
マイブラの新装国内盤を手に入れるべき理由
英名門インディー・レーベルのドミノと電撃的な契約を果たし、にわかに動きはじめたマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。ここ日本では「ギター・マガジン」2021年6月号の表紙をケヴィン・シールズが飾り、100ページ超の特集が組まれたことも大きな話題になった。Mikikiでは、この機会に10名のアーティストに協力してもらった特別連載〈マイ・ブラッディ・ヴァレンタインと私〉を行って好評を博した。
前作『m b v』(2013年)のリリースから早8年。新作が出る、出ないという話題はもはやお家芸のようだが、ひとまず今回の契約によって、ドミノから『Isn’t Anything』(88年)、『loveless』(91年)、『m b v』、『ep’s 1988-1991 and rare tracks』(2012年)という名作が新装盤CD/LPで再発売された。ストリーミング・サービスでの配信も解禁され、新旧のファンがmbv漬けの日々を送っている。
とはいえ、LPは国内でほぼ売り切れているようなので、いまmbvを聴くならぜひ国内盤CDをおすすめしたい。というわけで、本稿では、今回新たによみがえった国内盤CD 4タイトルの魅力を3つの観点からお伝えしよう。
1. CDでしか聴けない隠しトラック
まず第一に、CDでしか聴けない曲がある、というのがもっとも重要だ。
ファンの間ではすでに話題になっていることだが、『ep’s 1988-1991 and rare tracks』には、なんとCDでしか聴けない隠しトラックが2曲も入っている。スリーヴや解説書にはクレジットされていないものの、本来11曲目の“how do you do it”で終わるはずのディスク2には12曲目と13曲目が収録されているのだ(何も知らずに買って再生したリスナーは驚いたことだろう)。そういうわけで、今回の『ep’s 1988-1991 and rare tracks』は、すでに2012年盤を持っているファンも手に入れないといけない、というファン泣かせのアイテムである。

my bloody valentine 『ep’s 1988-1991 and rare tracks』 Domino/BEAT(2012, 2021)
まず、前提として、『ep’s 1988-1991 and rare tracks』は2012年にリリースされたコンピレーション・アルバムであることを押さえておきたい。2012年にソニーからファースト・アルバム『Isn’t Anything』とセカンド・アルバム『loveless』が初めてリマスタリングされリイシュー、それと同時に『ep’s 1988-1991 and rare tracks』も発表された。
『ep’s 1988-1991 and rare tracks』に収録されているのは、mbvがクリエイションからリリースしたEP『You Made Me Realise』(88年)、『Feed Me With Your Kiss』(88年)、『Glider』(90年)、『Tremolo』(91年)の全曲と、7曲のレア・トラックおよび未発表曲。廃盤だったレアなEPの曲を聴くことができ、さらにお蔵出しの曲を聴けるという、かなり画期的なアルバムだった。
シークレット・トラックの話題に戻ろう。mbvのツアーで世界唯一の公認カメラマンとして活躍し、「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそがすべて ケヴィン・シールズのサウンドの秘密を追って」(2014年)の著書でも知られる、この国におけるmbvの第一人者である黒田隆憲は、2曲について〈『Isn’t Anything』レコーディング時にボツになった曲と、「Don’t Ask Why」の別ミックス。後者は「なるほど!そういうことだったか」ってなると思います〉とコメントしている。
ディスク2の12曲目(仮に“untitled”とする)は、冒頭のオルタナティヴ・ロック調のジャキジャキとしたギターの刻みこそ新鮮だが、その後のうねるギターが作り出す壁のような音像やつんのめったビートは『Isn’t Anything』の“Soft As Snow (But Warm Inside)”に似ており、『loveless』の萌芽がある。他方、甘くドリーミーなテイストやブレイクビーツ風のドラムは、『loveless』の“soon”や“i only said”を予見させなくもない。録音時期を考えると33年間秘蔵されていたであろう、この時期のマイブラらしさが詰まった“untitled”。ファンは必聴だと思う。
13曲目(仮に“don’t ask why (alternative version)”とする)の元になった“don’t ask why”は、『Glider』の収録曲だ。原曲は、逆回転のエフェクトがかけられたサイケデリックなアコースティック・ギター、タンバリン、ケヴィンの歌、そしてビリンダの切なげなコーラスを中心とした、密かに人気のあるアシッド・フォーク・ナンバー。取り上げられる機会は少ないが、ケヴィン・シールズのメロディーメイカーとしての才能をたしかに感じる佳曲だ。
“don’t ask why (alternative version)”では、海外のファンが〈『loveless』化されたヴァージョン〉と指摘しているように、“don’t ask why”に『loveless』的なギターと重いドラムが加わっている。ヴォーカル・トラックなどは、原曲と同じだろうか。
実は、元の“don’t ask why”をよく聴くと、イントロにはドラムのスティックによるカウントが入っているし、バックではうねるエレクトリック・ギターが小さな音で鳴っている。また、3分6秒からギターが現れ、その背後にはドラムの残響のようなものが聴こえる。原曲の音像が奇妙な歪み方をしていることを踏まえると、今回初披露されたヴァージョンこそが〈原曲〉なんじゃないかと予想できる。“don’t ask why”は、これに編集を加えた(その結果、奇妙な音像になった)ものに思えるのだ。

