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TOSHI-LOWの言葉で変わった何か

――サウンドやアレンジ面のアップデートについて、もう少し聞かせてください。

「とにかく〈聴いてみてどうなのか?〉を意識したんですよ。それまでは自分たちの演奏し心地がメインだったから、必然的にライヴ感の強い楽曲になっていて」

――『アウェイ』は特にそういう色が強かったですよね。

「ですね、過去の音源も基本そうだった。でも今回はライヴ感は気にせず、作品として人に聴かせた時に過不足なく伝わるかを考えました。なので、さっき言ったように僕が作った完成形デモをみんなに渡して、それを生音に差し替えていくやり方。この手法で今回の3曲をやってみたんです。〈こう弾きたい〉〈こう叩きたい〉じゃなくて、ガイドがしっかりあって〈その通りにやってみてくれ〉と」

SCOOBIE DOの2016年作『アウェイ』収録曲“アウェイ”
 

――とはいえ、小さくまとまった感じはまったくなくて、“ensemble”なんてむしろハッとさせられるパートが多かったです。女性コーラスやキーボードの華やかさ、サビ前のカッティングとか。

「そのへんはデモ段階で考えに考えましたね。過不足なく伝わること+〈新しさ〉を求めていたから」

――フューチャー・ソウルっぽいノリも感じますね。

「うんうん。トレンドと言える音楽も、去年はいっぱい聴くようにしていました。アンダーソン・パックとかね、シンガー/ラッパーであり、ドラマーでもあって、ライヴ映像がめちゃくちゃカッコイイんですよ! それから彼の周辺アーティストも聴き漁ったり、ジョーダン・ラカイやブラッド・オレンジ、ケイトラナダ、レジナルド・オマス・マモード4世なんかも聴いて。新しいところへ行くために、新しいものを聴きたい気分になっていた。そこも意識的に変えたポイントですね。以前はできるだけ古い音楽を大切にして、ヒントをもらっていたので。そうやって最近の流行に触れて感じたのは、いまの時代は音数がすごく少ないんですよ。でも、ひとつハッとする彩りがあるというか。例えば、新世代のネオ・ソウルにしても、4つ打ちのなかに80sっぽいエレピが入っていたり。一点で聴いてる人をハッとさせる曲が多い気がしたんです。だから“ensemble”を作る時も、一点の彩りになるものは何かな?と考えていた。その流れで、女性コーラスだなと思ったのはあります」

アンダーソン・パックのパフォーマンス映像
 

――なぜ、女性コーラスだと?

「うーん……作ってる時は、何でも入れられるなとは思っていたんです。ホーンでも弦でも。だけど、仮でそれらを試してみたらトゥーマッチになっちゃって。耳に残る、〈この曲はこの音だよね!〉としっくりくるものを考えて、やっぱり人の声だなと。しかも女性の声。最後は直感で決めました」

――確かに、声の魅力は3曲を通してとても印象に残ります。

「全体的にメロディーが流れるような質感だったんで。楽器を差し込むんじゃなく、メロディーを強調したアレンジがいいんだろうなと。どの曲もギターと歌だけで成立する作りで、そこからさらに音数を抜いたり、アップデートを意識したり。ダンサブルではあるけど、スローガンっぽくワンフレーズを繰り返す曲ではないですもんね、今回は。“アウェイ”みたいにめっちゃリフレインしない」

――“Funki“S”t Drummer”(ファンキエスト・ドラマー)も(コヤマ)シュウさんの声から始まりますね。

「声って、やっぱりいいなと思ったりもしました。重ねていくと、どんな楽器よりも派手なんですよね」

――ちなみに、“Funki“S”t Drummer”のような曲でもかっちりとガイドがあるんですか? ドラマーのMOBYさんに多くを任せるわけではなく。

「ドラム・ソロに関しては任せました。サディスティックの〈S〉なんで、聴いてる人をそれこそスティックで叩く感じを出してもらって(笑)。エンジニアの中村宗一郎さんにも〈拷問みたいな鳴りにしてください〉とお願いしました」

――歌詞はラップ的というか、より韻を踏むような書き方になっていませんか?

「そうかもしれない。作り方が変わったから、最初にいいなと思った歌を採用しないことも増えているんです。完成したトラックに歌を乗せて、まず自分で聴ける工程になったので。〈歌にキレがない〉〈このメロディーだとイマイチだな〉と感じた時にその場で変えていけると、いっそうノリが出るものにしたくなるというか(笑)。ラップと歌の中間みたいなテイストだと収まりが良かった」

――バンドのドラマを感じるところもありますね。“Last Night”なんかは特に。

「“Last Night”のサビはだいぶ前に出来ていたんですよ。そんななかで、去年の11月にRHYMESTERと東名阪ツアー(ベストバウト Vol.3 × 沸騰! KINGとCHAMPな男達)を回った時、ショウの一環として2組でセッションする時間があって。RHYMESTERの“グラキャビ”をやったんだけど、シュウくんが〈自分でもラップを書くんで、8小節か16小節プラスさせてください〉と言って、曲に合わせて書いたそのラップが、何となく印象に残っていたんです。“グラキャビ”に合わせてシュウくんが書いた、バンドが続いていく様みたいなものを描いた詞と、“Last Night”のサビは相性がいいなと思ったから、Aメロの歌詞をまず入れずに作って、〈ここであのラップをやってみてほしい〉とお願いしました」

RHYMESTERの2013年作『ダーティーサイエンス』収録曲“グラキャビ”
 

――きっかけもドラマティック!

