三浦大知の『OVER』は、2017年の前作『HIT』から7年ぶりのオリジナルアルバムで、コンセプチュアルなプロジェクトとして制作された『球体』(2018年)から数えても実に6年ぶりの新作だ。その間、三浦大知はもちろん休んでいたわけではなく動きつづけていたわけだが、『OVER』には過去のシングルは収録されておらず、本作のために制作された新曲だけが収められている。リリースに先駆けたツアーの時点で話題を呼んだ待望のニューアルバムにして、〈アルバム〉に立ち返り歌と音を研ぎ澄ました本作について、音楽ZINE「痙攣」の編集長・李氏が綴った。 *Mikiki編集部
この男に歌えない曲など存在しない
三浦大知、もはやこの男に歌えない楽曲など存在しないのではないか。思わずそんな言葉が洩れてしまうほどの圧倒的練度だ。Nao’ymt、UTAら長年のコラボレーターだけでなく、ウィル・ジェイ(Will Jay)、バイポーラー・サンシャイン(Bipolar Sunshine)といった海外勢ともタッグを組んだ先鋭的なトラック群を軽やかに歌いこなす歌唱力。あるいはKREVA、Furui Rihoら客演陣の魅力を引き立てながら確かに存在感を発揮するバランス感覚。まさしくタイトル通り過剰なまでのフィジカリティの洗練がここにはある。
前作『球体』(2018年)においては彼の卓越したスキルが随所で発揮されながらも、むしろ全体のコンセプトや美意識こそが全面化していた。作品全体を再現したライブパフォーマンスが〈「球体」独演〉として映像作品化され、ネット配信されたことは記憶に新しい。様々な舞台装置を駆使しながらシアトリカルに展開されるひと繋ぎの物語。アブストラクトでありながらも揺るぎないトータリティを誇る同作は、国内ポップスの名盤として語り継がれることとなった。
トレンドも取り入れながら限界を超える身体
他方、今回取り上げる『OVER』に前作のような明確なコンセプトを見出すことは難しい。むしろ有り余るスキルを思う存分見せつけるための一種の〈腕試し〉的側面が強くあるのが特徴だ。アンダースコアーズ(underscores)といった近年台頭する気鋭のトラックメイカーのロック解釈を意識したと思われる“Light Speed”、あるいは“全開 feat. KREVA”、“ERROR”に見られるジャージークラブやドラムンベースへのビートアプローチ(とりわけ前者のKREVAの高速フロウと好対照をなす三浦の絶妙にリラックスした歌唱表現の素晴らしさ!)これらのトレンドに対する目配せも欠かせない本作においては、三浦大知の優れたフィジカリティをどう活かすか、あるいは既存のフォーマットとの化学反応をどう生み出すかがまず第一にあったのではないかと思われる。
それ故か、『OVER』においてはどこか磨き抜かれた演舞のような風格が漂っており、『球体』とは異なる形での完成度の高さがある。前作の抽象的なアートワークと打って変わって自身のポートレイトが使用されたジャケット。課された限界を超えていくこと、思うままに生きていくことを強調しながらも〈その先〉を示さない特徴的なリリック。これらは三浦大知の柔軟に流動する身体の限りなさを示唆するようだ。
RELEASE INFORMATION
リリース日:2024年2月14日(水)
■AL+DVD
品番:AVCD-98155/B
価格:5,500円(税込)
■AL+Blu-ray
品番:AVCD-98156/B
価格:5,500円(税込)
■AL
品番:AVCD-98157
価格:3,410円(税込)
TRACKLIST
Disc 1 -CD-(3形態共通)
1. Pixelated World
2. 能動
3. 全開 feat. KREVA
4. 好きなだけ
5. Flavor
6. Light Speed
7. 羽衣
8. ERROR
9. Sheep
10. Everything I Am feat. Furui Riho
Disc 2(DVD/Blu-ray共通)
1. Pixelated World -Music Video-
2. 能動 -Music Video-
3. Sheep -Music Video-
4. Pixelated World -Music Video Behind The Scenes-
5. 能動 -Music Video Behind The Scenes-
6. Sheep -Music Video Behind The Scenes-
7. 能動 -Live Edit Video from LIVE OVER (2023.10.06 FESTIVAL HALL OSAKA)-
各CDショップ・ショッピングサイト特典:オリジナルポストカード(A6サイズ)