2. 高音質UHQCDのフレッシュさ
次に、今回の国内盤CDのポイントとして、日本でプレスされたUHQCD仕様であることを挙げたい。
SACDを聴くには専用の再生機器が必要になるが、HQCDをグレードアップしたUHQCD(Ultimate High Quality CD)はCD規格に準拠しているので、すべてのCDプレーヤーで高音質再生ができる。それもアドバンテージだろう。
それぞれ2012年のソニー盤(『m b v』は2013年のオリジナル盤)と比べてみたところ、ハイレゾに近いスピード感のある中高域やクリアで立体感のある音像が売りのUHQCDで聴くと、いずれもフレッシュに響く。とくに2012年のリマスターによって音質が大幅に向上した『Isn’t Anything』は新鮮で、中高音域の豊かさもあるいっぽう、低音域のヘヴィーさも増した。『loveless』では、“only shallow”で歌がまっすぐ耳に飛び込んできたことが意外で驚くし、しかもライブ感と没入感を覚える音だ。もともとかなり音圧の低いマスタリングが異色の『m b v』は、新装盤で聴いてみると1曲目の1音目からギターが繊細に聴こえてきた。
mbvにはコルム・オコーサクがライド・シンバルを効果的に叩いている曲が多く、よく伸びる金属音が特徴的だと言える。また、“glider”のような曲には強烈な高音が入っている。これらは、今回のUHQCDで再生すると、より生々しく聴こえてきた。
そして、つい先日、6月7日からApple Musicでロスレス・オーディオの提供が始まった。これによって最高24bit/192kHzのALACでの再生ができるようになっており、mbvの作品も高音質で聴ける(ちなみに、サンプル・レートが48kHz以上の曲を聴くには、DAC=デジタル・アナログ・コンバータが必要になる)。Apple Musicのロスレスと今回のCDを聴き比べてみるのも一興だろう。
細かなちがいもある。Apple Musicで確認したところ、『loveless』と『m b v』の2作は〈Apple Digital Master〉というApple製品に最適化された高解像度の音で配信されている。また、『loveless』と『m b v』はハイレゾ・ロスレスの24bit/96kHzで配信されているが、『Isn’t Anything』と『ep’s 1988-1991 and rare tracks』はロスレスの16bit/44.1kHzだった。16bit/44.1kHzはUHQCDと同音質なので、再生の品質を考えるとUHQCDに軍配が上がるかもしれない。
3. 2枚組CDで聴き比べる『loveless』
もうひとつある。『loveless』については、確実にCDで聴くのがいい。というのも、LPにも配信にもない特徴として、CDは2枚組なのだ。

これはソニー盤も同様だったが、ディスク1は〈remastered from original 1630 tape〉(ちなみに、ソニー盤では単に〈original tape〉だった)、ディスク2は〈mastered from original 1/2 inch analogue tapes〉となっている。前者はオリジナル盤と同じDATテープからのリマスターで、〈1630〉はソニーのPCMプロセッサーであるPCM-1630を表しているのではと推測される。そして後者は、文字どおりハーフ・インチのアナログ・テープからのリマスターである。
この2枚について、〈聴き比べてもわからない〉という声も多いが、ディスク1はオリジナル盤の音圧をアップしたものと考えていい。そして、ディスク2はステレオ感が広く低音もふくよかな、アナログらしい太い音だ。筆者が好きな『loveless』はこちらだし、〈ディスク2こそがベストな『loveless』〉と言うファンも多い。
ところで、もう時効だと思うので指摘しておくと、当時のソニー盤はディスク1と2が逆にプレスされており、さらにディスク1の“what you want”の2分46秒あたりにデジタル・ノイズがのっているなど、いろいろな問題が指摘されており、悪評が高かった(その後のプレスで特に説明もなく、しれっと修正されたようだ)。筆者が持っているのもこのエラー盤なので、今回の再発ではようやく完ぺきな形の『loveless』がリリースされた、と安堵した次第だ。
あくまでも推測だが、配信はおそらく、ディスク1のDATテープのマスターだろう。2つの『loveless』を聴き比べるためにも、ぜひCDをおすすめしたい。

