「俺はポップスターとして衒いなく、〈愛〉とか〈平和〉とか〈幸せ〉を歌おうって。このアルバムを作ることで、そういう覚悟はさらに強くなったかもしれない」――今年1月に発表した3作目『OLIVE』の取材の際にそう語っていたSKY-HI。その後に行われたホール・ツアーのファイナル=日本武道館公演ではその決意を改めて宣言していた彼が、早くもニュー・シングル“Silly Game”を完成させた。
ライヴ・バンドのSUPER FLYERSと共に繰り広げるショウアップされたステージを凝縮したような表題曲は、ファンキーなバンド・アンサンブルが留まることなく展開し続けるパーティー・チューン。だが、その上で踊るのは、現在進行形の世界情勢を抉る、舌鋒鋭い言葉の数々だ。
エンターテイメントとしての強度をメッセージの伝播力に転換した“Silly Game”と、武道館という大舞台でリスタートを切ったこの先の展望について、SKY-HIこと日高光啓に訊いた。
80sとポスト・パンク
――日本武道館でのツアー・ファイナル、拝見しました。『OLIVE』のメッセージである〈世界平和〉を今後も歌っていく、と改めて宣言されてましたね。
「そうですね。〈生涯通して〉みたいなところはあります」
――ここで言いたいことが見つかったと。
「〈見つかった〉っていうより、〈辿り着いた〉って感じかな。たぶんだけど、ミュージシャン……に限らずか、人間は本当に大切なことを言うのに衒いが絶対にあると思うんですよね。子供の頃、お母さんに〈ありがとう〉って言うのって勇気要ったと思うし(笑)、大切なことほど言いづらい気がする。それがミュージシャンだと、ジョン・レノン然り、マイケル・ジャクソン然り、Mr.Children然りなのか、日本で言ったら。出会う人の数が圧倒的に多いから、キャリアのどこかで〈大切なこと〉に辿り着く人も多いはずなんですけど、でも、衒いを捨てられないことも多いと思うんですよね。服脱げないみたいな(笑)。俺もまさにそういうタイプだったけど、紆余曲折あって、〈LIVE〉と〈I LOVE〉を内包した『OLIVE』みたいなメッセージがナチュラルに自分から出てきて、それ自体も平和の象徴だったりするから、導かれるように、なるべくしてそうなれた。人生、『OLIVE』を出すための30年間だったっていうのはあると思います」
――そうしたメッセージをバンド・スタイルでとんでもなくショウアップしてみせたステージが先日の日本武道館公演だったと思うんですが、今回の新曲“Silly Game”はその経験があってこそ……と言いますか、サウンド的には地続きのものかと思いました。それこそ、〈フィーチャリングSUPER FLYERS〉と言えそうなナンバーで。
「そうですね。最初からそう思って作っていたわけではないんですけど、出来上がってみたら地続きだったっていう。サウンドの話だけすると、最近はロック・フェスに呼んでもらえることが多くなったから、ロック・キッズが踊りやすいような曲を作ろうとは思ってて。でも、BPM150とか160とかの、4つ打ちでちょっとラウドめのロックみたいなのは俺の仕事ではないなと思ったから……まあ、それっぽいのもデモで何曲か作ったんですけど」
――ロック色の強いものを?
「衒いなく言えば、マルーン5みたいなのを(笑)。しかもちょっと前の、青春ロック系の頃のマルーン5をいくつか作ったんですけど、自分がシングルとして出すのは嫌だなと思って、全部ボツにして。自分のDNAに真摯に向き合わないとダメだわ、と思って作り直してたら、80sのプリンスとか西海岸ロックが最初に出てきて。あと、これはメッセージのほうの話になっちゃうけど、同じ時代に大西洋隔てたUKではポスト・パンクのムーヴメントが起こってたっていうのはおもしろいな、と。80sのMTVロックとか、プリンスのあの時代の曲とかはメッセージ性の〈メ〉の字もないっていうか、もう〈ゴー! ゴー! レッツゴー!〉だから(笑)、それも俺の仕事じゃないなと思ってたんだけど、ポスト・パンクの憂鬱な感じとかはなんだか現代とリンクするところもあるし、精神的にはそっちのほうがフィールするなあと思ったから、2ヴァース目からそういうトピックを混ぜたり、デモの段階からドラムにディストーションかけたり。そういう質感に近付けながら曲を一回作ったら、歌詞がない状態でわりかし出来が良かったから、もうアレンジャーを経由しなくていいかも、と思って……そう、それこそツアーのリハ中でバンド・メンバーとよく会ってたからかもしれないですけど、ちょっと少人数でスタジオに入って合わせてみたらもう曲が完成しそうだったからそのままレコーディングして、みたいな感じです」
――資料にある〈2時間半のライヴを4分に収めたような曲〉という表現がまさに、と思える賑々しい楽曲ですね。
「〈ライヴのほうが良い〉って言ってもらえるのは嬉しいんだけど、ライヴのヴァイブスが曲に現れないっていうのは問題だと思うから、ライヴのときのテンションでやれるような環境に極力近付けて。生演奏なのもそうだし、あえてめっちゃ展開するようにしたのもそうだし」
――楽器それぞれの見せ場もありますしね。
「2番のリフは、ギターで再現するのが大変そうでしたけど。俺、作るときは鍵盤で弾いてるから、ホーン的なフレーズはいいんだけど、ギタリストはいつも苦労してますね。〈なんだこれ!?〉みたいな。俺は全然、〈ジョン・フルシアンテみたい〉と思って作ってたんだけど(笑)、Takさん(“Silly Game”の共同プロデューサーであるSUPER FLYERSのギタリスト、Tak Tanaka。ほかにも多くのサポートや、Yasei Collectiveのメンバーも含む自身のバンド、ZA FEEDOとしても活動)は大変そうで」
――あのTakさんでも。
「うん。〈すげえフレーズだな! これはギタリストからは出ない発想だ!〉って言ってました(笑)。でも、楽しんでやってくれるから嬉しいですね」
――あのリフはすごく印象に残りますね。ギター・リフなのに、鼻歌で口ずさんでしまう、みたいな。
「なんかわかる(笑)。それはね、うん、そうしたかったですね」
――そこにポスト・パンク的なざらついたプロダクションが施されて。ちなみに、オリジナル・ニューウェイヴ~ポスト・パンクもリスナーとして通っていらっしゃるんですか?
