アニソンとJ-Pop、そしてクリエイティヴィティーの行方

 

太田雅友

カウンター・カルチャーとしてのアニソン

――今日集まっていただいたお三方は、〈アニソン〉とカテゴライズされる音楽もJ-Pop――広い意味でのポップスとして、より多くのリスナーに届けたいという想いを共有しているのではないかと思います。特に、雅友さんはSCREEN modeのミッションとして、以前から〈アニソンの固定概念を覆したい〉という発言をされていますが、これまでの活動の手応えをどのように感じていらっしゃいますか?

雅友「僕が最初にその投げ掛けをしてからもう2年ぐらい経ってるので、いまはわりとおもしろいものも増えたと思ってます。例えば、大石(昌良)君の“ようこそジャパリパークへ”はフォーマット的にも完全にアニソンだけど、アニメという枠を取り払っても普通に良いと思うんですよ。だから星野源さんがラジオで流したりということにも繋がってると思うし。つい1年前に流行ったアニソンをお題にして、〈こんな感じの曲を作ってください〉というような依頼もいまだにありますけど、そうでないものも増えてるとは感じてます」

佐藤「根本的に、アニソンとそれ以外のJ-Popを分ける必要はないと思っています。アニソンのクリエイターとそれ以外のクリエイターで、〈うちらは向こうと違うから〉みたいな話があるとかないとか、そのへんはよくわからないですけど、聴く人にとってはバンドの曲も、アイドルの曲も、アニメの主題歌も、どれも同じ〈音楽〉ですよね。違いがあるとしたら業界的な話なのかなって」

Tom-H@ck「日本人の特質として、受け取り側が何かをジャンル分けしたがるということが作用してると思うんですけど、僕も〈良いものは良いし、悪いものは悪い〉というだけで、音楽的な差はないと思ってます。原作があって、アニメの本体があって、それに対してどんな飾り付けをするか。大きいコンテンツに対してどのような演出をしていくかという〈アニソンの美〉はあると思いますけど。もともとは、アニソン界隈のクリエイターのほうが、それ以外のJ-Popの人たちよりも〈アニソンをなめるなよ〉という反逆心が強かったと思うんです。それが、この5~10年の間でセールスが逆転して、今度はアニソン以外の人たちが〈アニメに越されて悔しいな、俺たちがこのブランドを守っていくべきだ〉とか、隔たりが少し強くなったように思いますね。いろんな人の話を聞いてると、〈そんなに差はないんだから一緒にがんばろうぜ〉みたいなことを僕たち側だけが強く言っている感じがします」

雅友「僕が音楽の仕事を始めたのは90年代のJ-Popの最盛期で、その頃アニソンを作ってたプロデューサーっていうのはメインストリームと逆サイドのカウンター・カルチャーにいたというか。〈自分たちの音楽を作ろう〉っていう熱量があって、その積み重ねが、いわゆるJ-Popを聴いてきた人たちからすると〈アニソンっぽい〉という一言になるひとつの要因なんだと思うんです。例えば、アニソンだとビートが変わらないまま間奏に入ってギター・ソロというのはあんまりなくて、どんどん展開して、複雑になって、転調も入ってみたいなものが多い。カウンター・カルチャーとして出てきた経緯があるからこそ、そういう独自性もあるといえばあると思う」

 

制限があるからこそ……そして、やっぱり愛?

――アニメのテーマ曲を作るときは、アニメの世界観を大事にしつつ、そのなかに自身のアーティスト性をどう入れて、アニメのファン以外の人にもどう届けるかということを考えられるのかと思うのですが、それぞれ、どのように楽曲を作っているのでしょうか?

