いまも世界中で愛される名曲〈マシュ・ケ・ナダ〉を筆頭に、ブラジル音楽とモダンなポップ・ミュージックとの橋渡しを半世紀以上にわたって果たしてきたセルジオ・メンデス。その存在感は、単にブラジル音楽の巨人というにとどまらず、世界にはばかるさまざまなボーダーを越境し、異なる音楽や文化を結びつける冒険家のようだ。

5年半ぶりの新作となる『In The Key Of Joy』(日本先行発売)は、日本盤ボーナストラックにSKY-HIが参加ということで早くから話題になっていたが、アルバム本編にもコモン、カルリーニョス・ブラウン、コロムビアの人気デュオ、カリ・イ・エル・ダンディー、さらにはブラジルの伝説的な鬼才エルメート・パスコアールやジョアン・ドナートらが作曲や演奏で参加。世代も国境も超え、カラフルで生命力に溢れた傑作となっている。

新作のプロモーションのために来日したセルジオ・メンデスへのインタビューは、新作の経緯や音楽を作る上での喜び、そして分断される社会で音楽が果たすべき役割にまで話題は及んだ。

SERGIO MENDES 『In The Key Of Joy』 Concord/ユニバーサル(2019)

 

インスタントじゃない音楽の作り方が好きなんだ

――5年半ぶりのニュー・アルバム『In The Key Of Joy』のリリース、おめでとうございます。この5年半というスパンは、セルジオさんにとっても久しぶりという感覚でしょうか?

「ちょっとだけね。でも、すごく久々だという感じじゃない。なぜなら私はこのアルバムの制作に2年をかけていた。それに5年も待つと時代が変わってしまうというのは、たぶん、若い世代にとっての話だ。私は長いキャリアでたくさんのアルバムを作ってきたし、今はそんなに焦って作品を作りたくないんだ。

今は昔とは違ったビジネス・モデルになっているよね。シングルをいっぱいリリースしなくちゃいけない。そんな時代に、私が時間をかけてアルバム作りをできたということは幸福でもあるし、誇らしくもある。いいアルバム作りには時間が必要だから。

ブラジルに行き、LAに戻り、日本に来てゲスト・アーティストとして参加してほしい才能を探した。そういう工程が私は大好きなんだ。インスタントじゃない作り方がね。インスタントな音楽は好きじゃないんだ」

『In The Key Of Joy』収録曲“In The Key Of Joy (Feat. Buddy)”

――セルジオさんの作品に参加したいミュージシャンはたくさんいるんじゃないですか? 過去のブラジル'66やブラジル'77時代の傑作の数々は今も多くのリスナーに愛され続けているし、新しいファンも産んでいますから。それこそ新作にはコモン、カルリーニョス・ブラウンが参加しており、日本からはSKY-HIも“Sabor Do Rio”のリミックス・ヴァージョンに参加しました。

「YES(笑)。歳をとればとるほど、YESが強くなるよ。みんながこのアルバムのタイトル通り、喜びの精神を運び込んでくれた。祝祭的で、ハッピーで、ダークなものがない。SKY-HIもそう。

2年前、日本からもゲストで誰かラッパーに参加してほしいと思い、日本のユニバーサル・ミュージックのスタッフに相談したんだ。3人の候補があがってきて、それぞれのビデオを観た。SKY-HIは見た瞬間に〈彼だ!〉と感じたよ。彼とのコラボレーションは素晴らしい体験だった。

私は、異なるカルチャーを持ついろいろな世代の人たちと一緒に音楽を作るのが好きなんだ。好奇心旺盛なんだ。いつだって他の人から学んでいたいよ」

『In The Key Of Joy』収録曲“Sabor Do Rio (SKY-HI Remix)”

――最新のサウンドにも常に注目をしているということですか?

「うーん。YESでもあり、NOでもある。私はファッションとしての音楽のフォロワーではいたくないから。自分自身の作品を作り出したいんだ。

ずいぶん昔、ジャズ・サックス奏者のキャノンボール・アダレイと一緒にアルバムを作ったことがある。まだ私は21歳だった。彼が〈一緒に仕事をしよう〉と私を招き入れてくれたんだ。あれはすごい経験だったよ。そういうことが私の人生にはよく起こる。

ウィル・アイ・アムが私の家に来たときに、〈あなたの音楽が好きだ。一緒にやりましょう〉と言ってくれた。そういうオーガニックな巡り合わせが大事なんだ」

※編集部注:キャノンボール・アダレイの62年作『Cannonball's Bossa Nova』のこと。同作は、〈Cannonball Adderley With Sergio Mendes & The Bossa Rio Sextet〉などのタイトルでもリイシューされている

2008年作『Encanto』収録曲“Funky Bahia (Feat. will.i.am & Siedah Garrett)”