「やっぱり、カニエ・ウェストとか聴いてたら、ナチュラルにポスト・パンク周辺も聴きますよね。作品で言うなら『Yeezus』(2013年)。最初に聴いたときは〈なんだこれ?〉って思ったけど、そこから遡っていって。昔の曲も意識的に聴かなきゃとは思ってないけど、俺がもともと60sや70sの音楽を好きになったのもファレル・ウィリアムスのおかげだし、各種ヒップホップ・アーティストのおかげで90sも……とか考えると、それと同じ流れです。これは音楽家に限らずですけど、全生命体の仕事って、先人から受け継いだものを後ろに渡していくこと、それをみんなで繰り返していくことじゃないかって。それが尊いとかじゃなくて、ただそれだけなんだけど、優れたミュージシャンはそういう部分の強い人が多いんじゃないかな」
〈非常識〉でも〈不条理〉でもいい
――で、そうしたポスト・パンク的なプロダクションと80sのプリンス~西海岸ロックのテイストとが混じり合った結果、踊れるパーティー・チューンになりました。
「メッセージが強くなると思ってたから、どんなサウンドを経由したとしてもパーティー・チューンにしようと。今は強いメッセージ・ソングをただ投げて、アンテナ張ってる人だけに届いてもしょうがないから」
――『OLIVE』に収録されていた“How Much??”もそういう曲ですよね。
「そうですね、まさにそうでした。“How Much??”と、もうちょっとメッセージの強い、踊れる社会派ソングを並べて演りたくて。俺が音楽を好きになったのってたぶん、そういうところなんですよね。Mr.Childrenとかそうだったし」
――メインストリームから社会問題に斬り込んでいくという。
「“everybody goes ~秩序のない現代にドロップキック~”(94年)を小学生のときに聴いて、〈すごい、援助交際の話とかしてる〉みたいな(笑)。〈こんなこと言っていいの?〉みたいなハラハラがありましたよね。それこそ“How Much??”では“マシンガンをぶっ放せ”とか引用してるけど、たぶん、曲としても無条件に盛り上がれるものじゃなかったら、小学生の頃の俺は聴けてないから。今なら北朝鮮のミサイル云々とか、共謀罪云々とか、政治の話を身近に感じてる人が昔より多い感じはするから、なんか、書かないほうが不自然だし。1番は〈出家〉とか〈自殺〉のニュースを観て、勝手にそうなってった歌詞で。もう人ごとには感じなかったっていうか、おんなじような気持ちになる瞬間っていうのはすごくある。俺はたまたまそうならなかっただけで、世の中の、普通に暮らしてる人にもそういう予備軍はたくさんいるはずだと思って。1番は全部その話ですね。〈非常識な不条理を愛せ〉の部分には、いろんな感情がこもりました。両方の意味で言ってるから。〈仕事の途中で抜け出すなんて非常識だ〉とか、〈5万とかの給料で働くのが芸能界の理なんだ〉みたいなことを堂々とTVで言える人がいるのはホントに怖いなと思ったから、そこで言う〈常識〉や〈理〉を受け入れるキャパがある人は〈そのまま愛せ〉って捉えればいいと思うし、キャパがなくなった人はもう〈非常識〉〈不条理〉でいればいいじゃないかと思う。そういうことをちゃんとメッセージにできるような気がしたから、そしたらだんだんミクロからマクロへ行ったっていうか、2番はもう森友学園から入り(笑)、北朝鮮、ミサイルでアメリカ、プレイメイト事件からトランプとか、もう数珠繋ぎみたいに書くことがどんどん出てきて。で、最終的に〈生きて死ぬまで通し稽古?/カメラ回せアクション、興味ねぇよ〉で終われれば1番と整合性がつくから、まだ上半期だけど、個人的にはいまのところ2017年のベスト・ヴァースですね。探ったら(トピックが)いっぱい出てくるみたいな(笑)」
――(笑)2017年の上半期そのものが詰まってる、みたいなところもありますよね。芸能的な話から政治的な話まで。
「そうなりましたね」
――そこはやっぱり、言っておかなきゃっていう?
「どっちなんでしょうね。でも、書こうと思って書いたというよりは、時代に呼ばれて作った感覚はあります。『OLIVE』みたいなメッセージもそうだし、この曲もそう。決してね、〈ラッパーだからコンシャスに、社会派じゃないと〉とか思ってるわけじゃないんだけど。ただ、こういうハードなことを書くラッパーがもっと日本にいてもいいとは思いますね。まあ、Lick-Gみたいな高校生上がりの子とか、22~23ぐらいまでの若い子が勢いだけみたいなことをバーッて言うのはいいと思うんですけど。BAD HOPみたいなノリとかね」