Tom-H@ck「僕は『けいおん!』で名前が広まったこともあって、〈アニソン作家〉って呼ばれることも多いんですけど、僕のすべての仕事を10とすると、そのうちアニソンの仕事は3ぐらいしかなくて、7くらいはアーティストやアイドル、劇伴の仕事なんですよ。だから、タイアップ作品を作るときも俯瞰的に見ることが多くて、案件によって、どのくらい作品に寄せていくかっていう距離感が変わってくるんです。なので、まずはクライアントさんと話し合って、原作を読んで、〈これならこの距離感がいいよね〉っていうのを最初に自分で決めてやっていくという、僕はその手法が多いですね。〈作品の求めているものがどういう音楽なのかを読み解いてから作る〉というのが、いちばん重要なところなのかなと」

Tom-H@ck

――〈MYTH & ROIDらしさを表現する〉という意味においては、どんなことを意識されていますか?

Tom-H@ck「MYTH & ROIDは〈人間の感情の最果て〉を表現したいんですよね。なので、まずはその軸があって、例えば〈この作品は戦争の狂気的な作品だから、人間の狂気を芸術性を保ったままどのくらい表現できるだろう〉というのを考える。それプラス、原作を読んで、こういうエピソードがあるからこういうことを書こう、というのをミックスしていく。そうすると自動的に、タイアップ作品のかなりディープなところまでいくんですよ」

――fhánaに関してはいかがですか?

佐藤「僕は最初にデビューしたときの楽曲がアニメのテーマ・ソングなんですけど、まずは曲があって、それをアニメに使っていただいた形だったし、その頃はいわゆるバンド・シーンにいたので、自分がアニソンを作るなんて無理だと思ってたんです。お題目とか秒数とか作品の世界観とかいろんな制限があるので。そのなかでも、〈89秒のフォーマット〉が決まっているという点が大きいと思っていて。表現形式が決まっていることによって内容が変わってくるというのは他の芸術もそうなので、〈89秒〉というのはアニソンのひとつの特徴かもしれないですね。ただ、巡り巡ってfhánaとして2度目のデビューをさせていただくことになったときに、アニソンを作ってみたら意外と出来て、むしろ普通のオリジナル曲より作りやすいと思ったんです。例えば、〈いまのfhánaを表現するカッコイイ曲〉を作ろうとしても、選択肢がありすぎて難しい。制限があるからこそクリエイティヴになれる部分もありますよね」

Tom-H@ck「いわゆる〈ジャムの法則〉ですよね。3種類のジャムと27種類のジャムを売った場合、3種類のジャムのほうが売り上げがいい。限定のなかにある自由こそ、本当の自由なんじゃないかっていう」

佐藤「そうですね。だから、自分の意識としては、〈ここに自分の趣味を入れてみよう〉っていうふうに狙って作る感じはあんまりなくて、普通に作れば、手癖とかひとつひとつの細かい選択に自分の好みが反映されていくので、たとえお題目に沿って作ったとしても、その人っぽさは残ると思う。むしろ、そこで残るものこそがその人の本質なのかもしれないなって」

――SCREEN modeに関してはいかがでしょう?

雅友「その曲が作品に合ってるかどうかというのは、結局クリエイターの主観的なものでしかないんですよね。僕の場合は原作があれば読んで、可能であれば原作者が過去に書いた漫画や小説も、その人の思考が掴めるぐらいまで読み込むんです。その人を知ることによって同じ感覚になれるというか(笑)。その主観で〈これはこの作品に合った曲だ〉と自分が心から思えたときに、その作品に寄り添った状態であるというふうに思う。例えば、田村ゆかりさんの“Endless Story”という曲があって、東洋風の雰囲気のあるメロディーなんですけど、作品サイド(「C3 -シーキューブ-」)からはそういう具体的な指示はなかったんです。だけど、出したら即OKで、いろんな人に親しんでもらって、(数字的な)結果も出た曲なんですよね。SCREEN modeで言うと、“Reason Living”は『文豪ストレイドッグス』というアニメの曲なんですけど、あれが何で〈文豪〉に合ってる曲なのかというと、説明はできない。だけどOKが出るわけです」

