国民的グループから独り立ちしたイノセント・ヴォイスが、大切な出会いを積み重ねることで瑞々しく芽吹かせたファースト・アルバム!

 声優やアニメに明るくない人でも、「ラブライブ!」という作品から生まれた声優ユニットのμ'sについては、どこかで見聞したことがあるのでは? そのメンバーとして2015年末の「NHK紅白歌合戦」や翌年の東京ドーム公演といった大舞台を経験し、それらと前後する2016年2月にソロ・シンガーとしてデビューしたのが本稿の主役、久保ユリカだ。

 奈良の出身ゆえに〈鹿〉から取った〈シカコ〉の愛称でも知られる彼女。デビュー曲の“Lovely Lovely Strawberry”では、軽やかにスウィングする2ビートに乗せて甘い歌声を披露。続く同年8月のシングル“SUMMER CHANCE!!”では夏気分の快晴ロックと共にチャーミングな魅力をさらに広げつつ、昔から愛聴していたというスムルースの徳田憲治より曲提供を受けたカップリングの上京ソング“記憶コロコロ”においては、郷愁混じりのイノセント・ヴォイスで新たな扉を開いて見せた。その成果と相性の良さは、12月に発表された慈愛の降り注ぐバラード“ありがとうの時間”で、引き続き徳田とスムルースが起用されたことからもあきらかだろう。

 

久保ユリカ すべてが大切な出会い ~Meeting with your creates myself~ ポニーキャニオン(2017)

 そんな彼女がこのたび完成させたファースト・アルバム『すべてが大切な出会い~Meeting with you creates myself~』も、実り多き作品に仕上がっている。Tom-H@ck製の“Happy Cuty My Snow Man”といったカップリングを含む全シングル曲はもちろん、ラインナップには豪華作家陣による新曲が多数。過去に声優ユニットの地下すぎプリンセスで絡みのあった前山田健一は、オタクなネタを仕込んだヒャダイン節全開のハイパー転調ポップ“ジャーーーーンプ アッッップ!!!!”で賑々しくサポート。ミトが提供した“Capture You!”は、彼の西脇辰弥フリークぶりが注入されまくった90s風味のシンセ・ポップで、クリスタルなコーラスワークも含め、ぜひ谷村有美の初期作品と並べて聴いてほしい逸曲に。

 また、ゆる~い胃痛エピソードが歯切れ良く飛び出すポップンロール“Everyday胃痛”は、ラジオ番組「久保ユリカが1人しゃべりなんて胃が痛い。」のテーマ曲も手掛けたサカノウエヨースケが作曲/編曲。もちろんスムルースも駆けつけ、一抹のメランコリーと共に前進するバンドの代表曲“スーパーカラフル”のカヴァーにみずから参加している。

 そして、久保ユリカのファンであればアガらざるを得ない曲がふたつ。まず“セカイのスキがユメになる”は、μ'sの全楽曲の歌詞を書いた畑亜貴が作詞を担当。さらに同ユニット屈指の人気曲“Snow halation”で知られる山田高弘と中西亮輔がそれぞれ作曲と編曲で携わっており、新しい世界への階段を駆け上がっていくような開放感が、控えめに言っても最高の出来栄え。もう一方の“春風メロディ”は、久保が演じた小泉花陽のソロ曲“なわとび”と同じrinoのペンによるブライトなスロウで、別れと新たな始まりをモチーフとした歌詞に、演者としての彼女からの花陽への思いを連想する人も多いはずだ。

 そういった〈大切な出会い〉を楽曲として芽吹かせたアルバムは、本人が初めて作詞に挑戦した“そのままでいいんだよ”で締め括られる。自分自身であり続けることを肯定し、〈キミのおかげで/またボクは救われてんだ〉と感謝の気持ちを歌う彼女の瞳には、きっとたくさんのファンの顔が映っているに違いない。時に可愛らしく〈久保ユリカ〉を演じつつ、楽曲の端々で覗かせる自然体の表情に、放っておけない友人のような距離感を感じさせたり――胃痛を抱えながらもしなやかに逞しく生きる彼女の前向きさが目いっぱい詰まったガール・ポップ集に、あなたもぜひ出会ってほしい。

 

久保ユリカのシングルを紹介。

 

文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。

 


二次元以上。SPRING SPECIAL
[ 特集 ]音楽で楽しむ2017年春の2Dカルチャー

★Pt.2 MYTH & ROID『eYe's』
★Pt.3 fhána“ムーンリバー”
★Pt.4 Tom-H@ck×佐藤純一×太田雅友 特別鼎談
★Pt.5 Pile『Tailwind(s)』
★Pt.6 夏川椎菜“グレープフルーツムーン”
★Pt.7 芹澤優『YOU & YOU』
★Pt.8 ディスクガイド