2015年に結成20周年を迎えたSCOOBIE DO。自身のレーベルであるCHAMP RECORDSを立ち上げて以降、さまざまな自主イヴェントを行ってきた彼らだが、21年目の2016年からはnever young beachやSuchmos、Creepy Nutsら若手を招いた対バン企画〈Young Bloods〉をスタートさせるなど、ヴェテランの域に突入してもなお新鮮な風を吹き込み続けている。
そんななか、実に13年ぶり、レーベルを立ち上げてからは初のシングル“ensemble”を発表した。このタイミングでシングル・リリースに踏み切った理由や新曲3曲が出来上がった経緯に加え、現在のバンドとしての心境などをリーダーでギタリストのマツキタイジロウに訊くうち、貪欲に変わろうとするSCOOBIE DOの姿が見えてきた。
このままで本当にいいのか?
――若手との対バン企画〈Young Bloods〉は実際にやってみてどうでしたか?
「誘ったバンドはやっぱり間違いないステージを見せてくれて良かったですね。あと、これまでに対バンした6組に限ったことじゃないんだけど、最近一緒にライヴをやっている若手の傾向として、静かな良い曲で締めるバンドが増えたなと思います。僕ら世代だと、ラストはそれまでの流れをブチ壊すくらいに激しくアッパーな曲でピークを作るタイプがほとんどだったのに」
――お客さんの側も、静かな終わり方を心地良いと感じていたりして。
「ね、新鮮ですよ。スクービーの場合、ある程度お客さんがワーッとリアクションしてくれることによってショウが成立していくと思うんだけど、その目に見える反応がなくても成立させられるというか。強いメンタリティーを持った若者が増えている気がします。彼らが音楽に向き合う堂々とした態度や感覚には影響を受けますね」
――共演してこそわかる部分はあるんでしょうね。
「昔は技術云々じゃないところからバンドを始めやすい時代だったと思うんですよ。まだパンクの精神が有効で、楽器が下手でも全然良くて。でもいまの若い人たちは音楽に対してもっと真摯に向き合っている。とりあえず気合い入ってりゃいい、じゃなくて、自分らが好きで聴いてきた音楽を突き詰めて、先輩のバンドがやっていることも注意深く見て、それに対して自分たちはどう表現していこうかと考えている。Yogee New Wavesなんかはリハが終わるなり、機材について〈何使ってるんですか?〉って喰い付いてきて、ライヴの後も突然セッション大会みたいなのが始まったりしていた。音楽への捧げっぷりが、僕らの若い頃とまた違うんですよね」
――スクービーも純粋に音楽に身を捧げてきたバンドじゃないですか?
「いまとなってはね(笑)。ただ、初期の頃にはやれてなかったかな。もっと意固地だったし、マジョリティーに対するカウンターでしかなかった。売れているものがある一方で、〈こういうカッコイイものもあるんだよ〉という打ち出し方に全力でしたから。その点、いまの若手はそんなにひねくれてない。never young beachにしてもSuchmosにしても、シティー・ポップだのなんだの紹介されているけど、ざっくり言えば〈格好良いバンドマンがやってる音楽〉なんですよ。ヒップホップ・ユニットのCreepy Nutsだって、バンドに近い感覚を持っている。R-指定くんは〈声の出し方にコンプレックスがあって、もうちょっとこうしたい〉とか、声も楽器として捉えているようなところがあるし、DJ松永くんも2枚使いで1曲やっていたり。自分たちの魅力をわかりやすく見せる努力を惜しまないので、すごいなと思いました」
――そうしたなか、先輩として伝えられることもありますよね。
「伝えられる立場にあるかどうかはわからないけど、こっちから声をかけたバンドは、意外とスクービーが好きだったと言ってくれることが多いので、そういう人たちには何か返してあげられたらなとは思いますね。僕らがフラワーカンパニーズやTHE COLLECTORS、怒髪天といった先輩たちに良くしてもらったように」
――では、ニュー・シングル“ensemble”についても聞かせてください。このタイミングで13年ぶりのシングルをリリースすることになった理由は?
「スクービーは、最近だと1年2か月~4か月くらいのスパンでフル・アルバムを出しているんですが、そのサイクルをなんとか変えたかったんです。もちろん良い作品は出来ているし、今後もきっと生み出せると思う。だけど、このままの活動スタンスで何年も経っちゃうんじゃないかという恐れや疑問が、2016年の頭に『アウェイ』をリリースした後にすぐ湧いてきたんです」
――結成21年目の課題が。
「ここに来てね。アルバムが出てしばらく経つと、次のスケジュールを考えるためにメンバーで集まるんですけど、〈このまま同じようなタームで(アルバムを)作り続けていって、本当にいいんすかねぇ〉みたいなことをベースの(ナガイケ)ジョーがふと言ったんですよ」
――いちばん若いジョーさんから!