――そこは理屈で説明できる部分ではないと。

雅友「そうです。僕は『パタリロ!』の“クックロビン音頭”がアニメソングの金字塔だと思ってるんですが、“クックロビン音頭”というのは、もともと原作に出てくるんですけど、漫画なので当然メロディーはないわけですよ。ところが、アニメの“クックロビン音頭”を聴くと〈絶対これだろう〉というメロディーなんですよね。あれ以外は想像できないと思うんです。そうなったときに、〈音楽〉は〈アニメソング〉に昇華されるんだと思う。結局、作品に対する愛なんですよ」

 

佐藤純一

89秒のクリエイティヴィティー

――佐藤さんから〈89秒のフォーマット〉の話がありましたが、アニメのオープニングに使える89秒という尺のなかにいろんな展開を詰め込むことによって、おもしろい楽曲が生まれた部分もあるし、とはいえ89秒のなかでやれることに限界はあるから、徐々に同じような曲ばかり増えてしまったという側面もあると思います。雅友さんとTomさんはその影響をどのようにお考えでしょうか?

雅友「何かのアニメがすごく流行ると、それと似たような曲を欲しがる人が現れるわけですよ、世の中には。しかも、それが89秒となったら、変数の少ない方程式みたいな感じにはなりますよね(笑)。尺も曲もテンポもそこそこ似てて、サビから始まってほしいとかになると、Aメロは8小節ぐらいで、Bメロも8小節、アウトロを入れるか入れないかでサビは……とか限られてくるから、あくまで一般論として、似てはきますよね」

Tom-H@ck「たぶん僕は人間的に根っからの超スーパー・ポジティヴ人間なので、89秒にネガティヴな要素はないと思ってて。〈89秒〉って、人間がおもしろいって感じる、テンションが下がらずに聴ける絶妙な時間だと思うんですよ。そのなかでいかにクリエイティヴを見い出しいていくかというのは、途中で佐藤さんがおっしゃった〈規制のなかでの自由〉だと思っていて。〈~っぽくしてくれ〉っていう依頼は僕のところにもきますけど、基本的に言うこと聞かないですし(笑)、89秒のなかでどんな革命を起こしてやろうかなってことしか考えてないです」

雅友「『けいおん!』の曲を聴いて、僕も曲の書き方が変わったもんね。〈89秒でこれだけできるんだ〉と思ったし、やんなきゃいけないんだなと思って」

――それこそアニソンの枠を超えて、J-Popにも波及していきましたよね。

雅友「すごい影響力だと思いますよ。あの曲がなかったら、前山田(健一)さんもあそこまで振り切れてなかったんじゃないかと個人的には思います。ただ、やっぱり僕は〈アニソン・アーティスト〉である前に、ただの〈アーティスト〉でいたいんですよね。もっと言えば、別に絵を描いてるわけでもないし、音楽を演奏しているわけだから、〈ミュージシャン〉でいたい。そのためには〈アニメがある〉というのを言い訳にしないことは大事だと思います。例えば、EXILEとか三代目 J Soul Brothersと同じクォリティーのことをやれてる人は、アニソン周辺ではごく僅かだと思うんですよ。それに対してはそもそもの才能とか、お金やスタッフィングの問題とか、いろんなハードルがあると思うんですね。でも、〈アーティストでいたい〉というのであれば、自分たちも矢面に立っていかなければいけないと思うし、そういうふうになっていきたいなと僕は思ってますね」

Tom-H@ck「そこは重要ですよね。いまは生ぬるいところで安心してる部分もあると思うから、もっと自分たちにムチ打って、ちゃんとしたクォリティーのコンテンツを生み出していくことが必要だと思います」

 

