かつてのマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン再始動に迫る勢いで、スロウダイヴとライドが5~6月に新作を控えるなど活況を呈する2017年において、シューゲイザーの魅力を次の世代に伝えるための短期集中連載〈黒田隆憲のシューゲイザー講座〉。ジャンルの成り立ちと代表的バンドを紹介した前回(かなりの大反響!)に続いて、この第2回では音楽的なルーツを紐解いていく。あの洪水を思わせるギター・ノイズや、穏やかな浮遊感はどのようにして生まれたのか? 「シューゲイザー・ディスク・ガイド」で共同監修を務めた音楽ライターの黒田隆憲氏に、特徴的な機材やエフェクターの使い方、ルーツとなった先人からの影響をわかりやすく解説してもらった。 *Mikiki編集部

★〈黒田隆憲のシューゲイザー講座〉記事一覧はこちら


 

ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)
Photo by David Corio / Redferns / Getty Images

エフェクターとギターを駆使した、美しい轟音の作り方

シューゲイザーの定義は非常に曖昧で、一般的には〈エフェクターによって極端に歪ませたギターやフィードバック・ノイズを、ポップで甘いメロディーに重ねた浮遊感のあるサウンド〉とされていることは、前回説明しました。では、そのサウンドはどのようにして生み出されるのでしょうか。

シューゲイザーの代表格であるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの司令塔、ケヴィン・シールズは夥しい数のペダル・エフェクターを足元に並べ、それを踏み替えることによってあの革新的なサウンドを奏でているのですが、核となるのは〈リヴァース・リヴァーブ〉と呼ばれるエフェクトと、〈トレモロアーム〉と呼ばれる奏法、そしてファズやディストーションなど歪み系のエフェクターです。

 マイブラの来日公演(2013年2月6日、新木場Studio Coast)時、黒田氏みずから撮影した貴重なショット。(上)ケヴィン・シールズの足元に置かれたエフェクター・ボード。(下)ケヴィンのエフェクター・ラック。特注のフットスイッチを使用し、曲ごとにエフェクターの配列を組み替えている

〈リヴァース・リヴァーブ〉は、リヴァーブ(残響音)を逆回転させたような不思議な効果を生み出すエフェクターのことで、ヤマハSPX900やREX 50など、90年代当時は限られた機材にしか搭載されていませんでした。これを、エレクトロハーモニクスBig MuffやマーシャルShedmasterなどで歪ませたギターに通し、トレモロアームを握ったままコードをかき鳴らす〈トレモロアーム奏法〉を行うことで、“To Here Knows When”や“Soon”などで聴ける、まるで時空がグニャリと捩れたようなサウンドを生み出しているのです。ちなみに、ケヴィンやビリンダ・ブッチャーが使用している、マイブラのトレードマークとも言えるギターは、フェンダーのJazzmasterとJaguarです。

※マイブラのギター/ヴォーカル担当。シューゲイザーを代表する女性アイコンとして知られ、ビリンダ・ブッチャーズという彼女の名前を拝借したUSインディー・バンドも存在するほど

マイブラの91年作『Loveless』収録曲“Soon”。MVの冒頭で映るのがビリンダ、再生から0:45~あたりで映し出されるのがトレモロアーム奏法
『Loveless』収録曲“Only Shallow”のギター・リフを、ケヴィンみずからエフェクターを踏みながら解説したドキュメンタリー映像(英語)。同じ91年に発表されたニルヴァーナ『Nevermind』のプロデューサー、ブッチ・ヴィグがその画期性について語っている

ライドの場合は、歪み系エフェクターの他にトレモロやレスリー・スピーカー(ハモンドオルガンなどに用いられたアンプ内蔵のスピーカー・ユニット)、ワウなどをギターに通す〈王道〉のギター・サウンド。それを爆音で幾重にも重ねることで、オリジナルなサウンドを生み出していました。また、ラッシュやスロウダイヴ、チャプターハウスといったコクトー・ツインズの影響を受けたバンドは、コーラスやフェイザーといったモジュレーション系(揺らし系)のエフェクターを多用していました。

ライドの92年作『Going Blank Again』収録曲“Leave Them All Behind”のライヴ映像