNS上での口コミも広がり、ヒットに繋がった。
決して派手なバンドではないホイットニーが多くのリスナーを惹きつけるのは、ドラムスも叩くジュリアン・アーリックの切ない響きのファルセットと、古き良きアメリカ音楽を土台にしたソングライティング、郷愁を誘うハッピー・サッドなメロディーを兼ね備えているからだろう。つい最近、USの人気番組「The Late Show With Stephen Colbert」で披露された代表曲“Golden Days”のパフォーマンス映像には、そんな彼らの魅力が凝縮されている。
1月18日(水)に東京・原宿Astro Hall(すでにソールド・アウト!)、1月19日(木)に大阪・梅田Shangri-laにて初のジャパン・ツアーを控えているホイットニー。薔薇の花をあしらったアートワークも美しい『Light Upon The Lake』はタイムレスな魅力を湛えており、これから何度も再発見されることになるはず。そう考えれば、いまから彼らの音楽を聴くのは少しも遅くはない……ということで、今回は入門編として、バンドの歩みと音楽性を整理してみたい。
バンド結成~デビュー作が完成するまで
ホイットニーの中心人物は、ポートランドのサイケ・バンド、アンノウン・モータル・オーケストラ(2月に来日!)にも参加したジュリアン・アーリックと、ギタリストのマックス・カケイセックの2人。彼らは日本でも人気を博したギター・ポップ・バンド、スミス・ウエスタンズの元メンバーであり、以前からシカゴで共同生活をしていた。スミス・ウエスタンズは2014年に解散しているが、そこから紆余曲折を経て、彼らは一緒に曲作りするようになる。NMEに昨年掲載されたインタヴューによると、2人に大きなヒントを与えたのは、アブナー・ジェイやルイスなど近年発掘されるまで謎多き存在だったシンガー・ソングライターたち。そういったオブスキュアな音楽家に影響を受けたこともあり、彼らは架空のソングライターである〈ホイットニー〉をバンド名に掲げるようになった。
先ほどのインタヴューではホイットニーが軌道に乗る以前に、ジュリアンとマックスが体験した〈どん底〉についても語られている。外出もままならないほどの極寒に見舞われた冬のシカゴで、2人は同時期に恋人と破局。さらにスミス・ウエスタンズを離れたばかりでヤケ酒を呑む経済的な余裕すらなく、ホームレス同然の暮らしをしていた2人は、とにかく一心不乱に曲を書き続けていった。「アルバムに収録されている楽曲には、素直な気持ちがたくさん隠されている」とジュリアンは語っているが、哀愁漂うサウンドに隠れた苦難の時期を経て、2015年にライヴ活動をスタート。そしてトバイアス・ジェッソJrのオープニング・アクトを務めたことがきっかけで、『Light Upon The Lake』のプロデューサーとなるフォクシジェンのジョナサン・ラドーと出会った。
ホイットニーの音楽性とライヴの展望
以前、アジカンの後藤氏が〈別れた女の子の歌ばっかり〉と指摘していたが、『Light Upon The Lake』の歌詞はこれでもかというほど青臭い。そういった赤裸々な言葉が、ジュリアンの繊細な歌声と柔らかなサウンドに重なることで、エモーショナルなポップソングに昇華されている。
setlist.fmによると、ホイットニーはライヴでボブ・ディランの“Tonight I'll Be Staying Here With You”やNRBQの“Magnet”を取り上げており、アルバム・リリース以前の2015年には、同年に亡くなったアラン・トゥーサンの代表曲“Southern Nights”のカヴァーを披露していた。そういったフォークやカントリー、サザン・ロックなどを基調にしたメロウな演奏は、60年代後半に〈ビッグ・ピンク〉と呼ばれた家屋に集まり、ルーツ・ミュージックをじっくり煮込んできたザ・バンドとも重なって映る。“No Woman”のミュージック・ビデオでも描かれているように、山小屋に集まって演奏する光景が目に浮かぶようだ。
その一方で、 “No Matter Where We Go”はスミス・ウエスタンズ時代にも通じるアップテンポなナンバー。ペイヴメントなど90年代以降のUSインディー・ロックが培ってきたローファイなグルーヴも効いており、ホイットニーが現代的なセンスも兼ね備えたバンドであることを実証している。このように、アメリカン・ルーツ・ミュージックへの憧憬やクラシック・ロックから受け継いだリリシズム、近年のインディー・ロックを通過した今日的なフィーリングが、ホイットニー・サウンドの根幹を成していると言えそうだ。
トバイアス・ジェッソJrの『Goon』やレモン・ツイッグスの『Do Hollywood』でバロック・ポップ的な音作りを実践していたプロデューサーのジョナサン・ラドーは、この『Light Upon The Lake』においても絶妙なアナログ感を持つバンド・サウンドを生み出している。ホイットニーの音楽を聴くとノスタルジックな気分にさせられるが、同様のフィーリングや質感を持つアーティスト/作品を挙げるのが実は難しく、そういう意味では〈懐かしい〉よりも〈新しい〉と表現するのが適切なのかもしれない。ちなみに、ジョナサン・ラドーの参加するフォクシジェンはニュー・アルバム『Hang』のリリースを2月15日に控えており、一連のプロデュース・ワークで名を上げたことで、これまで以上に注目が高まりそうだ。
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ホイットニーのライヴは、果たしてどのようなものになるのか。彼らは現在、専属のサウンドマンを含む7人編成で活動中。ステージに6人ものメンバーが並ぶわけで、視覚的にも賑やかだ。その中央でジュリアンがドラムスを叩きながら歌う光景も新鮮だし、あのミラクルな声を至近距離で浴びることができるのもたまらない。『Light Upon The Lake』はホーンやキーボードなど各パートの絡みがウットリするほど気持ち良い作品であり、持ち味であるアンサンブルの妙からは目が離せなくなりそうだ。そして何より、プレイされるのは極上のナンバーばかり。初来日ツアーを成功させたあとは、大型フェスの出演などさらなる飛躍も期待したい。
Hostess Club Presents Whitney
1月18日(水) 東京・原宿Astro Hall ※Sold Out!
1月19日(木) 大阪・梅田Shangri-la
開場/開演:18:00/19:00
料金:前売り5,500円(税込/1Drink 別)
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