〈体験〉と〈包摂した物語〉と〈極上のポップス〉

――最後に、皆さんが今後音楽的にやってみたいことをお伺いしたいです。

雅友「僕にとって重要なのは〈体験〉で、SCREEN modeのライヴを観たり、音楽を聴いて、〈こういう感情が生まれた〉という、体験の鍵になりたいと思っているので、特定の音楽ジャンルで何をやりたいかというよりも、何を表現するかが大事なんですよね。あと、僕の根底にあるのは〈歌〉なんです。アフリカの砂漠みたいな楽器のないようなところでも歌はあるし、歌って人類の有史以降、DNAレヴェルで必要とされてると思うんですよ。なので、〈歌を書きたい〉というのが根底で、極端なことを言えば、サウンドは自分がどうしてもできなかったら外注でもいいかなって(笑)」

――佐藤さんはいかがですか?

佐藤「fhánaに関しては、正直だいぶブレブレなんです(笑)。デビューして、アルバムを2枚作ったら、結成の頃に描いていたストーリーに現実が追いついてしまってるので、いまは筋書きも地図もない旅ですね(笑)。それでツアー・タイトルを〈Looking For The World Atlas Tour 2017〉=〈世界地図を探す旅〉って命名して。メンバーだけでなくみんなで地図を探しにいきたいなと」

――でも、2枚のアルバムを作り上げたことによるベーシックがあって、ここからはそれを基盤に、より作りたいものを作れる可能性もあるんじゃないかと。

佐藤「最近は一回リセットされた感じですね。新しいシングルのカップリングに“Rebuilt world”という、〈世界を再建する〉〈スクラップ&ビルド〉みたいなテーマの曲を入れたのは、そういうことなんです。まあ、根底にあるのは〈良い音楽を作りたい〉ということで、アニソンとして作るなら、ちゃんと意味のあることをやりたいし、fhánaの音楽によって、アニメの物語もすべて包摂した大きな物語を作りたいというのは、変わらず思ってますね」

――Tomさんはいかがでしょうか?

Tom-H@ck「K-Popって、昔は欧米のアーティストと戦いようがないぐらいのショボい音楽だったと思うんですけど、それを10年とか15年とかかけて、相当のお金を投資して、育成して、いまは欧米の音楽と完全に差がないなと思うし、日本人は誰一人あのレヴェルに行ってないと思うんですよ。でも、僕は〈究極の極上の音楽〉というのを一生に一度でいいから作ってみたいです。それは経営者とかプロデューサーとしてじゃなくて、いちクリエイターとしていつか叶えたい夢のひとつとしてありますね。海外の人に聴かせて〈これは極上のポップスだ〉って言われるものを、人生で一曲だけでも作ってみたいです」

SCREEN modeの2016年のシングル“Reason Living”(ランティス)

 


Tom-H@ck(MYTH & ROID/OxT)
作・編曲家/プロデューサー。多くのアニメ、アイドル、アーティスト作品へ携わる他、MYTH & ROIDや大石昌良とのOxTといった自身のユニット活動も。

佐藤純一(fhána)
FLEETとしての活動を経て、現在はyuxuki waga、kevin mitsunaga、towanaとのユニット=fhánaの中心的役割を務めている。近年は外部への楽曲提供も。

太田雅友(SCREEN mode)
作詞/作・編曲家/プロデューサー。田村ゆかりなど、アニメ/ゲーム音楽を中心に多数の楽曲を制作。林勇とのユニット、SCREEN modeとしても活動中。

 


二次元以上。SPRING SPECIAL
[ 特集 ]音楽で楽しむ2017年春の2Dカルチャー

★Pt.1 久保ユリカ『すべてが大切な出会い ~Meeting with your creates myself~』
★Pt.2 MYTH & ROID『eYe's』
★Pt.3 fhána“ムーンリバー”
★Pt.5 Pile『Tailwind(s)』
★Pt.6 夏川椎菜“グレープフルーツムーン”
★Pt.7 芹澤優『YOU & YOU』
★Pt.8 ディスクガイド