「でも、テンポ感やリズムの切り方がまんまと合わなくて(笑)。ダメかなぁと思いかけたんだけど、僕はリリックとして気に入っていたから、この曲で活かしたかったんですよね。それで歌い出しの部分を引用しながら自分でメロディーを付けたり、派生させた歌詞を書いたりして、いまの形に仕上がりました」

――“Last Night”の冒頭の〈「全国各地で待ってる 誰かがきっといるから 会いに行きなさいすぐ」 なんて言われ 10年経つ〉というのは、何かのエピソードに基づいた歌詞なんですか?

「これは、2006年に僕らがメジャーと事務所を離れる時のことですね。(所属していた)スマイルカンパニーが持っている六本木のPLANET KINGDOMが当時のレコーディング・スタジオで、(同じ事務所だった)山下達郎さんがよく2階で録っていたんです。ロビーでお会いすると、いつも徳の高い話をしてくれる方で。僕らがその事務所と契約が切れるのもご存知だったので、〈すぐバイトするんじゃなくて、自分たちだけでどうやったらお金が入ってくるかを一度考えてみるのが大事だと思う〉〈例えば、いろんな場所でたくさんライヴをやるのもいい〉みたいに、今後についての話をしてくださって。そのことを歌っているんですよ」

――シュウさんがこう記憶していた?

「そうそうそう。達郎さんの温かみのある言葉、そのままだと思います。当時の僕らは戸惑いが多い状況だったけれど、10年経ったいまこそ歌える心境、メロウな感じが出てるんじゃないかな」

――グッとくるポイントが随所にありますね。

「前よりもそういうことを意識的に出すようにしているんです。BRAHMANのTOSHI-LOWさんに〈バンドを続けてて40歳過ぎた人間はさ、やっぱりストレートじゃなくてもいいから、生き様や世の中に対してのメッセージを発さなきゃいけない〉〈若い頃なら恋愛でもなんでも好きに歌ったらいいけど、40超えてまだやってるなら世の中とリンクすることを歌わなきゃ俺はダメだと思う〉と言われた時がありまして」

――どういうタイミングで話すんですか?

「酔っぱらった時(笑)。シリアスにそんなことも話すんですよ。20周年の日比谷野外大音楽堂でのワンマンをやる前に対バンさせてもらって、その後もイヴェントなんかで会うたびにすごく僕らに良くしてくれて。フェスの現場で一緒に吞んでいたりすると、〈お前ら、野音を売り切ったぐらいで満足してんじゃねえぞ!〉みたいな喝から始まって、〈俺は原発問題の活動もしていて、BRAHMANの歌詞ではストレートには表現しないけど、伝わるように書いてるぞ〉とか」

SCOOBIE DOの2016年のライヴDVD「FILM DANCEHALL YAON」より“LIVE CHAMP”
 

――良い間柄なんですね。

「ありがたいですよ。自分も薄々そうだなと思っていたことをズバッと言われて。それ以降のスクービーは、〈いま歌うべき言葉〉を発するよう心掛けているし」

――『アウェイ』に収録されていた“その輝きを抱きしめて”も、そういう意識があったり?

「まさにそう。“その輝きを抱きしめて”はTOSHI-LOWさんと話した後、歌詞を全部書き直しましたもん。あの曲から自分のなかで何かが変わったと思う。酔っぱらっていたけど、大事な打ち上げでした」

――“ensemble”も〈現実〉〈未来〉を歌いながら、かけがえのないものを音楽で表現している。そういった深みを感じました。

「ありがとうございます! その点はもっともっと追求していきたいですね、バンドマンなりにできることを」

 


LIVE INFORMATION

“ensemble”発売記念ツアー
〈ファンキ“S”ト・アンサンブル〉

5月3日(水・祝)北海道・札幌ベッシーホール
5月5日(金・祝)北海道・函館club COCOA
5月7日(日)栃木・宇都宮KENT
5月25日(木)大阪・梅田Shangri-la
5月27日(土)愛知・名古屋CLUB UPSET
5月28日(日)神奈川・小田原姿麗人
7月1日(土)東京キネマ倶楽部
前売り 3,500円(1D別)※全公演ワンマン

“ensemble”発売記念インストア・ライヴ&サイン会
4月13日(木)タワーレコード新宿店
4月15日(土)タワーレコード梅田NU茶屋町店
4月16日(日)タワーレコード名古屋パルコ店
4月22日(土)タワーレコードアリオモール蘇我店
5月2日(火)タワーレコード札幌ピヴォ店

トーク・ライヴ〈Talk Funk-A-lismo!〉
4月12日(水)東京・阿佐ヶ谷ロフトA
4月19日(水)大阪ロフトプラスワンWEST

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