嘘と煩悩の男による仕切り直しの新作は、ライヴを通じて欲した音と言葉で〈想い出の向こう側〉へ突き抜ける。その先で辿り着くのは、もちろん現時点での最高地点だ!!
新しいノリ方を
〈嘘800 煩悩108 合計 908〉――KREVAのニュー・アルバム『嘘と煩悩』は、その言葉を元にしたタイトル曲“嘘と煩悩”からスタートする。
「〈嘘と煩悩〉っていうキーワードは長年自分のなかにあって。今作からレーベルを移籍して、〈仕切り直し〉や〈新しい門出〉っていうイメージがあった時に、自分を象徴するような言葉を入れたかったんだけど、そこで〈KREVA〉っていうタイトルじゃちょっと引っかからないなって。そこが〈嘘と煩悩〉だっ たら〈何!?〉って興味を惹けるかなと思ったんだよね」。

ベスト盤『KX』やその後のシングル“Under The Moon”はあったが、オリジナル・アルバムとしては2013年の『SPACE』以来、4年ぶりとなる本作。2015年から2016年までの間にはライヴやリリースを行わない期間を設けるなど、制作は以前よりも時間を取って進められている。
「最近は自分で作ったオケを再構築してバンドと一緒にライヴ用のトラックを作る作業に時間を割いていて。しかも、いろんな技術や方法論をとことんまで追求するんで、そうすると必然的に時間がかかるし、作品リリースのペースが落ちざるを得なくなったっていうのはある。ただ、その作業は俺の場合はまったく苦ではないし、テンションが高かろうが低かろうが、それとは別にスタジオで曲を作ってる。だから、モチベーションが落ちてるなんてことはないし、むしろモチベーション自体必要じゃない。制作に向かうのは、〈曲を作るのがとにかく楽しい〉っていう、シンプルな理由だから」。
そのうえで生み出された『嘘と煩悩』には、“FRESH MODE”をはじめとするメロウさや柔らかな感触が、全体のトーンとして通底している。
「ベスト盤『KX』とそれに伴うライヴをやった時に、イケイケな感じが強くて、じっくり聴かせられる曲が案外少ないなって。それで、少し落ち着けるような曲が欲しいなと思ってたのがひとつ。もうひとつは、“FRESH MODE”と同じような雰囲気を持ったトラックが何曲かあって、それを中心にしたアルバムにしようと思ったんだ。とはいえ逆の方向の“神の領域”みたいな曲も出来てて、そのバランスのうえで今回のような温度感になって」。
“FRESH MODE”や“タビカサナル”“君に夢中”などは、ダウンテンポな現行のUSサウンドに通じる仕立てになっているが、そこではコード感やメロディーの乗せ方によって、J-Popとの親和性も同時に感じられる。つまり、彼がこれまでのキャリアで続けてきた〈先端のサウンドをどう日本型のポップスにするか〉というチャレンジが今回も行われているのだ。
「(トラップのようなビートであっても、BPMを)倍で取ってガンガンにクビを振らせるっていうんじゃなくて、軽く倍でノる人もいれば、遅いビートのままノる人もいてもいいぐらいの温度というか。そうすることで、新しいノリ方をわかりやすく提示できるのかなって思ったんだ。あと今回は、特にコード進行にこだわってる。そこにこだわると同時にメロディーが浮かんでくるし、そのなかで良いメロディーを残していったら、こういうサウンドになったんだよね」。
裏のテーマは〈ライヴ〉
また、本作から顕著に感じられたのは、リリックの抽象性。ストーリーやメッセージは明確なのだが、いわゆる固有名詞や流行語のようなものが登場する頻度は非常に少なく、マインドや内面性、感覚や場面を表すような言葉がリリックの中心になっている。その意味でも、リスナーそれぞれが思い浮かべる状況はまったく異なるだろうし、イメージの喚起力が非常に高い作品と言える。
「自分の場合は〈思い〉を濾して、そこで残ったモノを歌詞にしたいと思ってるし、今回は時間があったぶん、その作業が進んでると思う。それでそういう歌詞になったのかな。“もう会いたくて”もラヴソングではあるんだけど、自分のイメージとしては、ライヴが終わって、会場を出てすぐに〈もう次のライヴが観たい!〉って思うような気持ちを込めてる。今回の裏テーマは〈ライヴ〉なんだ。だけど、〈ライヴでノるため〉っていうんじゃなくて、〈ライヴ会場に来てくれた人と俺との関係性〉を書きたかった」。
そして今作には、彼の手掛けた音楽劇にも出演した2名、これまでも共演曲のあるAKLOと、増田有華が客演している。
「増田有華ちゃんは、〈彼女に歌ってもらうならこの曲だな〉っていう曲を勝手に俺が作っちゃうぐらい、インスピレーションを与えてくれる存在なんだよね。表現力に加えて、曲の理解力がとにかく高いし、さらに自分の色も加えられるから、聴いててとにかく楽しい存在。AKLOは〈いまが大事なんだ〉っていうメッセージを込めた“想い出の向こう側”を作る時に、〈いまをいちばん表現できてるラッパーは誰かな?〉って考えたら、やっぱり彼だった。しかも、この曲を作り終わったらもう次のRECに行こう、って歌詞だったから、そのスピード感もイマっぽすぎるなって」。
AKLOが客演の“想い出の向こう側”は、現在のラップ・ブームに対する感情を内包している曲であることが伝わってくる。
「下の世代から、〈KREVAさんの曲、すっげえ聴いてました〉って言われることもあったり。そこに悪意は感じないし、〈うん、いまも格好良いから聴いてね〉としか返せないんだけど、過去形で言うんだな、とは正直感じる。フリースタイルに関しても、YouTubeで観た昔の〈BBOY PARK〉の話を持ち出されても、やっぱり困るよね。だから、それよりも〈想い出の向こう側〉、つまり〈いま〉を表現したいし、常に〈いまの俺〉を聴いてほしい」。
『嘘と煩悩』のリリース後には、2月より全国ツアー〈KREVA CONCERT TOUR 2017「TOTAL 908」〉がスタートする。
「アルバムが『嘘と煩悩』、ツアーが〈TOTAL 908(キュー・ゼロ・ハチ)〉。だから全部ひっくるめて〈KREVA〉っていうツアーにしたい。アルバムの曲もライヴではもっと上手く聴かせられると思うし、〈その時点の最高〉を見せたいし、観に来てほしい。加えて、2017年はプロデュースや客演、外仕事と、いろいろ出ていく年にしたいと思ってるね」。
KREVAの近作。
関連盤を紹介。
多岐に渡る膨大なKREVAワークスから、『SPACE』以降の客演/プロデュース参加作品を厳選して紹介!