新装国内盤CDで甘美なノイズの海に溺れたい
というわけで、再始動で注目を集めるマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの偉大なレガシーを聴くなら、今回の国内盤CDがベストだ。配信で十分という方にも、アナログを血眼になって探しているという方にも、ぜひ手に取っていただきたいアイテムである。
言うまでもなく、各盤にはライナーノーツが付いており、粉川しの(『Isn’t Anything』)、小野島大(『loveless』)、黒田隆憲(『m b v』『ep’s 1988-1991 and rare tracks』)というヴェテランのライターがたっぷりと、しっかりと、最新の情報を踏まえて解説している。現在主流のストリーミング配信で抜け落ちてしまうのが、作品の背景にある情報や歴史的な知識だろう。そんないまだからこそ、じっくりとライナーノーツを読みながらmbvの甘美なノイズの海に溺れる時間を過ごしてほしい。
RELEASE INFORMATION

my bloody valentine 『Isn’t Anything』 Domino/BEAT(1988, 2021)
リリース日:2021年5月21日
タワレコオリジナル特典:ジャケット絵柄缶バッジ
■国内盤CD(高音質UHQ仕様/帯解説書付き/リマスター音源)
品番:BRC-666
価格:2,530円(税込)
■国内盤CD+Tシャツセット
品番:BRC-666T
価格:7,480円(税込)
■帯付き盤デラックス・エディションLP(解説書付き)
品番:BRDWGLP158X
価格:4,169円(税込)
■帯付き盤デラックス・エディションLP+Tシャツセット
品番:BRDWGLP158XT
価格:9,559円(税込)
TRACKLIST
1. Soft As Snow (But Warm Inside)
2. Lose My Breath
3. Cupid Come
4. (When You Wake) You’re Still In A Dream
5. No More Sorry
6. All I Need
7. Feed Me With Your Kiss
8. Sueisfine
9. Several Girls Galore
10. You Never Should
11. Nothing Much To Lose
12. I Can See It (But I Can’t Feel It)

リリース日:2021年5月21日
タワレコオリジナル特典:ジャケット絵柄缶バッジ
■国内盤CD(高音質UHQ仕様/帯解説書付き/リマスター音源)
品番:BRC-667
価格:2,750円(税込)
■国内盤CD+Tシャツセット
品番:BRC-667T
価格:7,700円(税込)
■帯付き盤デラックス・エディションLP(解説書付き)
品番:BRDWGLP159X
価格:4,499円(税込)
■帯付き盤デラックス・エディションLP+Tシャツセット
品番:BRDWGLP159XT
価格:9,559円(税込)
TRACKLIST
CD 1: remastered from original 1630 tape
1. only shallow
2. loomer
3. touched
4. to here knows when
5. when you sleep
6. i only said
7. come in alone
8. sometimes
9. blown a wish
10. what you want
11. soon
CD 2: mastered from original 1/2 inch analogue tapes
1. only shallow
2. loomer
3. touched
4. to here knows when
5. when you sleep
6. i only said
7. come in alone
8. sometimes
9. blown a wish
10. what you want
11. soon

リリース日:2021年5月21日
タワレコオリジナル特典:ジャケット絵柄缶バッジ
■国内盤CD(高音質UHQ仕様/帯解説書付き/リマスター音源)
品番:BRC-668
価格:2,530円(税込)
■国内盤CD+Tシャツセット
品番:BRC-668T
価格:7,480円(税込)
■帯付き盤デラックス・エディションLP(解説書付き)
品番:BRDWGLP160X
価格:4,169円(税込)
■帯付き盤デラックス・エディションLP+Tシャツセット
品番:BRDWGLP160XT
価格:9,559円(税込)
TRACKLIST
1. she found now
2. only tomorrow
3. who sees you
4. is this and yes
5. if i am
6. new you
7. in another way
8. nothing is
9. wonder 2

my bloody valentine 『ep’s 1988-1991 and rare tracks』 Domino/BEAT(2012, 2021)
リリース日:2021年5月21日
タワレコオリジナル特典:ジャケット絵柄缶バッジ
■国内盤CD(高音質UHQ仕様/帯解説書付き/リマスター音源)
品番:BRC-669
価格:2,750円(税込)
■国内盤CD+Tシャツセット
品番:BRC-669T
価格:7,700円(税込)
TRACKLIST
CD 1
1. you made me realise
2. slow
3. thorn
4. cigarette in your bed
5. drive it all over me
6. feed me with your kiss
7. i believe
8. emptiness inside
9. i need no trust
10. soon
11. glider
12. don’t ask why
13. off your face
CD 2
1. to here knows when
2. swallow
3. honey power
4. moon song
5. instrumental no. 2
6. instrumental no. 1
7. glider (full length version)
8. sugar
9. angel
10. good for you
11. how do you do it


