〈インディー・ロックは死んだのか?〉と訊かれたら、2009年が百花繚乱のピークで、ダーティ・プロジェクターズ『Swing Lo Magellan』(2012年)とヴァンパイア・ウィークエンド『Modern Vampires Of The City』(2013年)という円熟の2作を最後に、USインディーの勢いは少しずつ下降線を辿っている――という意見に半分くらいは同意するだろう。しかし、ハッキリと断言しかねるのは、20世紀の音楽遺産を再構築しながらフリーキーな世界観を打ち出す、フォクシジェンのような異端児がいまも活躍しているからだ。〈誰だって別の誰かになりたくなることがあるものさ〉〈だからリーダーに従うんだ、そしてリーダーは君だ〉と歌われるソウル・チューン“Follow The Leader”を聴けば、アクの強い個性に一発でノックアウトされるだろう。それにしてもこの男、ノリノリである。
さらに、サム・フランス(ヴォーカル)と共にこのデュオを構成するジョナサン・ラドー(キーボード/ギター)がホイットニー『Light Upon The Lake』とレモン・ツイッグス『Do Hollywood』という昨年のUSインディーを代表する人気作をプロデュースしたことで、フォクシジェンに対する注目度がアップ。そんな追い風もあって、通算4枚目となるニュー・アルバム『Hang』は初の日本盤化も実現した。レモン・ツイッグスのダダリオ兄弟やフレーミング・リップスのスティーヴン・ドロゾも参加した同作で彼らが用意したのは、40人編成のオーケストラを引き連れた壮大なロック・オペラ。いまだ謎多き2人の歩みを、ここで改めて整理してみたい。
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過去から未来を導き出すビザールなポップ・サウンド
2004年に当時15歳だったサムとジョナサンは、カリフォルニア州ウェストレイクビレッジでデュオを結成。自主制作でリリースを重ねるうちに、その音源がシンズやダミアン・ジュラードなどに携わってきたソングライター、リチャード・スウィフトの手に渡ったことから、2011年に現在までの所属レーベルであるジャグジャグウォーと契約する。
そして2013年に、飛躍作となった『We Are The 21st Century Ambassadors Of Peace & Magic』を発表。ヒッピー賛歌のような佇まいの“San Francisco”、伝説的なギタリストのシュギー・オーティスに捧げた“Shuggie”など、60~70年代ロックのエッセンスとローファイ・マジックを盛り込んだビザールな音世界は高く評価された。同業者からの評判も上々で、このアルバムに惚れ込んだタヒチ80は、プロデュースを担当したリチャード・スウィフトのスタジオを訪れて『Ballroom』(2014年)を一緒に制作している。
さらに翌年には、〈スター・パワー〉という架空のバンドにまつわるストーリーを題材にした2枚組80分超の長編コンセプト作『...And Star Power』を発表。トッド・ラングレン“I Saw The Light”を露骨になぞった“How Can You Really”のような出色のナンバーも収録しているが、フリークアウトした想像力にプロダクションが追い付いていない部分があり、ややトゥーマッチな印象も拭えない一枚となった。とはいえ、そのエキセントリックな仰々しさやある種の異物感こそが、フォクシジェンの持ち味であることも事実だ。
ローリング・ストーンズやルー・リード、キンクス、デヴィッド・ボウイ、スコット・ウォーカーといった有名どころから、オブスキュアな音楽家まで。古のロックを研究し尽くし、演奏やサウンドのみならず歌唱法までトレースしながら、モダンな表現へと再構築していく。そんなフォクシジェンの手法には、過去から未来を導き出すための鋭い批評性と、常軌を逸したレコーディングへの執念が垣間見える。そういったキャラクターやここまでの歩みを踏まえれば、ジョナサン・ラドーがホイットニーやレモン・ツイッグスに対して、それぞれに見合ったプロデュースを施すことができた理由もおのずと見えてくるはずだ。
オーケストラを武器に、理解者たちと切り拓いた新境地
〈LAにまつわるレコード〉をテーマに作られたという新作『Hang』では、初のスタジオ録音を実施。これまで持ち味にしてきた60~70年代なサウンドとは距離を置き、ティン・パン・アレーやビッグバンド・ジャズ、デューク・エリントンにジョージ・ガーシュウィンといった戦前~戦中期のアメリカ音楽を意識しながら作曲が進められた。そんな本作のリード曲“America”は、ゴージャスに鳴り響くホーンやストリングス、サムの野太いバリトン・ヴォイス、ジェネシスを彷彿とさせるプログレッシヴな転調など、どこもかしこも過剰で華やか。そのなかで、〈アメリカで暮らしているのなら 君はもう死んでいるのさ〉と歌われるのだから一筋縄では行かない。
全編で響き渡るオーケストラについては、ヴァン・ダイク・パークスやELOのジェフ・リンのような異能のポップセンスを持つアレンジャーを探し求めた結果、フロー・モリッシーとのコラボ・カヴァー集『Gentlewoman, Ruby Man』をリリースしたばかりのマシュー・E・ホワイトと、相棒のトレイ・ポラードが参加している。起用の決め手となったのは、この2人が手掛けたナタリー・プラス“It Is You”のディズニー・ソング的な華やかさ。マシュー・E・ホワイトは自身のソロ作でも豪奢なプロダクションを駆使しているポップ・マエストロであり、ミニマムで隙間の多いサウンドが良しとされる昨今において、真逆の路線を突き進む彼とフォクシジェンの出会いは感慨深いものがある。
さらに、リズム・セクションを担当しているのはレモン・ツイッグスのブライアンとマイケルのダダリオ兄弟。もともとフォクシジェンのファンだったという2人と壮大でいかがわしい『Hang』の相性はバッチリで、淡いカントリー調の“On Lankershim”からミュージカルのフィナーレみたいな“Rise Up”まで、ツボを心得た好サポートは〈あまりにもパーフェクトすぎる〉とジョナサンも認めるほどだ。サウンド的にも通じ合う部分の多いレモン・ツイッグス『Do Hollywood』と本作は、コインの裏表のような関係だと言えるのかもしれない。
フレーミング・リップスの『The Soft Bulletin』(99年)やアリエル・ピンクの『Before Today』(2010年)がそうだったように、勝負のタイミングで新境地を開拓した『Hang』によって、フォクシジェンは今後ますます注目される存在になりそうだ。そして最後に、USのTV番組「Conan」で16人編成のバンドを引き連れて“Follow The Leader”を披露したときの映像を紹介しておこう。ロックスターはかくあるべし。彼らの時代がやってきたことを確信するしかない熱演ぶり、キマリっぷりである。