Photo by 古溪一道
〈Hostess Club Weekender 2014.JUNE〉でのライヴ写真
 

アルビニに〈好きなことを自由にやればいいんだよ〉と背中を押してもらった

――さて、4月には待望の来日公演がありますよね。それに向けて、これまでのクラウド・ナッシングスの作品を振り返ってみたいと思います。

「うん、いいよ」

――もともとあなたは、宅録によるデモ制作から音楽活動を始めていて、インターネットで公開していた音源を集めた『Turning On』(2009年)が話題となった翌年、ファースト・アルバム『Cloud Nothings』を完成させました。この時期の作品については、いまどんな印象ですか?

「うーん、長いこと聴いてないから忘れちゃったけど(笑)、ファースト・アルバムというのは、自分が音楽活動を始めてから作り貯めていた楽曲を集めたものだよね。多くのアーティストが作るファーストに傑作が多いのは、みんなそういう作り方をしているからだと思う」

『Turning On』収録曲“Hey Cool Kid”
 

――確かにファースト・アルバムというのは、溢れる初期衝動に加え、それまで自分が培ってきた音楽的な引き出しをすべて開け放って作るから、傑作と呼ばれるものが多いですよね。特に70年代のパンクは、すべてのバンドが〈ファーストこそ最高傑作〉と言ってもいいくらい。

「そうなんだよ。僕が一人で作った『Turning On』『Cloud Nothings』も、まさにそう。曲作りのテクニックなんて、まだ何一つ知らずにすべてが手探りだった。当時の自分の考えや音楽的なルーツ、そういったものがぎっしりと詰まったドキュメンタリーみたいなアルバムだね」

『Cloud Nothings』収録曲“Should Have”
 

――2作目の『Attack On Memory』(2012年)は、ピクシーズの『Surfer Rosa』やニルヴァーナの『In Utero』など、数多くの歴史的名盤をプロデュースしてきたスティーヴ・アルビニとの共同作業によって生まれています。

「『Attack On Memory』はとても気に入っている。このアルバムを作る前は、誰も僕らのことなど気にも留めていなかったけど(笑)、これでようやく世間に認識されるようになった。そんな記念すべき作品だね。“Fall In”や“Stay Useless”、いつもセットリストの最後に入れている“Wasted Days”など、いまもライヴで演奏する曲が多い。アルビニとの作業はとても楽しかったよ。自分にとって初のスタジオ録音アルバムをレジェンドと一緒に作れたことを誇りに思う。いま思えば、当時の自分はアルビニがどれだけ凄い人なのか、きちんと理解できていなかったような気がするけど」

『Attack On Memory』収録曲"Stay Useless"のライヴ映像
 

――アルビニから学んだことは?

「そうだな、細かい録音技術というより、彼の〈DIY精神〉に学んだことが多いかな。つまり、〈自分でできることは自分でやる〉ということ。それにより成功を手にした後も、常にパンクな姿勢を貫き通しているのは凄いことだと思う。〈好きなことを自由にやればいいんだよ〉と彼に背中を押してもらった気がするし、そのときの自分の気持ちを今後も忘れないようにしたい」

――このアルバムが出た当時、あなたはワイパーズからの影響を公言していました。先ほど、最新作にもワイパーズから影響された楽曲が入っていると話してくださいましたが、そういう意味で『Attack On Memory』と新作『Life Without Sound』は似ているところがある?

「ああ、言われてみれば、確かに共通点はある。ただ、アプローチの仕方はまったく逆なんだ。つまり『Attack On Memory』は『Cloud Nothings』の反動で、ノイジーかつダークな曲作りから始まり、最終的にポップなアルバムに仕上がったのに対して、新作はポップな楽曲をめざしつつノイジーでダークなサウンドへと発展していった。だから、この2枚のアルバムは合わせ鏡のようなものかもしれない」

『Attack On Memory』収録曲“Fall In”
 

――それはおもしろいですね。“Wasted Days”は、バンド・アンサンブルが破綻しかねないインプロヴィゼーションが、およそ9分もの間続くという本当にクレイジーな曲ですが、これはどうやって作りました?

「長くてノイジーな即興曲というのは、ライヴでやるたびにいろいろ変えられるから楽しいんだよね。そういう楽曲を、録音物としてまとめ上げることができるかどうかを実験するつもりでアルバムに入れてみたんだ。上手くいったと思う。昔からフリージャズが大好きだったし、そういった要素をクラウド・ナッシングスの音楽性に採り込めたことは嬉しかったよ」

『Attack On Memory』収録曲“Wasted Days”のライヴ映像
 

――以降、『Here And Nowhere Else』(2014年)には“Pattern Walks”、新作『Life Without Sound』には“Realize My Fate”と、長尺の即興曲を必ず入れるようにしていますもんね。

「そうそう。こういうジャム・セッションみたいな楽曲をアルバムに入れることで、他の楽曲とのコントラストが生まれるからおもしろいんだ。いつか、この手の楽曲だけを集めたアルバムも作ってみたいな」

――それはぜひ聴いてみたいです。最近のライヴのセットリストを見たら、3作目の『Here And Nowhere Else』からも、結構たくさん組み込んでいるなと思いました。

「とにかく気に入っているんだよね(笑)。さっき君が言った通り、ライヴを意識して作ったアルバムだったから、演奏していて楽しいんだ」

『Here And Nowhere Else』収録曲“I'm Not Part of Me”
 

――ダークだった『Attack on Memory』に比べて、このアルバムは開放感あふれる楽曲が多いですよね。それでいてメロディーは狂おしいほど切なく胸に響きます。急激なテンポチェンジが何度も行われる“Psychic Trauma”など、曲そのものに意思が宿っているようですし、演奏していて楽しいというのもよくわかります。では、最後に来日公演への意気込みを聞かせてください。

「新作からもたくさん演奏するよ。ライヴで演奏すると、音源よりもクレイジーなサウンドになるし、それによって昔の楽曲とも上手く馴染むんだ。とにかく、ライヴでどのくらい印象が変わるか、その違いもぜひ楽しんでほしいと思う」

――ちなみに、初期の曲はもうやらないんですか?

「そうだね、長いことやってないな。別に昔の曲が嫌いになったわけでも飽きたわけでもなくて、最近のセットリストに上手く合わないだけなんだよね。そういえば、ちょっと前にYouTubeを漁っていたら、僕らの初期の楽曲をコピーしている日本のバンドを見つけたんだ。めちゃくちゃ良かったから、ぜひ彼らにも僕らのオープニングアクトをやってほしいなあ(笑)」

 

Hostess Club Presents Cloud Nothings
With Special Guest : Klan Aileen

2017年4月11日(火)東京・恵比寿Liquidroom
2017年4月12日(水)大阪・心斎橋Soma
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