みずから設定した枠組みから離れることで手にした自由なフォーム──SNS世代がクールな筆致で綴る日常は、ポジティヴに聴き手を巻き込むムードに満ちていて……

 

みずから設定した枠組みの外へ

 地域性に囚われないグローバルな発想を土台に、オルタナティヴR&Bやフューチャー・ベースといった現行のビート・ミュージックに呼応したアルバム『Flesh and Blood』(2016年)が一躍話題となったyahyel。そのメンバーである杉本亘がフロントマンを、大井一彌がドラムスを務める4人組バンド、DATS。yahyel始動以前の2013年より活動をスタートし、バンド・サウンドとエレクトロニック・ミュージックのクロスオーヴァーを模索してきた彼らだが、結成から4年越しで完成したファースト・アルバム『Application』は、劇的な変化を遂げたバンドの現在の姿を映し出している。

DATS Application RALLYE(2017)

「去年1年は試行錯誤が多かった時期で、例えば、日本語の歌詞を書いてみたり、今まで使わなかったハイ・ゲインな歪みを採り入れたり。でも、そうしたアイデアが上手くハマらなかったので、以前のようにメンバーの意見を聞きながらの曲作りを止めて、メンバーが集まった動機である(杉本)亘の曲の良さを突き詰めるべく、メンバーは意見せず、亘に好きなように曲を作ってもらって。そして出来上がったのが、今年3月に出したシングル“Mobile”なんです」(早川知輝、ギター)。

「思えば、“Mobile”が出来上がるまでは、自分たちの内にあったDATSの枠組みに囚われすぎていたんですよね。それに対して、枠に囚われず、自由に曲作りしていたyahyelでの活動経験から、〈あえて自分たちで設定した枠組みに音楽を押し込まなくても、バンドの個性は曲に色濃く反映される〉という気付きがあり、DATSでも振り切れた曲作りにトライしました。僕らは一緒にいる時間が長くて、それぞれがどういう人間で、どういう音楽的嗜好の持ち主で、何をやりたいかはわかっているので、メンバーからアイデアをもらわなくても、僕が独りで制作を担ったアルバムは自然とDATSにマッチしたものになりましたね」(杉本、ヴォーカル/シンセサイザー)。

 ダウンテンポなR&Bからアップリフティングなベース・ミュージック、ハウスまで、しなやかなアプローチでミニマルなビートを構築した楽曲は、yahyel同様、ビート・ミュージックからの影響が大きいが、英語詞を歌う杉本が紡ぐメロディーにはロック・バンド然とした広がりや説得力が強く感じられる。

「確かにメロディーは、自分がこれまで聴いてきたニルヴァーナやレッド・ホット・チリペッパーズ、オアシスやレディオヘッドだったり、90年代のオルタナティヴ・ロックの影響が大きいと思います。もちろん、リアルタイムで体験した音楽ではないんですけど、出会った時点で、この4人のルーツ・ミュージックは共通してましたね」(杉本)。

「僕らはリアルタイムではないアーティストからも深く影響を受けていて。高校時代の僕や亘と同じく、(神奈川の)大岡山のライヴハウス、PEAK-Iに出入りしていたSuchmosのYONCEやYogee New Wavesの角舘健悟さんもそうだと思いますが、なぜか、今の20代前半の世代には、90年代とか60年代とか、そういう過去の音楽が琴線に触れる人間が同時多発的に育っているんですよね。60年代のサマー・オブ・ラヴに対して、90年代前半はセカンド・サマー・オブ・ラヴと呼ばれていたわけで、そこには何かしら今の世代を惹き付けるものがあるのかも」(大井)。

 

4人の個性と物語があってこそ

 エレクトロニック・ミュージックとバンド・サウンドのクロスオーヴァーがストーン・ローゼズやプライマル・スクリームに大躍進をもたらしたセカンド・サマー・オブ・ラヴ。その遺伝子を隔世的に受け継いでいる彼らのサウンドは、クールで洗練されたタッチと濃縮されたポップ感覚が特徴的だ。

「僕らが考えるポップスは、〈これ〉という具体的な特徴があるわけではないんですけど、自分たちが伝えたいことをリスナーに届けるために、一番広く、深く届けられる方法を意識することでポップスは生まれると思いますし、今回のアルバムを作るにあたっては、今の時代にやるからこそ説得力を持たせられる音や、普遍的に伝わる歌詞、そのテーマを僕らなりに突き詰めたつもりです」(杉本)。

「〈SNS世代のリアルな日常〉というテーマを掲げた作品の歌詞は、SNS世代、つまり僕らの日常や感覚を投影するべく4人が分担して書いたんですけど、個人的にはyahyelとDATSは〈陰〉と〈陽〉の関係にあって、人との差異に苦しむ様子、怒りや悲しみを映し出しているyahyelに対して、DATSはSNS世代の日常を風刺して批判するんじゃなく、今の時代のネガティヴな状況をポジティヴなものに昇華して、人を巻き込んでいこうとしている。そうしたバンドのムードは、ネガティヴな要素がなく、いつも楽天的な、この4人が集うことによって生まれているんだと思います」(大井)。

〈いいね〉やスワイプで人と人が繋がったり切れたり、リアルとヴァーチャルが混在するSNS世代の日常。そこで良い/悪いの判断を下すのではなく、虚実をそのまま描き出すと共に、DATSの作品はその先にある確かな手触りのある世界へと聴き手を誘う、目に見えないアプリのようなものかもしれない。リスナーの音楽ライヴラリに一端インストールされたら、その響きがもたらす一体感は、ライヴの現場においてさらに増幅されることになる。

「リスナーの日常に溶け込めるように、DATSには〈ソリッドで洗練させた音源〉と、〈ライヴ〉という2つの軸があって。ライヴにおいて、僕らがDATSであるためには、アルバムの曲をただ再現するんじゃなく、4人それぞれの個性やストーリーが必要で。例えば、僕はルーツにラウド・ロックやメロコアがあるので、ライヴではバンドTシャツを着て、頭をぶんぶん振り回してポジションの低いベースを演奏していますし、4人が楽曲に込めたパーソナルな部分を増幅させることで、より熱いものになっている。音源を聴いたうえでライヴを観てもらえれば、DATSのすべてがわかってもらえると思います」(伊原卓哉、ベース)。

「今は何を伝えるかより最新の手法やマーケティングなんかが先立っていますけど、例えば、かつてオアシスがネブワース・パークのライヴで25万人ものオーディエンスをそのギター・サウンドで強襲したように、人間が人間としてできることを突き詰めて、それを最大限に活かせる場がたくさんあると思うんです。そういうスピリットを忘れずに、これから活動していきたいですね」(杉本)。

 

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