「ええ。〈出来てくる曲はいいと思っているし、いわゆるスクービーっぽい楽曲をマツキさんがコンスタントに生み出していくのはとても素晴らしいんだけど、それでは何も変わらないですよね?〉と。要するに、爆発的に売れているかと言ったら、そうではないじゃないですか。ただマイペースに作り続けていって、とりわけ大きな変化もないまま自分たちだけが歳を取って風化してしまうとしたら……果たしてどうなんだろう?と。確かにそうだね、みたいな話をその時にしたんです。アルバムごとに内容は工夫しているにしろ、主に僕が(曲を)作っているとマツキ味は出ちゃうから、いっそメンバー個々に2曲ずつ作ってみる?とか、プロデューサーを立ててみようかと提案したりして」
――はい。
「でも、結局はどれも踏ん切りがつかず、時間だけがズルズル過ぎていっちゃった。ひとまず、CHAMP RECORDSではまだリリースしたことのないシングルを出そうということだけ決めたんです。最近はインディーのバンドだとなかなかお店に置いてもらえないのもあって、みんな配信オンリーのシングルになりがちだけど、俺らもそうしちゃったらおもしろくないし、そこはちゃんとパッケージをメインにしようと。あとは、何かしらこれまでと違う楽曲アプローチができれば」
――なるほど。そのあとはどうなったんですか?
「去年の夏くらいに、僕が声優の入野自由さんの楽曲をプロデュースすることになりまして※。一人で誰かをプロデュースするのは、実は初めての経験だったんですね。例えばバンドの曲作りにしても、デモをかっちり完成させて持っていくのはこれまでなかったんです。でも入野さんのディレクターから〈とりあえず、デモをできるだけちゃんと作ってください〉とお願いされてしまって(笑)。そこでついに本腰を入れて、自分で打ち込みでデモを作りはじめたんだけど、その作業が予想外におもしろくなっちゃったんです。それで、これと同じ感覚でスクービーの曲も作ってみるのはどうかなと思った」
※入野の2016年作『DARE TO DREAM』収録曲“Crazy Love”をマツキがプロデュース。同曲のベースはナガイケジョーが担当した
――他アーティストのプロデュースが初めてだったとは意外ですね。
「僕ね、楽曲提供は結構しているんですけど、完成形で作っていなかったんです。スクービーのデモもかなりざっくり(笑)。それでこれまでとは違うやり方で出来たのが“ensemble”なんです。作る前のイメージとしては、新しいことをやらなきゃダメだなという気持ちがありました。自分たちがやったことないことだけじゃなく、時代的にも新しい――聴いた時に〈懐かしい〉じゃなくて〈新しい〉と思ってもらえるものにしたかった。そのモチヴェーションが大きくて、なるべく得意の路線や手癖じゃないところで何か表現できないかと模索しました」
――新たにプロデューサーを立てるようなこともせず。
「うん。そんな話も出たけど、聴いてくれる人をハッとさせられるのはこういう曲じゃないかなと思ってメンバーに持っていったら、〈イイじゃん!〉と光が見えてきたんです。まずは僕がデモをかっちり作って、ドラムとベースと歌をみんなに差し替えてもらう感じで作っていきました」
――今年3月の六本木VARIT.でのライヴで“ensemble”を初めて生で聴いたんですけど、お客さんの反応も含めてグッときました。ジョーさんがたまらない表情で演奏していたのも印象的でしたし。
「あはははは(笑)。確かに、ジョーがいちばんこの曲を褒めてくれましたね。〈変わりたい〉と最初に提案してくれたのも彼だし、やっぱりがんばって良かった!」
――〈懐かしい〉じゃなくて〈新しい〉ものにしたかったこと、これまでとは異なる工程で作ったということが、すごく納得できる仕上がりです。
「これまでと違うテイストの曲だろうと、リハスタで僕がコード進行と歌のイメージを伝えて、メンバーとなんとなく合わせていく、これまでのやり方でアレンジしたら、たぶんいつものスクービーになっちゃったと思いますね。何を言われてもいいんで、まずは自分で1曲のデモをかっちり作り上げる、そこから始めないと変われなかったはず。結果として外部プロデューサーではなく、僕自身がプロデューサーになる感じでした」
――そうしたからこそ、新たな深みが出たんじゃないですか?
「そうなんです。いつもの作り方だともっとラフになると思う。もちろん、いつものスクービー節ならではの魅力があって、ライヴでは派手にカッコ良く聴こえたりするんだけど、いまめざすべきことはそれじゃない。去年から今年にかけては、そんなふうにみんなで考えていて」
――変わりたい想いが強いんですね。
「〈Young Bloods〉にしても、清水音泉の田口くんっていう僕らと同世代で長年付き合いのあるイヴェンターさんが、〈自分たちの得意なやり方だけで続けていくのは、実はバンドの寿命を縮めるんじゃないか〉みたいな投げ掛けをしてくれたのがそもそものきっかけですしね。やっぱり、古くなりたくない。そのためには、いままで積み重ねてきたものを覆して、まったく違うものに向かうわけではないんだけど、少しずつアップデートしていかないといけないと思います。長く続けているバンドが、昔から変わんないね~と言われたりするじゃないですか。でも全然そんなことはなく、細かくアップデートしながら変わってないように見せている。だからこそいつまでも魅力が保たれているんじゃないかな。THE COLLECTORSの日本武道館公演を観に行った時も、〈ずっとこのスタイルで俺たち30年やってます!〉と言っていたけど、絶対に30年前と同じわけないし、作る曲だってちょっとずつスタイルを変化させながらここまで来たんだなと、聴いていて感じましたね」
――本当、そう思います。
「でしょ? だから中堅の僕らとしては、先輩と後輩のいいとこ取りをしていかないと(笑)!」