戦前のアコースティック・ブルースから現代まで、ギター・シーンの“あらすじ”的シリーズ

 ギターという楽器が20世紀以降のポピュラー音楽(大衆音楽)において果たした役割は大きい。それはアコースティックからエレクトリックまでカバーする音色の多彩さ、どんなジャンルにも適応する奏法としての柔軟さ、スター性を生む視覚的なアピール度、全てが同時代の他の楽器の中で抜きんでていたからである。そしてギターは一握りのプロ・ミュージシャンだけでなく、広い底辺を持つアマチュアにまで普及した。それはギターが比較的安価な楽器で、しかも自由に弾くことが許されて誰もがとっかかりやすかったことが大きな理由だ。そして演奏者にとってもリスナーにとっても、感情移入し易い楽器であるということがギターという楽器の人気に拍車をかけた。どこまでもアナログな楽器であるギターは、他の楽器以上に楽曲に込められた感情をダイレクトに伝えることができたのである。そしてギターは、今やポピュラー音楽になくてはならない存在となった。

 この 〈ギター・レジェンド・シリーズ 〉 第1弾には、そんな愛すべき楽器〈ギター〉 をキーワードに、20世紀の初頭から現代まで様々なスタイルでリリースされたギター・アルバムが取り揃えられている。戦前のアコースティック・ブルースに始まり、エレクトリック・ギターでロックが成熟を迎えた60年代から70年代、そして再びルーツを見直す動きが現れた現代に至るまで、英米のポピュラー音楽シーンがギターを中心にどんな形で発展していったか、その “あらすじ” を体感するうえでの絶好のセレクションだ。

 ラインナップされたギタリストは、アコースティック・ギターをある時は爪弾くように、そしてある時は豪快にかき鳴らしたミシシッピ・ジョン・ハート、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、ロバート・ジョンソンなど1920年~30年代のブルース・ギタリストたち。ジャズ・シーンでエレクトリック・ギターの使用とその奏法を確立したチャーリー・クリスチャン。その後にはマディ・ウォーターズ、バディ・ガイなどがエレクトリック・ギターを弾いてバンド形態のブルースを確立。そこからの影響を受けてブルース・ロックのスタイルを作り上げていったマイク・ブルームフィールド、ピーター・グリーン、ジョニー・ウインター。それをロックに発展させたレスリー・ウェスト、リック・デリンジャー、フランク・マリノ。ブルース・ロックとラテンを融合したカルロス・サンタナ。ルーツ・ミュージックを追求したタジ・マハール。デラニー&ボニー、デイヴ・メイスン、ジェシ・エド・デイヴィスらによる、レイドバックの引き金となったスワンプ・ロック。スティーヴィー・レイ・ヴォーンに始まりジェフ・ヒーリー、ドイル・ブラムホール、デレク・トラックスなどにつながるコンテンポラリー・ブルースなど、じつに豪華なラインナップ。まさにコロムビア、エピック、RCA、アリスタなど名門レーベルの数々を傘下に収めるソニーならではの快挙である。

 最近のCD市場を見ていて気になるのは、とにかくベスト・アルバムの多いこと。確かに、懐かしいアーティストのヒット曲だけを手っ取り早く聴きたいという、往年の音楽ファンからの需要もあることだろう。さらに、1曲ずつ曲を切り売りする現代の配信という流通システムがオリジナル・アルバムという枠組みを無視していく。これらが相互に作用し、聴きたい曲だけを聴くという風潮に拍車を掛ける。しかし、果たしてそれでいいのだろうか? 少なくともアナログLP時代のアルバムとは、1曲目からラストまでA面B面を通して聴いてこそのドラマを持つ、1枚としての芸術であったはず。こういった愛すべきオリジナル・アルバムというスタイルを大切にして欲しいという需要も少なからず存在するわけで、それに対する供給がこういう形で大々的に行われるのは、音楽を単なる消耗品ではなく文化と認識するリスナーにとって誠に有り難いことだと思う。

 


ギター・レジェンド・シリーズ

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