KREVAとは人気曲“STEP UP”(2008年)のコラボで知られ、AKLOとのコンビで“マカー(GB-mix)”(2011年)に客演していたのも記憶される奇才。本作はKREVAのレーベル発ということのみならず、全曲をKREVAプロデュースの二人三脚で作り上げたという点でも重要な一枚だ。
名曲“生まれてきてありがとう”(2009年)にさかいゆうを招いた数年越しのお返しということなのか、本作収録の“オトコFACE”にはKREVAが客演。全体的に濃密な雰囲気のアルバムにおいて、ひときわ黒くファンキーなロック・サウンドを備えた男臭い共演を聴かせている。

KREVAのソロ・デビュー10周年イヤーだったこの年、盟友MCUとLITTLEが結成した新コンビの初作。トータル・プロデュースをKREVAが手掛けており、〈トリオ〉での新鮮な現在形を披露した。本作リリース後にはKICK THE CAN CREWとしてのフェス出演も話題に。

KLOOZのプロデュース経験もあるKREVAだが、DREAM BOY総帥との縁はそれ以前から。本作に収録された“Shock”ではロッキッシュでアグレッシヴなビートを提供し、SKY-HIとMummy-Dも交えてラップでも参戦。世代別ハンサムな4名がガツガツ捲し立てる熱い仕上がりだ。

新作への参加や音楽劇「最高はひとつじゃない2016 SAKURA」出演など、現在に至るまでの交流は言わずもがな。2012年の“No More Mr.NiceGuy”などでKREVAに抜擢されていたAKLOは、躍進を経た本作のリード曲“Catch Me If You Can”に先輩を招き、威勢良くマイクを交わしている。
バンドにとって初のフィーチャリング曲となった“TOKYO HARBOR”に招かれたのはKREVA。もともと彼女たちがファンだったことから実現したコラボだそうで、都会的なメロウネスを湛えた演奏で恋の駆け引きを歌うという舞台設定もマッチしている。

同じFGの仲間として、昔からラッパーとしてのKREVAは何度か作品に招いてきたRHYMESTERだが、プロデューサーとしての起用は意外にも本作収録の“ペインキラー”が初めて。〈薬も過ぎれば毒になる〉というテーマに沿って(?)ゆったり不穏にウネるビートが中毒へと誘う。
豪華な顔ぶれがラインナップされた意欲作にあって、KREVAは“Too Many Girls”にフィーチャー。もう入りからカッコいい語り口のメロディアスな支配力は、仄温かなtofuビーツとも好相性だ。『POSITIVE REMIXES』に収録されたIllicit Tsuboiのリミックスもチェックされたし。

2012年の“PROPS”を皮切りに、別掲のKEN THE 390曲でもSKY-HIと絡んできたKREVAだが、本作ではプロデューサーとして“As A Sugar”にトラックを提供。急き立てるようにトランシーな意匠で主役の熱いスピットを引き出した手捌きが光る。

建物の老朽化に伴って閉鎖される馴染み深いレコーディング・スタジオ〈monday night studio〉に捧げた一枚。LITTLEやMCU、SONOMIらと総勢で送る“虹”、女優の小西真奈美による名演“トランキライザー”など、温かい生音主体で心地良く聴かせる。
前作『Open Sesame』にラッパーとして招かれた縁をさらに深め、ここでのKREVAは“Climax”に作詞/作曲/編曲/ラップで参加。玉置浩二やユーミン、久保田利伸、谷村新司まで錚々たる作家陣が名を連ねるなか、ソーラー調のグルーヴに乗せてマーチン節を気持ち良く盛り上げる。



